No.12「日本の伝統的な怒り方」と「日本人が英語が苦手な理由」(園だより2月号より)

さて今回は、子どもの「ほめ方・しかり方」の話をさせていただきます。

最近、配慮が必要な子どもの療育について、専門家の方々とお話させていただく機会がありました。

そこで教わったことは、すべての保護者の方々にとって非常に有益であると思われるので、みなさんと共有させていただこうと思います。

話の中心は「日本の伝統的な怒り方」についてでした。

「日本の伝統的な怒り方」とは、次のような否定、禁止、命令の言葉として現れるとのことです:

「だめ!」、「いけん!」、「やめなさい!」、「何してるの!」、「何でするの!」、「何べんゆうたら分かるの!」、「何で怒られたかわかっとる!?」…

そして、こうした言葉と同じぐらいよくないのは、「○○をしたらなぜいけないのか」、「ではどうすべきなのか」を、きちんと言葉で説明しないことです。

そして、それが出来た際に、きちんと褒めてあげないことです。

こうした「日本の伝統的な怒り方」の背景には、「一を聞いたら十を知れ」という言葉に象徴される、多くを語らないことが美徳とされる文化があるとのことです。

私はこの話を聞きながら、嘗て私が北米の大学で教えていた時に、他のどの国から来た学生と比べても、極端に自分の考えを言葉にすることが苦手な日本人学生たちのことに思いを巡らせていました(ブログNo.2『「探求型学習」と「のぞみっこ」の将来の幸せ」参照)。

「英語が母国語ではないので当たり前なのでは?」と思われるかもしれませんが、他国からの留学生は間違いを気にすることなく、ネイティブの学生を差し置いて活発に発言してきます。

そうしているうちにどんどん英語そのものが上達していきます。

それをを目の当たりにしながら私は、「英語が出来ないから自分の考えを言葉に出来ない」のではなく、逆に、「(上記の)文化的背景が、日本人が英語が苦手な最大の理由の一つ」という考えに至りました。

そうしたことを踏まえ今後「のぞみ」は、「自分の考えをきちんと言葉にし、他者に伝えることが出来る」ことを目標とした日本語教育に力を入れていきます。

また、同じ視点から「生きた英語」が学べる英語のプログラム(正課・課外両方)をマット・ハースト先生と現在開発中で、四月から実施する予定です。

話を戻しましょう。

「日本の伝統的な怒り方」や英語の苦手さとして現れるそうした独特の文化的背景は、みんなが同じにようになることを強いる無言の圧力としての「同調圧力」、いわゆる「空気」として働くとのことです。

「空気を読め!」とか「空気を察しろ」とか「○○は空気が読めない」というあれです。

また、こうした「みんなが同じようになること」を強いる文化=空気は、「みんなが満遍なく平均的に同じことが出来るようになること」も意味するそうです。

日本文化のこうした側面が、歴史的要因により意図的に維持されてきたことは、ブログNo.11『「集団行動が取れる」の光と影』で述べた通りです。

そして、こうしたこの国を覆う「空気」が、「のぞみっこ」の将来の幸せにとって最も大切な「生き抜く力」である、「主体性およびその源泉である個性」を伸ばすことを著しく阻害することを以前説きました(ブログNo.2、No.11)。

「満遍なく、平均的に」を強いる結果、自分の好きなこと、興味のあることに特化して、それを主体的に探求していくことによって、個性(好み、興味)が「生き抜く力」へと開花させることを阻害してしまうのです。

しかし、「みんなが同じように集団行動がとれる」こと自体は、決して卑下すべきことではなく、むしろ日本が誇るべき文化であることも以前お話させていただいた通りです(ブログNo.11参照)。

それと、その対極にある「個性と主体性を育む教育」が互いを損なうことなく、絶妙なバランスを保ちながら両方育んてきたのが「のぞみの伝統」です。

そしてその伝統は、「日本の伝統的な怒り方」の対極にある「のぞみの伝統的な褒め方・叱り方」に顕著に表れています(ブログNo.10『「いき」な褒め方・叱り方』参照)。

「のぞみの伝統」においては「否定、禁止、命令の言葉」は厳禁です。

その代わり、他の園児を叩くなど誤った行いをした子どもにはまず、「○○ちゃんはこう考えたんだね」というように、その子の気持ちにより沿い、共感しながら、どうしてそうしたかを話してもらいます。

そのうえで、「でも、○○ちゃんが××されたらどんな気持ちになる?」と、相手の気持ちに立って考えてもらいます。

このように大人が何がなぜ悪いかを一方的に説明するのではなく、子ども自身が自発的に考え、自身が納得して行動出来るように語りかけます。

これこそ「のぞみ」に代々受け継がれてきた伝統であり、かつ、国際バカロレア(IB)教育における「探求型学習」の真髄です。


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