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遺伝子編集でCO2の土壌吸収力UP

遺伝子編集はCRISPR-Cas9以降に飛躍的に実用性が増し、様々な分野で新しい実験が行われています。

つい最近、こんな興味深いニュースが流れています。

ようは、
イネの遺伝子編集でよりCO2を土壌に吸収できるようにして温暖化ガス問題に貢献する、
という話です。

CRISPR-Cas9の発見ものがたりは、過去にも触れたので引用にとどめておきます。

ただ、この技術が出る前から、農作物の遺伝子を改変する試みは長年取り組まれてきました。

以前は「遺伝子組み換え」という言い方をしており、日本では食品表示で見たことがあると思います。
今回の「遺伝子編集」と混同されがちなのでその整理をしておきます。

農業水産省がその誤解を避けるリーフレットをこちらで公開しているので、今回は主にこれを使います。

まず、こちらをご覧ください。

出所:農林水産省「ゲノム編集」

このように、実は遺伝子(DNA内の塩基配列と定義)の改変は、そもそも生物内で起こっている自然現象です。

ただ、自然による突然変異を待つのは非効率なので、特定の性質を備えた者同士を交配(植物だと花粉をめしべにつける)させることで、品種改良を行ってきました。 「米の品種」で馴染みだと思います。

上記のやり方は、それでも自然の交配に任せるため、必ずしも期待通りに栽培できるとは限りません。

そこで、人工的に放射線をあてたり薬品を使うことで突然変異の割合を高める手段がとられました。
もう一歩進めて、直接的に他の生物のDNAを人為的に組みこむ、というやり方が「遺伝子組み換え技術」と呼ばれるものです。

出所:同リーフレット

上記で違う性質を持ったナシ同士を交配させるなら、おそらく心理的に不安はないと思います。
ただ、遺伝子組み換えは、よりその組み合わせ自由度が高まるため、漠然とした不安が出てくるのだろうと思います。

一応国内では、遺伝子組み換え食品については国への安全審査という手続きを義務付けています。(あくまで投稿時点)

今話題の遺伝子編集技術がこの「遺伝子組み換え」と異なるのは、外から遺伝子を持ち込むのでなく、既存の遺伝子の塩基配列をカットすることです。

出所:同リーフレット

ただ、それでも100%安全かというと、その場所を間違うこともあります。
これは「オフターゲット変異」と呼ばれており、遺伝子編集技術を施して提供している食品事業では、これを分析&開示しているところもあります。

上記リーフレットの例をそのまま使うと、例えば20個の塩基配列を同定するには、1個あたり4種類の塩基があるため、単純に4の20乗(約1兆)の組み合わせが考えられます。
つまり、間違って別の配列となるのは約1兆分の1の確率です。

こういった話は、おそらく慣れてないと心理的な不安が残るかもしれませんので、このあたりにとどめておきます。

以上を踏まえて、冒頭の記事に戻ります。

今回は、光合成でCO2吸収率が高くなるイネを遺伝子編集技術で探索します。
ただ、仮に土壌に固定しても、そこにいる微生物が大気中に戻す流れもあるため、微生物の遺伝子編集技術も検討するそうです。

あえて遺伝子編集でもぬぐえないリスクを言えば、この生物が培ってきた自然のバランス(生態系)を壊すことによる影響だと思います。

よく話題に出るのが、遺伝子編集でマラリヤ蚊を撲滅する「遺伝子ドライブ」とよばれる手法です。

これがもたらす影響がまだ見えてないので、実行には慎重な態度をとっています。

人類が獲得したこの強力な技術は、これから多分野への利用が期待されています。
ただ、最後の例のように、用途によっては国境を越えたインパクトが強すぎるので、ある程度の国際的なブレーキだけは持っておきたいですね。

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