見出し画像

【書評】坂口恭平『苦しい時は電話して』--日課が大事

 坂口恭平の作品を読みだしたのは、もう10年以上前になるだろうか。『0円ハウス』(リトル・モア)という写真集を見て度肝を抜かれた。ホームレスのおじさんたちが手作りで建てた、小屋と言うかテントに突入して行っては、どう作ったのか、どう暮らしているかをインタビューする。それだけではない。自分なりに車輪付きのモバイルの小屋まで作ってしまう。こんなに勇気があって活動的な人って世の中にいるんだ、と思ったらものすごく愉快になった。
 それ以来、坂口恭平の著書を大量に読むようになった。東日本大震災のあと、日本政府の対応に苛立ちを感じて、自分で新政府を設立し、そのうえ勝手に総理大臣にまでなってしまい、熊本の家にたくさんの人を迎え入れて共同生活を始めた、というのにもびっくりした。言うだけではなく、実際にやる、という言行一致が清々しくて、本当にかっこいい人だなぁ、と長いこと思っていた。
 だからこそ、躁鬱について彼が書き出したときには驚いた。実は鬱のときは動けないとか、考えられないとか、そんな裏側の事情があったのか。でもそう聞いて親しみがもてた。もちろん僕にだって辛いときはあるし、自分を責めてしまうときもある。何も考えられない、何もできない、とぐるぐるネガティブな想念に落ち込んでいく。そうするととても辛い。あんなにアクティブな坂口恭平にもそうした弱い面があると知ってより好きになった。
 『苦しい時は電話して』(講談社現代新書)を何気なく手にとって、また驚いた。もちろん病院に行くのもいいし、薬を飲むのもいい。しかし自分なりにできることは何だろう、と彼が何年もかけて手探りで見つけていった、いろんなやり方が書いてある。僕がすごくいいな、と思ったのはこれだ。
 自分にとって気持ちいい起きる時間と寝る時間を決める。そこを起点に細かく日課を決める。日課ができたら、基本的にはとにかく毎日繰り返す。しかもその中に、何かを作る時間を必ず1時間は入れる。本当にその通りだなぁ。
 同時に、気づけば自分も知らず知らずのうちにそうした実践をしていたんじゃないかな、とも思った。僕もだいたいは毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きる。事務仕事なんかが続くとイライラしてきてしまうが、エッセイなど、自分が思ったこと書く仕事をしていると気分がいい。そして結局のところは、家と大学を粛々と往復しているだけの暮らしをしている。
 時には自分のスケールの小ささに呆れてしまう。でも、そうか坂口恭平もこんなふうに暮らしているんだ、と思うとなぜか肯定されたような気持ちになる。とにかくこの本を読んでとても気分が良くなった。僕も人に依頼された仕事だけでなく、自分なりの作ることを続けていくべきなんじゃないかと思わさせてくれた。noteはその中でもかなり気持ちの良い場所になりそうだ。だから、こんな気づきを与えてくれた坂口恭平とnoteに感謝したい。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?