カンバン9

《第10回SCCしずおかコピー大賞 独りごと反省会。》 vol.9

課題1 「静岡企業の東京進出を後押しするコピー」
・社史にもう一行。売上げにもう一桁。

このアイデアは課題を読んだ時に頭に浮かびました。東京進出の目的は、事業の拡大に他ならない。事業拡大という課題を持ったとき、静岡企業が東京を目指すモチベーションの根っこは、いったい何になるのか。

画像1

(ビジュアルが斜めってしまい、大変申し訳ないです。。汗)

「売上げにもう一桁。」は、惜しい。頭の「社史」は、漢字2文字。「売上げ」は3文字。1文字多いから、見た目のバランスが悪い。故意に1文字多くしてバランスを崩すことはないだろうから、変換ミスだと思われる。『校正していないで応募したな〜』と思われても仕方なく、誤字がある以上、私個人なら絶対に落とす。が、こうして残るところが、「おおらかさ」もウリの一つでもあるしずおかコピー大賞のよいところなのかもしれない。

それでは、構成を見ていきましょう。

普通なら「売上げにもう一桁。」だけで終わってしまいそうなところ、作者は「社史にもう一行。」をあえて加えている。ここがユニークという名の独自表現になっている。

「売上げにもう一桁。」についてはvol.6に記した出典が、その根拠になると思われる。つまり、市場規模は10倍近くあり、東京での活動は、ペースさえつかめればもう一桁アップできる可能性が十分にある。

コピーは、事実を伝えなければならない。商行為に紐づく広告は、各種法律による縛りがある。その法を破ることは許されず、違反が見つかった場合はペナルティを課せられる。それだけ、情報の取り扱いは慎重にならなければならない。だが、ただ情報としての文字を伝えるだけでは人の目に留まることがない。人は興味のないことを「なかったこと」にするようにできている。

専門学校の授業で学生に尋ねてみた。
「今日、この時間までに見た広告を発表してください。」
すると、学生たちは口々に言う。
『先生、特に見ていません!』
そこで、聞き方を変える。
「じゃあ、電車で通っている人、中吊りやホーム付近の看板みませんでしたか?」
『あ、見ました。お店のセールとか、いろいろと出てました。』
「それって、広告じゃない?!」
『…確かに!』

もちろん、これだけではない。スマホに映し出されるバナー広告、通学路にある各種看板、街頭のティッシュ配り、コンビニの店頭、校内や教室に貼られているポスター、数え切れないほど目にしている。それでも興味のない情報は、『ない』と言い切れるほど脳内で「なかったこと」にされているのだ。そして、この行為は学生に限定されない。

この「なかったこと」を突破するために、広告表現ではユニークを使う。ユニークの意味は、

唯一の、他に類を見ない、比類のない、独特な、ユニークな、(…に)特有で、のみあって、珍しい、異常な、目立つ
出典:Weblio 英和辞典「uniqueとは」
https://ejje.weblio.jp/content/unique

と出てくる。

会社の歴史を記す資料「社史」。最初の文において、これに新たな会社の歴史が追加されることを伝えている。偉大なる一歩となるのか、悔やまれる一歩となるのかはわからない。それこそ、歴史が証明することとなるのだが、人とは違う見方(キーワード)を持ってきたところはユニークである。また、韻を踏んだ文を繰り返すことで記憶や印象に残る工夫もしている。

とはいえ、「社史にもう一行。」は、就職していない学生層などにはフックしないだろう。また、相当な規模がある会社でもない限り、社員が社史を目にすることは少なく、社史そのものが記録として存在していない中小企業も多いはず。受け手となる地元の会社員に直接フックすることも少ないと思われる。このような状況もあり、このコピーは、一度に多くの人を共感させるほどの力を持ち合わせてはいない。

それでも引っかかるのは、「社史」や「売上」というコトバが対になったときに醸される志(こころざし)のようなものだ。

何かを目指す人たちは、じぶんのためだけでなく、何かのために働こうと決めたとき不退転の強さを持つ。ラグビーW杯で『ワンチーム』というキーワードが浸透した。あの時の選手とにわかファンとの関係のように、社史や売上といった想像できる範囲にある目標を題材に、ワンチームの志で一緒に奮い立とうと応援しているようにも読める。

コピーはアイデアや表現も大切だが、コンセプトにあたる『何を言うか(What to Say)』も大切だと思う。

コンセプトがユニークであれば、受け手が表現のどこかに新しさを感じ取る可能性もでてくる。記憶の範疇において、このコピーアイデアは今回の応募作品中にはなかったと思う。このコピーは、「ユニークさ=コピーの力」となることを伝えてくれる作品の一つと言えます。


※作品(コピー)の版権・著作権等の使用に関する権利は、静岡コピーライターズクラブに帰属します。
https://shizuokacc.com/award/

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