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セッション定番曲その15:Long Train Runnin' by The Doobie Brothers

ロック系の曲では数少ないセッション定番曲。ご存知のイントロのギター・カッティング。ファンク曲として認識している人も多いかもしれません。
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:ロックってさぁ・・・

特徴的な(ギター)リフ、凝った曲構成、尺もカッチリ決まった楽器ソロ、特徴的なイントロやエンディング、など「ロックの名曲」は事前に熟知して練習していないと、いきなり合わせるのが難しいものばかりです。特にドラムとベースの有機的な絡み、さらにそこに複数のギターやキーボードが重なって、はじめて原曲の雰囲気が再現出来ます。ジャズやフュージョンに比べて和声やリズムがシンプルだと思われていますが、そこがキモじゃない訳です。(逆に言うと意外と自由度が低い

だからロック系のジャムセッション定番曲というのは意外と少なくて、ブルース進行のものに絞るか、事前にリクエスト〜パート毎にエントリー性の事前仕込み型のセッションイベントになってしまう訳です。あとはハードロック/ヘヴィメタルの曲だと爆音になりがちでロック系のハコ(だいたい地下)でないと耐えられないという理由もありそうです。

そんな中で数少ない定番曲がコレ。

ポイント2:特徴的な(ギター)リフ

この曲のコアになっている特徴的な(ギター)リフはコードカッティングで出来ているので、それさえ覚えれば大丈夫という気軽さがあります。歪ませないファンクっぽいリフなのでロック小僧でなくても、という側面も。

実は作者のトム・ジョンストンは「みんなこのリフ、間違って弾いているよ」とも言っています。ちゃんと原曲を聴いて再確認しましょうね・・・。

レコーディング以前にライブステージではこの曲は歌無しのインスト曲として演奏されていて、ジャムセッションの素材として使われていたらしいです。そういう意味では「先祖返り」なのかも。


ポイント3:The Doobie Brothersというバンド

The Doobie Brothersは米国のロックバンドで、そのイカツイ風貌からサザンロック系のバンドと勘違いされることもありますが、米国西海岸(カリフォルニア州)のバンドです。イーグルスとかと同様ですね。イーグルスがルーツにカントリー音楽を持っているのとは少し異なり、ドゥービーズの場合は最初からもっとロック寄りのアプローチでした。

全盛期のメンバーには2人のドラマーと黒人ベーシストという強力なリズム隊がいて、この曲のようなファンキーなリズムを支えていました。The Allman Brothers Bandの2人のドラマーがノリの微妙なズレを活かしたジャズ的なリズムを生み出していたのに対してドゥービーズのリズム隊は一体感による音圧を重視していたようです。

西海岸のバンドらしくコーラスも得意で、この曲にもハモリパートがありますね。トム・ジョンストン以外にも曲が書けるメンバーがいたのも強みでバンド内のバランスが保たれていて、トム・ジョンストンが健康問題で脱退した後もバンドが継続出来たのもそういう部分が良かったのかと思います。

リズムに関してはサザンロック系のバンドの粘っこいノリとは違って少し軽めのフォークっぽいノリも得意で、この「Long Train Runnin'」も絶妙な軽さがありますね。そこがヒットに繋がったのかもしれません。

ポイント4:この曲は何について歌っているのか?

前述のように曲が先にあって、歌詞は後から付けられたもののようなので、あまり深い意味は無いのかもしれませんが・・・。

米国の広い大地を走る、長い多両編成の列車。それは「後ろ(過去)を振り返らずに走り去る」人生を表しているのかもしれません。

Without love, Where would you be now?
かつて愛した女性、いったいどこにいるだろうか?前に進むだけの人生で本当にいいのか?と。

Well, the Illinois Central And the Southern Central Freight
The Illinois Central」は米国北部のシカゴから米国南部までを結んでいた超長距離鉄道会社の名前、「Freight (Train)」は貨物列車のことで、ブルースの歌詞にもよく登場しますね(後述)。具体的な固有名詞を出すことで、米国人には郷愁を伴ったイメージがわかりやすく湧くのかもしれません。客車ではなく貨物列車にすることで、重い列車が一生懸命に先に進むイメージがより強くなりますね。ここのパートはリズムが変わって「力強く轍を刻む」ようなイメージになっています。歌詞とリズムのイメージが一致する感じ。

ポイント5:ルーシーって誰?

You know I saw Miss Lucy, Down along the tracks
She lost her home and her family, And she won't be coming back
この「Miss Lucy」が誰なのか、歌詞だけからは分かりませんが、Missとわざわざ呼んでいるので、未婚の若い女性なのか、未婚の母なのか。家も家族も捨てて長距離列車を追いかけていく。この歌の中に登場する唯一の「人間」なので、様々なイメージをMiss Lucyに負わせているのでしょうね。

米国は広大ですが、生まれ育った土地でずっと暮らす人も多く、故郷を捨てて見知らぬ遠い土地に行ってしまう人には勇気が必要です。向かう先が大都会でも田舎町でも。時代によって景気が良い地域は変わっていきますが、単に仕事があるからと言って簡単に移住する決断も出来ず、まるで外国に移り住むような感覚でもある訳です。

ポイント6:Freight Train

ちょっと脇道にそれると、古いブルースやカントリー音楽にも頻繁に登場するこの「貨物列車」。故郷を離れる際や町から町へ演奏旅行する際に、この貨物列車に飛び乗って、と。当然「無賃乗車」な訳で、これを見つけて取り締まる鉄道係員との戦いというかイタチごっこだったようです。駅に停車している時に潜り込んで、自分の降りたい所でギターとか抱えて飛び降りる。だから、こっちはそんなにスピードが出ていない路線だったのかもしれませんね。

ポイント7:この曲をどう歌うか

発音の難しい単語はあまりないので、とにかくリズムに乗って歯切れ良く歌うのがいいですね。
Down around the corner」「And you watch 'em disappear」「She lost her home and her family」「And she won't be coming back」「Got to keep on pushin', mama」「'Cause you know they're runnin' late」など個々の単語にとらわれるのではなくひと塊りのフレーズとして覚えて歌いましょう。

歌詞のイメージを反映して、「長距離列車の疾走感」「貨物列車の重量感」「ずっと先まで走り去っていくせつなさ」みたいなものが表現出来ると素晴らしいですね。これは演奏する人もイメージを一致させたいところ。それが出来るとただのファンク曲ではなく「ロック」として成立するのかと思います。



■歌詞

Down around the corner
Half a mile from here
You see them long (old) trains runnin'
And you watch 'em disappear

Without love
Where would you be now?
Without love

You know I saw Miss Lucy
Down along the tracks
She lost her home and her family
And she won't be coming back

Without love
Where would you be right now?
Without love

Well, the Illinois Central
And the Southern Central Freight
Got to keep on pushin', mama
'Cause you know they're runnin' late

Without love
Where would you be now-na-na-now?
Without love

Well, the Illinois Central
And the Southern Central Freight
Got to keep on pushin', mama
'Cause you know they're runnin' late

Without love
Where would you be now-na-na-now?
Without love


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