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セッション定番曲その63:All The Things You Are

ジャズセッションでのド定番曲。キレイなメロディ、刻々と変わるキー、分かりやすい構成、と人気曲になる要素満載です。
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:「黒本」の呪縛

ジャズセッションで時々話題になるのですが、初級~中級レベルのセッションイベントだと参加者がみんな「教科書」のように持参してくるのが「黒本(ジャズ・スタンダード・バイブル:セッションに役立つ不朽の227曲)」です。
ジャズ・スタンダード・バイブル

それ以前はいわゆる「青本(ザ・プロフェッショナル ・スタンダードジャズ・ハンドブック)」を持っている人が多かったですね。掲載されているキー設定が微妙(誰のどの演奏を参照しているのか謎)だったり、コードネームが簡略化されていたりで、自分でメモを書き込んで使っている人も多かったですね。さらにそれ以前はいわゆる「(海外版)リアルブック」や自分で耳コピしておこした手書き譜面を持っている人達が多かったようです。

自分で自宅などで個人練習に使っている譜面だと安心感があるし、他の人とキー設定やら譜割りやらの認識が合っているのか不安感もあるので、みんなが共通で使っている「教科書/参考書」があると便利ですよね。という訳で2011年以降は「黒本」が一気に普及しました。

ここからはいかにも日本人っぽいのですが、「教科書(バイブル)」があるとそれを絶対視化してしまい、それ以上の工夫をしたりしなくなってしまいう傾向があります。この「All The Things You Are」に関しても、黒本に掲載されているイントロが「必須」になってしまっていますが、よく考えてみるともっとバリエーションがあってもいいですよね。

ポイント2:イントロ

あの(ラフマニノフ風?)イントロはチャーリー・パーカーが思いついて付けたもののようで、どう聴いても曲とは合っていないですよね。下記の動画で黒田さんが解説されているように「仲間以外の振り落とし」の為にわざと入りにくいイントロを付けた可能性もありそうです。
All the things you are のイントロどうやって感じる?
→諸説あり

Who wrote the intro to All The Things You Are?

イントロ練習用
All the things you are イントロ練習用

元々はミュージカルの挿入歌で、素敵なヴァース(Verse)が付いていました(後述)。

この曲は好きだけど、あのイントロはなぁ・・・という人もいるはず。「教科書」に縛られず、色々と試していきましょう。

ポイント3:ミュージカル(Mid-century Pop)からジャズへ

ジャズスタンダード曲の多くは、元々はミュージカルや映画の挿入歌/挿入曲として書かれたものをジャズミュージシャン達が弄り回して「ジャズ化」したもので、後の時代になると元々ジャズ曲として書かれたものも増えていきました。

「ジャズを歌う」ということになると、どの時代の誰の歌唱を参考にするかは大事ですね。それを踏まえた上で徐々に自分のスタイルを見つけていけばよいので。

まず最初に元々の「ミュージカル曲」のイメージに近いものを聴いてみましょう。天才少女Judy Garlandが歌っています。1940年代ですね。

素晴らしい声で朗々と歌っていますね、感情のこめ方も素晴らしい。
ただブルース/ジャズ的な要素を感じないのも確かです。

これがJo Staffordの1953年の録音になると、グッと「ジャズ」っぽくなりますね。ボーカルアドリブとかがある訳じゃないけど、メロディの中にブルース的な要素が入ってきて、バックのオーケストラとのノリもボーカル側がリードしているようなイメージ。


Sarah Vaughan、ブルースっぽさが増し増しですね。こんな風に歌えたら素晴らしいですね。ビブラートの掛け方もミュージカル調ではなくジャズ的。


Ella Fitzgerald(Nelson Riddle & His Orchestra)の歌唱、1960年代になってからのもの。余裕たっぷりですね。メロディをなぞるのではなく、自分の中に入れてコントロールしている感じ。後テーマでのメロディの崩し方もお手本ですね。


ポイント4:All The Things You Are

直訳すると「貴方であるところの全てのもの」・・・って何だ?
その疑問は最後の一文で解決します。

When all the things you are, are mine
「貴方の全て(心も身体もそれ以外も)が私のもの(になった時)」と。
まぁ、家とか車とか財産とかも大事ですからね・・・。

歌詞の前半は「You are the xxxx」の比喩の連続で、「私からみた貴方」を決め付けていきます。恋は盲目、そうですか。ここの詩的な、大袈裟な表現を好きになれるかが、この曲を好きになれるかの境目かもしれません。比喩はとても分かりやすく、現代の歌でも通じそうなものばかりです。

で、最後に「いつか貴方をこの腕で抱きしめるよ、貴方の全ては私のものになって、天にも昇る瞬間が訪れる」と強烈に歌いかけていきます。

緩やかな曲調とは違って歌詞の内容はかなり情熱的なもの。そう考えると、実はミュージカル的な歌い方の方が相応しい曲なのかもしれません。

ポイント5:ジャズとして

この曲はビバップ期のミュージシャン達に取り上げられて人気ジャズ曲となっていきました。
Charlie ParkerDizzy Gillespieによる演奏、例のイントロが付いています。イメージよりもゆっくりとしたテンポですね。


The Modern Jazz Quartetによる演奏、上記と同じ1950年代のものですが雰囲気がかなり違いますね。


Art Pepperによる軽やかな演奏。自然な入りになっていて、こういう演奏だと例のイントロは似合いませんね。


Sonny RollinsとColeman Hawkinsによる漢らしい演奏。これもさりげないイントロになっていて、いきなりサックスの太い音がメロディを奏でます。ラテン風味がいいですね。
All the Things You Are

Keith Jarrettのトリオの演奏、唸り声が聴こえますね。後テーマ部分をイントロにしていますね。
All The Things You Are

Pat Methenyのスピーディーな演奏。
All the Things You Are

7拍子?
All The Things You Are in 7/4 - Danny Green Trio

8つの異なるスタイルで弾いてみたという動画。ワルツが意外といいです。
All The Things You Are in 8 Styles

色々なバリュエーションがありますね。

ポイント6:様々な歌

ポップス寄りのものも含めて歌唱例を見ていきましょう。

ボーイソプラノ時代のMichael Jacksonの歌唱。ポップスとしてのアレンジ。
All The Things You Are


ヴァース付きのCarly Simonによる歌唱。いい雰囲気ですね。


Connie Evingson、現代的なジャズ歌唱。米国市場では「ジャズ=スムースジャズ」という認識なので、薄味じゃないと売れない。

ジャズを経由してミュージカル調に戻ってきた感じの歌唱?
All the Things You Are (From "Very Warm for May")

ポイント7:Jerome Kern

ミュージカルや映画向けの曲を沢山作曲した人(700曲以上)で、後にジャズスタンダード化したものも多く、「The Song Is You」「Smoke Gets in Your Eyes」「Yesterdays」「The Way You Look Tonight」「I'm Old Fashioned」「A Fine Romance」などお馴染みの曲が多いですね。「物語」を伝えるようなメロディの曲が多いと思います。

古き良きブロードウェイやハリウッドの全盛時代で、どんどん新作を制作して公開していた時代。時間や制作費に余裕があったのかどうかは分かりませんが、若い才能がどんどん集まっていた時代ですね。

Jerome Kernは1945年に亡くなっているので、自分の作品がモダンジャズ化されて21世紀にまで生き残っているとは想像出来なかったかもしれません。

ポイント8:発音のポイント

平易な言葉が多いので、あまり注意するところはないのですが。

promised kiss of springtime
「promised kiss」の「d」音と「k」音が出てくる箇所はちょっと練習しましょう。実際には「d」音がちゃんと出ていなくても文脈で分かるので、ちょっと音を飲み込むくらいに発音しても大丈夫です。

「springtime」の「sp」は間に母音が入らないように注意しましょう。

You are the breathless hush of evening
「breathless」は「breath+less」ですが、「th」音に続いて「L」音が出てくるので、素早く口を(舌を)動かしましょう。

You are the angel glow that lights the star
「L」音が沢山出てくるので、練習しましょう。

And someday I'll know that moment divine
divine」は聞き慣れない言葉ですが、「神様から与えられた」とか「神聖な」というような意味です。日本語だとちょっとニュアンスがピンと来ないですね。

ポイント9:ヴァース(Verse)があります

ヴァースが付いている曲は沢山ありますが、内容的に蛇足だったりメロディ的に面白くなかったりして、歌われなくなっているものも多いです。ミュージカルの舞台で登場人物が歌い出す前にセリフの延長線で「さあ、これから歌いますよ」という前説がヴァース。

この「All The Things You Are」は珍しくメロディが分かりやすく、内容的にも詩的になっていて、本歌への導入部として意味を成しているので、歌わないと勿体ない感じです。上記の歌唱例でもCarly SimonやConnie Evingsonはヴァースから歌っていて素敵です。

「黒本」は楽器奏者向けに編纂されているものなので仕方ないですが、ヴァース部分も掲載して欲しかったですね。

ポイント10:楽曲の解析

この動画が分かりやすいのでおすすめです。

練習用カラオケ

All The Things You Are Backing Track Drum&Bass

■歌詞


(Verse)
Time and again I've longed for adventure
Something to make my heart beat much faster
What did I long for, I never really knew
Finding your love, I found my adventure
Touching your hand my heart beat much faster
All that I want in all of this world is you

(Chorus)
You are the promised kiss of springtime
That makes the lonely winter seem long
You are the breathless hush of evening
That trembles on the brink of a lovely song

You are the angel glow that lights the star
The dearest things I know are what you are

Someday my happy arms will hold you
And someday I'll know that moment divine
When all the things you are, are mine


Malene Mortensen





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