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生物の力を借りた新時代の計算革命

以前に、コンピュータの計算素子「半導体」に生物の脳細胞を埋め込んだ「半生物コンピュータ」の開発について紹介しました。

この脳細胞は、人工培養したものです。

ここまでくると、(倫理的評価はいったんさておき)、生物の脳細胞だけでできたコンピュータに夢が膨らみます。

「三体」というSF小説について過去取り上げました。

実は、この作品内では、数百万の生きた人間がそれぞれ計算素子(0か1かを表す手信号)となってコンピュータの役割を担う奇想天外なアイデアが登場しています。(元々はこの作品前の短編集でお披露目)

そんなSFのシーンをある意味超える、人工脳細胞を合成したコンピュータの開発に成功したことが話題になっています。

ようは、
人工的に合成した細菌群を作って、バイオコンピューターを実現した、
というはなしです。

1つ1つの細菌が二進数を表現する神経細胞に相当し、それを14個つなぎ合わせることで、AI(人工知能)ではデファクトになったニューラルネットワークを形成しました。

まずはこの細菌を人工的に合成して設計したことがすごい点です。

この技術はいわゆる「合成生物学」と言われます。過去の関連投稿を参考までに載せておきます。(今回の研究グループは登場人物とは違います。道を切り開いた方のお話です)

今回は、遺伝子組み換え技術(生物に外部からDNA混入)なので、完全にゼロから合成したわけではありません。ただ、外部から細菌の動きをコントロールして計算機能を持たせることができます。具体的には、蛍光たんぱく質を遺伝子技術で組み込んで、色の違いで回答を表現させています。

そしてそれらを単一のビーカーに混ぜて、14個のノードから構成される生物由来のニューラルネットワーク(面白いことに由来は元々生物です☺)と同じ役割を担わせたわけです。

今回の実験では、素数の判定や組み合わせ最適問題を解かせるというなかなか高度な問題解決を行いました。

元論文内の図

ちなみに、今回計算素子として細菌を選択したのにはそれなりの理由があります。

まずは、細菌、特に大腸菌は結構研究されつくしているため取り扱いが相対的には慣れています。

そのサイズはマイクロメートル(百万分の一)というスケールのため、サイズもコンパクトなコンピュータが設計できます。

しかも、生物としての自然免疫機能を有しており、外部からの攻撃にも防ぐ能力があります。ここは人工的にもっと防御する機能は追加実装できそうです。

そして何より、このコンピュータは、超エコです。

何が言いたいかといえば、この研究は次世代コンピュータとしての大いなる可能性を秘めているわけです。

生物を工学的に取り扱うため色んな議論は必要ですが、コンピュータはある意味天然資源と同様の価値を持っています。

ぜひとも建設的な研究と議論が広まってほしいですね。


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