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【シナリオ】ボタン式横断歩道のボタンを、絶対に押したくない話。

ーはじめにー
盛大に、「気にしすぎだろ!!」と突っ込むか、「わかるわー。」と共感してください。

〇秋某日
ミュージカルスクールに通っている輝と楓。
並んで歩く帰り道、ボタン式横断歩道の前にたどり着く。

2人、立ち止まる。
ボタン側に立つ楓、微動だにしない。

輝「楓さん?」
楓「何?」
輝「ボタン。」
楓「そうね。」

輝「え、押さないんですか?」
楓「うーん。」
輝「え、何うーん?それ。」
楓「あと一人来てからにしよ。」
輝「あと一人って?」
楓「歩行者。」
輝「…私たちも歩行者じゃないですか。」
楓「そうね。」
輝「…押しませんか?」

楓「忍びないじゃない。」
輝「…忍びない?」
楓「結構車通ってるでしょ。」
輝「通ってますね。」
楓「この車達をさ、私たちが歩くためだけに止まらせるのよ?」
輝「…はい。」
楓「…忍びないじゃない。」

輝、少し上を向いて考える。

輝「車側はどう思ってるんですかね。」
楓「車側?」
輝「何か、歩行者待ってるのに全然赤にならないなーとか思いながら、前を通ったりするのかなと。」
楓「あー。」

楓・輝「「いや、思わないか。」」
輝「通るの一瞬ですもんね。」
楓「車は気にしないわね。」

輝「押しません?」
楓「…(ひとつの車を指さして)あの車がさ、」
輝「はい。」
楓「あの車が、高熱の子供乗せてたらどう思う?」
輝「…急いでー!って思いますね。」
楓「または、危篤状態の家族に会いに行こうとしてたりとか。」
輝「あー、それもまぁ、急いでー!って思いますね。」
楓「そういうことよ。」

輝「え、楓さん、全部の車に対してそんな事考えてるんですか?」
楓「考えちゃうのよねぇ。」
輝「…。」

輝「優しいですね。」
楓「輝は考えないの?」
輝「…。考えたことは無かったですね。今楓さんに言われて、初めて。」
楓「ほんとに。」
輝「はい。」
楓「どう?」
輝「どうとは?」
楓「これからそういうこと、考えちゃうなーって思ったでしょ、ボタン式の横断歩道に来ると。」

輝、少し上を向いて考える。

輝「…もしかしたら。」
楓「でしょ。」

車がとめどなく前を通る。

輝「これ、車がいなくなったタイミングで押すとかはありなんですか?」
楓「それは全然ありね。」
輝「あ、はい。」

車がとめどなく前を通る。
涼しい秋風が吹く。

輝「…楓さんって」
楓「ん?」
輝「夏とか、冬とか、そういう、気温が異常な時でも、こうやってボタン押さないんですか?」
楓「…極力。」
輝「あ、極力。」
楓「さすがにその、特に暑い時とか、身の危険を感じるくらいだったらさっさと押すわね。」
輝「さっさと。」
楓「交通量が減ったタイミングを見計らってね。」

輝「…全然他の歩行者来ないですね。」
楓「珍しいわね。」

車の交通が一旦収まる。

輝「あ。…あ、押します?」
楓「…押して。」
輝「え?」
楓「あんま色んなとこ触りたくない。菌とか。」
輝「あ、はい。」

輝、楓の前に手を伸ばし、ボタンを押す。
すると車側の信号は直ぐに色を黄色に変え、後に赤となり、歩行者信号は青に変わった。
その間約5秒。

楓、歩き始める。

楓「行くわよ?」
輝「あっ、はい。」

輝、楓を追いかける。
2人、横断歩道を渡り終える。
歩行者信号は直ぐに赤に変わった。

輝「なんか面白いですね、楓さん。」
楓「みんなこれくらい考えるわよ。あなたが違っただけ。」
輝「いや、そうかな…。」
楓「ん?」
輝「なんでもないです。」
楓「罪悪感すごくならない?私のために何台もの車を止まらせてしまうなんて。」
輝「…。」

輝、少し上を向いて考える。

楓「ね。」
輝「…はい。」

前方にコンビニを見つける輝。

輝「アイスでも買ってきません?」
楓「珍しい、どした。」
輝「もうちょっと、楓さんと話したいなと。」
楓「珍しい。いいじゃん。奢り?」
輝「え!ごちそうさまです。」
楓「え、逆よ逆。」
輝「なら帰ります。」
楓「冗談よ冗談。何にする?」
輝「んー、なんか甘いのがいいかなぁ。」


おしまい。


ーあとがきー
 いつも姉御で大胆不敵なのに、変なところ気にしすぎちゃう楓と、「そんなこと気にしなくていいのに」と思いつつ、否定しないで興味深く話を聞く輝。
相手の意見を否定しない。
誰も100%正しい考えなんて持ってない。

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