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遺伝子編集技術CRISPRと特許争い

遺伝子工学が様々な分野に応用されているのは、みなさま何となく感じていることと思います。

その背景として確実に言えるのは、遺伝子編集技術のコスパが急速にたかまったことで、その立役者が「CRISPR(クリスパー)」という技法の発明です。

その貢献者としてノーベル賞も受賞したダウドナ教授のインタビューが最近記事になっていましたので紹介します。

要は、
CRISPRの基本特許への裁定が自身でなく他大学に有利であったことに対して疑義を唱えている、
という話です。

ちょっと意外な記事でした。2020年にノーベル賞も受賞しているので、みながダウドナ教授または所属研究所に帰属していると思い込んでいました。

その話を深堀する前に、そもそもCRISPR9の偉業について簡単に触れておきたいと思います。

正式には、CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)と呼ばれます。

シンプルに言うと、DNAにおける任意の個所を「簡単に」切断できるツールです。たまに誤解されますが、遺伝子編集技術自体は20世紀末から登場してましたが、時間とコストがかかっていました。その工学的なイノベーションだと思ってください。

実は、もともと日本の研究者による奇妙な発見から物語は始まります。

CRISPRとは、”Clustered regularly interspaced short palindromic repeats”の略称で、1987年に石野教授が細菌で発見した不思議なDNA配列(同じ塩基配列が続く)が発端です。

その繰り返し部に酵素の存在が確認され、Cas(CRISPR-associated)と名付けられます。あとはバージョンによって数字が付けられて正式名称になります。

残念ながらこの不思議な配列はあまり深堀されず、ダウドナ教授の登場までひっそりと眠っていました。

ダウドナ教授は、元々RNAの研究をテーマにしていました。

シャルパンティエ教授と共同研究の過程で、この不思議な繰り返し配列を含んだRNAとCas9が、外敵のDNAを切断して守る免疫機能をもっていることを発見したのです。

この機能を「遺伝子編集技術」に応用しよう、という発想がまさに発明の根幹です。

あとは、応用で細かい話なのでえいやで丸めますが、指定(標的)の場所につれていくRNA、到着時にDNA切断・挿入するRNAをCRIPRのエンジンで、そこに挿入(編集)したいDNA情報を組み込んで構成されます。

繰り返しですが、この機構をもとにして、簡単かつ早く実現できることが画期的な発明です。

そして冒頭記事に触れた特許論争に戻ります。

実は、別の大学でも近しい研究を2012年ごろに行っていました。
そして、初めてRNAのCRIPR/Cas9を機能させたという証拠の差で、2022年2月28日に他大学の優位性を示す判決が米国特許商標庁で下されたわけです。

詳細については下記のNewsなどで解説されてますので紹介しておきます。

特許の優位性については、上記記事にもある通り国の法律によっても異なるので厄介です。

こういうニュースを聞くたびに、知財の国際法をもう少し標準化してあげて安心して専門研究に集中できる環境を作ってあげたいと心から思います。

最後に、有名な伝記作家アイザックソンがダウドナ教授のストーリーを書籍化していますので紹介しておきます。
この”CODE BREAKER”という表現が、「暗号」だけでなく「規約」とも解釈すると、今回の特許論争と絡めて一層深い言葉に見えます。


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