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【書評】グレゴリー・ベイトソン『精神と自然』--多すぎても少なすぎてもダメ

 岩波文庫になったのを機に、ベイトソンの『精神と自然』を十年ぶりに読んでみた。やっぱりいい本だなと言うのが、正直な感想である。
 ベイトソンは生物学者であり、人類学者であり、かつまた精神医学者という人で、そう言うとものすごく広い範囲の話をしている感じがするが、この本ではそうした分野を貫いてどういう原理が働いているかについて語っている。
 それを一言で言えば、人間と自然は対立したものではない、全ては相互作用の中で生きているのだ、というもので、これはなかなか読んでいて気持ちがいい考え方だ。
 ベイトソンは言う。現代人はアウグスティヌス的な考え方を失ってしまった。「生物世界と人間世界との統一感、世界をあまねく満たす美に包まれてみんな結ばれ合っているのだという安らかな感情を、ほとんどの人間は失ってしまっている。」美によって全てが結びついているというのはとてもいい。
 そうしたものは生物としての法則に貫かれている。生物において、ものごとは多ければ多いほどいい、ということは決してない。多すぎれば害になり、少なすぎればまた害になる。あくまでちょうどいい、というのが大事なのだ。
 けれども人間の奉ずる、たとえばお金の原理では、多ければ多いほどいいということになる。これは単純に世界を貫いている原理に反している。だから究極的にはうまくいかない。
 こうした話はすごく説得力があるように思える。普通、我々は、お金がたくさんあれば豊かになると考える。だか生物としては、たくさんありすぎるお金は貧しさを表す。あるいは強すぎる軍備は弱さを表す。そして、大きすぎる組織は非効率を表す。
 つまり、我々が頭の中だけで作り上げた量的拡大に基づく資本主義は、端的に生き物としての地球には合っていない、という彼の原理的な批判は説得力がある。
 その他、遺伝はDNAに基づいているが、教育はそうではないので、全ての教育は失敗する、だから失敗した教育こそ成功している、という考え方や、人間とイルカ、猿と犬といった異なる種の間でさえ遊びの関係は存在できるという話など、興味深いエピソードがいくつも続く。現代における科学的思考を学ぶ上でも、かなり有益な本なのではないか。

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