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ブレークスルー賞2023の解説:基礎物理・数学

前回、ブレークスルー賞の生命科学分野の解説をおこなったので、今回は残りの「基礎物理」「数学」について触れます。

今回も前回同様、下記の公式サイトを主に参考にしています。

1.基礎物理学分野

今回は、「量子情報理論」を開拓した4 名に贈られました。

まず、「量子情報理論」という言葉からなじみにくいと思いますが、量子力学に情報理論を持ち込んだものです。
例えば、今話題となっている量子コンピュータや新しい通信方式などもこういった基礎研究が貢献しています。

まず、Charles H. Bennett 氏と Gilles Brassard氏 から紹介します。
Stephen Wiesner(2021年に死去) が1970年代に考案した量子マネーのアイデア(任意の量子状態の複製が出来ないことを偽札防止に応用)を活用して、量子暗号の実用性に近づけました。
現在電子商取引などで一般的に使用されている暗号(RSAが主流)は、今後コンピュータパワーが高まるとその鍵が破られるリスクはありますが、この量子暗号方式では原理的に破られることはありません。
また、彼らが 1993 年に発表した量子テレポーテーションも評価されています。
初耳の方には興味深い名前だと思いますが、要は量子もつれという不思議な現象を通信に活用したものです。光速すら超えて移動するようにみえるため、テレポーテーションと名付けられました。
これ以上は、過去に軽く説明した投稿の引用にとどめておきます。

量子テレポーテーションの根幹にあたる「量子もつれ」は、それ自体には通信能力がないにもかかわらず、有用で定量化可能な資源であることを彼らが示し、量子情報処理という研究分野を開拓しました。

3人目のDavid Deutsch氏 は、量子計算の基礎を築きました。彼は、チューリング マシンの量子バージョン (ユニバーサル量子コンピューターと呼称) を定義し、量子力学の法則に従う物理システムを任意の精度でシミュレートできることを証明しました。
そして、そのようなコンピューターが、驚くほど少数の量子ゲート (多くの状態の量子重ね合わせを一度に利用する論理ゲート) のネットワークと同等であることを示しました。

4人目のPeter Shor 氏は、有用な最初の量子コンピューター アルゴリズムを発明しました。Shor のアルゴリズムは、従来のアルゴリズムで可能であると考えられているよりも指数関数的に速く、大きな数の因数(掛け算の要素)を見つけることができます。
彼はまた、量子コンピューターのエラー訂正技術を設計しました。これらのアイデアは、今日の急速に発展する量子コンピューターへの道を開いています。


2.数学分野

数学分野はDaniel A. Spielman氏1名のみです。
幾つかのアルゴリズムを考案し、数学だけでなく、コンピューティング、信号処理、エンジニアリング、さらには臨床試験の設計における分野にまで応用されています。

その中でもSpielman氏が貢献したなかで有名なものは、「スペクトルグラフ理論」と「カディソン・シンガー問題」と言われているものです。
が、各トピックの解説サイトを見てもうまく説明できる自信がないため、Wikiの引用にとどめておきます。数学に関心のある方はぜひ深堀してみてください。

ちなみに、後者の問題は、元々ディラックの量子力学研究から派生したもので、基礎物理含めて今回は「量子」が頻出します。偶然かどうかは分かりませんが・・・。


以上が、前回含めて主な3分野の発表ですが、実は他に2つ賞があるので軽く紹介して終わりにします。

まず、6 つのNew Horizons賞 (賞金$100,000) が、それぞれの分野に大きな影響を与えた 11 人の科学者・数学者に贈られました。比較的若手研究者を対象にしています。
そして、3 つの Maryam Mirzakhani New Frontiers 賞 (それぞれ 50,000 ドル) が、最近博士号を取得して重要な成果を上げた女性の数学者に授与されました。

賞金総額でみると、ブレークスルー賞は最大の科学賞になりました。今年の賞金総額は 、最後の賞も含めると約1,575 万ドルになります。

どのような選考プロセスかまでは追いかけてませんが、最後の若手・女性向けに賞を与えるというのはとても好感が持てます。

特に基礎研究はなかなか資金面での苦労が多いため、こういった賞が少しでもそういった研究者への希望になれば嬉しいです。

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