崖の上のポニョ(2)

これは(2)です。まだの方は(1)から読むのをおすすめします。


〇 科学教育にも有害

 気になった点は他にもある。 一般的に、川の魚は海の水の中に入れられれば死んでしまうし、海の魚は、普通、真水では生きられない。 海の生物であるポニョの入っているバケツの中に宗介が真水を入れた時、自分は、ポニョが死んじゃう!と思ったのだが、ポニョは死ぬどころか、中を悠々と泳いでいた。こんなにも見ている人たちの常識が通じないと、見ていて困ってしまう。 見ている者の常識を覆すという意味では斬新なのかもしれないが、例えば、サスペンスにおいて、凶悪な殺人犯が善良な主人公を狙っていて、主人公を刺したとする。 見ている人々は、そこで衝撃的な気分になるわけだが、そこで主人公が生き生きとした表情で踊りだしたりしたら、見る者は困惑し、どう思っていいかわからない状況におかれるだろう。 それに、こんなシーンを子供に見せたら、子供が、海で捕まえてきた生きた魚を水槽に入れ、いきなり真水を注いだりすることも起きるかもしれず、子供の科学教育にとってもよくないだろう。


〇 意味不明なことばかり

 また、この映画では、映画の中で起きていることに対して、何にも説明がされておらず、 多くのことが全く意味不明なのである。

 
・フジモトが何をしているかもわからない。なんで古代魚が泳いでいるかもわからない。

・ポニョとフジモトの関係もわからないし、どんな経緯で、ポニョのような人面魚が生まれたのかもわからない。

・ポニョが人間になるために、何が条件なのかも視聴者には何も伝えられず話が進んでいくので、感情移入もできない。

・宗介が世界を救ったって一体どういうことか?

・....


 ここまでくると、もはや、最近の宮崎監督は、映画の中の個々のシーンが好きなだけで、ストーリーはどうでもいいのだと考えているのだとしか思えない。

 だが、一般常識を持つ多くの普通の人間にとって、ストーリーは非常に大切である。


〇 支離滅裂なストーリーはやめて

 こういうことを書くと、何を小難しいことを書いているのか、そんな難しいことをいちいち要求するのは映画を作る人に対して負担になってしまう、と思う人もいるかもしれない。 だが、ストーリーの整合をとるというのは、何も難しいことではなく、おそらくかなり簡単なことだと思う。 常識的に考えて疑問を持たれそうな部分があるのなら、そうした部分について、ただ、ちょっと納得できるような説明を入れればいいのだ。上の例でいえば、命をかけても家に帰らなければならない理由を説明すればいいのだし、子供たちをどうしても家に残さなければならない理由があるなら、それを説明すればいい。ポニョの入ったバケツに真水を入れる前に、塩を持ってきて入れるシーンを1秒だけ入れればいい。それをわざわざしないまま、視聴者に混乱をもたらしているということに怒りを感じる。


 また、ストーリーの破たんのみではなく、映画のメッセージ性もほとんどないように思える。  海にゴミがたくさんあるシーンや、底引き網のシーンなどは、監督の、文明に対する批判的視点を暗示しており、そこをもう少し強く打ち出せば映画のメッセージともなりえたかもしれない。しかし、この程度の描き方では、それは映画のメッセージとは言えないだろう。


 子供向けだからストーリはどうでもいいということはない。ストーリーが実にしっかりした、「ドラえもん」というすばらしい子供向け映画もある。話の流れや登場人物の反応が支離滅裂では、感情移入しようもない。理屈をこねずに、純粋な心で持ち素直に見ればいいのだ、という人もいるかもしれないが、純粋に素直に見ればこそ、素直に流れていかないストーリーにわけがわかならくなるのであり、そのつじつま合わせをするには、見ている人たち個人個人が、相当強引な理屈をわざわざ考えださねばならない。


 この映画では、波の表現などを含め、独創性は高く、海の中の描写や、古代魚が泳いでいるシーンなどは、とてもきれいだと思う。

 ストーリーさえよければ、映画の評価が非常に高まるかもしれないのに、かなりもったいない。


 一般的な思考力を持った人なら、誰でも、ストーリーに不可解なところだらけのこの映画を見れば混乱に陥るだろう。宮崎駿も当然、こうしたストーリーの破たんはわかっているはずである。また、万が一宮崎駿がそれをわかっていないとしても、ジブリのスタッフたちは、十分それが理解できるはずである。この映画も含め、最近の宮崎映画について、スタッフたちは、宮崎駿に対して、ストーリーの破たんを改善すべきであると、ぜひとも進言してほしい。宮崎映画の評価をこれ以上下げないためにも、ぜひともお願いしたい。

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