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『詩』日照雨(そばえ)⎯プラタナスの上を楽隊が通る⎯

日照雨そばえがあって
プラタナスの並木の上を楽隊が通る


少し離れた芝生の上の
アカシアのベンチは濡れそぼって
ロココ調の、古い蔦模様の手すりから
芝生に雫が滴り落ちる


座面と背もたれをていねいに拭いて
無理にも腰を下ろすと
プラタナスの並木はまっすぐ視界のなか


僕とプラタナスのあいだに
雨に濡れて鮮やかな緑の芝生と風があり
都会の喧騒があり
雨が上がるのを待ちかねたように
子どもの手を引いた母親が通る
足の短いコーギーを追って
帽子を押さえながら男性が走る
すれ違いざま振り返りながら
テニスのラケットを持った女の子たちが通る


誰も楽隊に気づかない


公園と通りのかぎろいに
プラタナスの並木はあって、並木の梢で
それぞれに楽器を抱えながら
羽毛を立てた帽子を被って
赤い、軍隊服の楽隊が
きちんと整列をして立ち止まる


楽隊の向こうにマンションと
わずかに結婚式場の尖塔と
尖塔の上にアドバルーンと
さらにその奥にタワーホテルと
そうしてそれらを覆うように、青空と
青空の、ずっと深いところに飛行船と
(黄色い幟旗のぼりばたを引いて
飛行船は宣伝の真っ最中)


不意に「回れ右」をしてこちらを向き
楽隊がいっせいに楽器を構える
雨上がりの日差しを受けて 右端で
ベルリラがきらきらと光を放つ


ところでドラムメジャーはどこにいる?


足を組み、椅子に座って待っていると
公園の外から燕のような
黒い燕尾服を着た男がバタバタと駆けてきて
大きく腕を交差しながら楽隊に向けて振り回す
すると奏者は慌てふためいて
しゃがみ込んだり
楽器を取り落としたり駆け出したり


驚いて見ていると、日差しと交差するように
あっという間に再び日照雨がやってくる
慌てて僕も立ち上がる
子どもの手を引いた母親も
コーギーを抱き抱えた男性も
みんな、芝生の上を駆けてゆく


楽隊のことなど


きっと
誰も知らない



*ドラムメジャー=バンドの指揮者・鼓手長

*タイトル画像はこちらを使用しました。
moon-seokYang による Pixabay からの画像




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