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生成AIが変える新事業開発のプロセスと求められるスキル

生成AIの登場により、新事業開発のプロセスが大きく変わろうとしています。ChatGPT、Claude、Perplexity、Stable Diffusion、Createなどの生成AIは、膨大なデータを学習して、瞬時に「正解」を生み出すことができます。文章作成やデザイン、コーディングなど、様々な分野ですでに実用レベルに達しており、アイデアの創出から事業計画の策定、プロトタイピングなど、新事業開発のすべての工程を自動化できる可能性があります。私が所属しているNEWhでも生成AIを活用するプロジェクトが増加していて、その大きな影響力を実感しています。NEWhとして、そして個人としてもこの環境変化に適応しなければ、存在価値がなくなってしまう危機感すら感じています。そこで今回は、生成AIが新事業開発に与える影響について考えてみたいと思います。

新事業開発プロセスのボトルネックを解消

知的生産と製造業の類似点

生成AIの登場により、知的生産のプロセスが大きく変化しようとしています。これは、製造業における自動化の進展と類似した現象だと言えます。 製造業では、産業革命以降、機械化による自動化が進むことで生産性が飛躍的に向上しました。その結果、製造業のボトルネックは製造工程そのものから、製品の企画やデザインといった上流工程へとシフトしていきました。 同様に、生成AIの登場により知的生産の自動化が進むことで、生産性が大幅に向上することが期待されます。しかも単純作業だけでなく、文章作成や画像生成、コーディングといった、これまで人間の創造性に依存してきた領域でも、生成AIが人間に匹敵する、あるいはそれ以上の成果を出せるようになりつつあります。 報告書の作成や会議の議事録作成など、これまで多くの時間と労力を要していた知的生産のタスクも、生成AIを活用することで大幅に効率化できるでしょう。また、デザインや広告制作などのクリエイティブな領域でも、生成AIが人間のクリエイターをサポートすることで、生産性の向上が期待できます。 生成AIの活用により、知的生産のボトルネックは、アイデア出しや情報収集といった工程から、生成されたアウトプットの評価・選択や戦略的意思決定といった工程にシフトしていくと考えられます。つまり、生成AIによって知的生産の初期段階における単純作業が自動化される一方で、より高次の思考や判断が求められる場面が増えていくのです。 製造業の自動化が製造工程のボトルネックを上流工程にシフトさせたように、生成AIの登場は知的生産のボトルネックを、より創造性や戦略性が求められる領域へとシフトさせていくのは間違いありません。

では次に、生成AIが新事業開発のプロセスに与える具体的な影響について、いくつかのシーンを想定しながら考えてみましょう。

新事業開発における生成AIの活用シーン

シーン1:市場のマクロ環境が一瞬で調査できる

新事業開発において、市場のマクロ環境を調査することは非常に重要です。従来は、膨大な量の資料を収集し分析するために多くの時間を要していました。私自身もグローバルの環境調査をする際、言語の壁によって情報へのアクセシビリティが悪く、非常に苦労した経験があります。 しかし、生成AIを活用することで市場動向や競合他社の情報を瞬時に収集・分析できるようになります。例えば、Perplexityに市場調査のタスクを与えることで、網羅的な情報を短時間で入手することができます。しかもGoogle検索とは異なり、複数のソースを統合・分析した状態で、かつソースも提示してくれるため、非常に効率的に作業を進められるのです。

シーン2:自社技術が転用できる用途を大量に提示

新事業開発では、自社の強みを活かせる事業領域を見極めることが重要です。生成AIを活用すれば、自社技術が転用できる用途を大量に提示できるようになります。 例えば、ChatGPTに振動測定センサー技術の転用先を提案してもらったところ、100個以上の用途が瞬時に生成されました。人間が同時に考えていましたが、その転用の幅と提案までのスピードでは、生成AIには到底かないませんでした。 生成AIに候補を幅広く短時間で生成してもらい、人間はその実現可能性を検討し追加の調査を行うことで、技術転用の検討工程を大幅に短縮できるのです。

シーン3:エキスパートインタビューは生成AIで代替

新事業開発では、エキスパートへのインタビューを通じて専門的な知見を得ることが重要です。NEWhでもマッチングプラットフォームを利用して、新事業に適した専門家を探し、依頼文を作成し、日時を調整してインタビューを行うなどしています。 しかし、このプロセスには少なくとも2〜3週間程度の時間がかかってしまうこと、そして求める専門性と完全にマッチする人材を見つけられないことなどの課題も感じていました。 ここで生成AIを活用すれば、エキスパートインタビューを代替できるようになります。生成AIは特定分野の膨大なデータを学習することで、その分野の専門家と同等以上の知見を持つことができるからです。 例えばClaudeなどに、専門家の職種や専門性だけでなく、以下のような具体的な設定を行うことで、よりリアリティのある回答を引き出せます。また現実ではリーチできないような専門家にも"インタビュー"できるようになります。日程調整も不要で、10人の異なる専門家に1時間で"インタビュー"することも可能になるのです。もはやエキスパートインタビューはボトルネックではなくなりつつあります。

「あなたは、大手ITコンサルティング会社で10年以上のキャリアを持つコンサルタントです。主に製造業のクライアントを担当し、IoTやインダストリー4.0関連のプロジェクトに数多く携わってきました。コンサルタントとしての専門性に加え、エンジニアリングの知識もあり、技術的な側面からもクライアントの課題解決に取り組んできました。
現在は、自動車部品メーカーのグローバルサプライチェーンの最適化プロジェクトを担当しており、IoTを活用した在庫管理システムの導入を進めています。また、社内では、新たなコンサルティングサービスの企画・開発にも取り組んでおり、特にAIを活用した需要予測ソリューションの開発に注力しています。
業界の最新動向にも精通しており、先月は北米で開催されたIoT関連のカンファレンスに登壇し、製造業におけるIoTの活用事例について講演を行いました。」

NEWhで設定したエキスパート例

シーン4:アイデアを一瞬で体験ストーリーに

生成AIを活用すれば、新事業のアイデアを一瞬で体験ストーリーに落とし込むことができます。体験ストーリーとは、顧客がその商品やサービスを使用する様子を具体的なシーンとして描写したものです。 従来、新事業のアイデアを体験ストーリーに落とし込むには、顧客像を詳細に設定し、その顧客の行動パターンや嗜好、悩みなどを深く理解する必要がありました。そのうえで、商品やサービスがどのように顧客の課題を解決し価値を提供するのかを、具体的なストーリーとして描き出さなければなりません。この作業には多くの時間と労力を要するのが一般的でした。 また、より伝わりやすくするために体験ストーリーに手書きでイラストを付けることも多いのですが、それには苦手意識を持つ人も少なくありません。 生成AIを活用すれば、この作業を大幅に効率化できます。生成AIは顧客像に合わせた体験ストーリーを瞬時に作成できるからです。 NEWhでは、新事業アイデアとターゲットを入力すると、ChatGPTが自動的に顧客像を生成し、体験ストーリーとイラストを出力する「ビジネスストーリーテラー(GPTs)」を提供しています。わずか数分で、複数の説得力ある体験ストーリーを生成可能にしているのです。 このように生成AIを活用することで、新事業アイデアから体験ストーリーへの落とし込みを大幅にスピードアップできるようになりました。

▼ビジネスコンセプトから体験ストーリーを生成するGPTs
※2024年4月現在GPTsの利用はChatGPTサブスクリプション利用者のみです

ビジネスストーリーテラーの生成例


シーン5:アイデアを一瞬で事業構想に

NEWhでクライアントを支援する際、「アイデアはたくさんあるが、それを事業構想にできない」という課題をよく耳にします。特に新事業を検討している市場への知見がない場合、その課題は大きくなります。 しかし生成AIを活用すれば、知見のない市場の新事業アイデアでも、瞬時に事業構想にまで落とし込むことができるようになります。生成AIにテンプレートを理解させておけば、アイデアに合わせた事業構想を自動的に生成できるからです。 事業の提供価値とターゲットを共有したうえで、競争優位性、ビジネスモデル、組織、パートナー、資金、リスク、成長ストーリーなどの構想のタタキを瞬時に生成できます。そのタタキを起点に自社の状況に合わせた検討ができるので、非常に効率的に議論を進められます。 NEWhでもChatGPTやClaudeを活用して、新事業のアイデアから数分で網羅性の高い事業構想を生成し、それからVDSを使って自社にマッチした精度の高い事業構想に仕上げるなどしています。

そのほかのシーンでも、新事業開発に関連する領域では生成AIを活用したプロセスの改善・検討・実験が日々行われています。例えば、KDDIアジャイル開発センターのつむらさんの記事はUX/UIの検討の際に非常に参考になります。常に情報を収集しながら、自分の業務にどう活用していくのかを考え続けることが大切ですね。

生成AIという変化を機会にするために

生成AIの登場は、新事業開発のプロセスに大きな変革をもたらそうとしています。市場調査や技術転用の検討、エキスパートインタビュー、体験ストーリーの作成、事業構想の策定など、これまで人間が手作業で行ってきた多くの工程が自動化され、大幅にスピードアップされようとしているのです。

新事業開発に求められるスキルの変化

新事業開発に求められるスキル

しかしだからこそ、人間にしかできない役割に注力することが重要になります。 新事業開発の工程のほとんどで、0から1を生み出すのは生成AIが担当することになるでしょう。人間の役割は、生成AIが提示する膨大な選択肢から真に価値あるものを見抜く目利き力、自社に合ったストーリーを紡ぎ出す構想力、そしてプロジェクトを推進するリーダーシップが、これまで以上に重要になるでしょう。 また、生成AIに考えてもらうための"問い"をつくる力も重要です。これは単にプロンプトエンジニアリングの話ではなく、新事業として取り組むべき"問い"を立てるということです。そのためには、社会の変化や新しいビジネスに対する感度を高め、未来を妄想するなど、プロジェクト以外での地道な蓄積が欠かせません。

新事業開発のボトルネックは意思決定と組織構造に

新事業創出システム

これまで新事業開発のボトルネックであった事業創造から構想策定の工程は、生成AIの活用により大幅に効率化・短期化できるようになります。その結果、質の高い新事業構想を大量に生み出せるようになるでしょう。 では、次のボトルネックは何になるのでしょうか。おそらく意思決定のプロセスや、新事業を小さく試せない組織構造などが、新たなボトルネックになると考えられます。生成AIを使えば良質な事業構想を大量に出せても、それを実際の事業として立ち上げるには、意思決定者の判断と事業を推進するための組織体制が不可欠だからです。 従来から言われているように、新事業開発で成果を上げられるかどうかは、こうした意思決定や組織の在り方に大きく依存しています。生成AIの活用により事業構想を大量に生み出せるようになると、そのスキルを持つ企業と持たない企業の差が決定的になるのは間違いありません

意思決定のボトルネックを解消するためには、事業構想を適切に評価し、優先順位をつけるための基準や方法論が必要でしょう。また、新事業を小さく試すためには、スピーディーに意思決定できる組織構造や、失敗を許容する文化づくりが欠かせません。 そのためには、トップダウンの意思決定だけでなく、現場レベルでの自律的な判断を促すような仕組みづくりが重要だと考えています。 また、失敗を恐れずにチャレンジできる文化を醸成するために、失敗事例の共有や、失敗から学ぶための振り返りのプロセスを定着させることも必要でしょう。

生成AIがもたらす変化の波を、新事業開発の追い風にするために、私たち一人一人が、これまでの常識にとらわれることなく、新たな時代に適応していく意識を持つことが何より大切だと思います。 生成AIという大きな環境変化を、自社の成長の機会ととらえ、新事業開発のプロセス/システムを抜本的に変革していく。それが、生成AIの時代を生き抜くために、私たちに求められている挑戦なのだと信じています。

少々固くなりましたが、ではまた。

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