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セッション定番曲その70:You And The Night And The Music(あなたと夜と音楽と)

ジャズセッションでの定番曲。歌っても演奏しても、素晴らしい曲です。タイトルの優雅さも人気の秘密でしょうか。
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:あなたと夜と音楽と

恋をする為の要素がギュッと集まっていますね。恋愛対象としての「あなた」、舞台装置としての「夜」、演出としての「音楽」。言ってしまえば、それだけのことを歌っている曲ですね。

情熱的な(一夜の)愛を歌っている曲の中でも一番直接的な表現の歌詞かもしれません。そして、その後のふたりは長続きするのでしょうか。

ポイント2:メロディが狭い音域で歌いやすい

構成はスタンダードなAABA'で、それぞれ8小節ずつ。Aパートは低い音域でのメロディで、Bパートになると高音域に、最後のA'パートは低い音域で始まって一番最後だけ高音域。全体として音域は限られていて、構成的にも迷子になりにくいので、歌いやすい曲です。2-5-1になっている箇所が多いので演奏にも向いています。

アルバムのリード曲やライブのハイライト曲にはならないかもしれないけれど、レパートリーに入れておくには最適の曲だと思います。後述のように本当に沢山の人が歌い、演奏している曲です。

ポイント3:ヴァース(Verse)

あまり歌われることはないと思いますが、この曲にもヴァースがあります。

Song is in the air, telling us romance is ours to share
Now at last we've found one another alone
Love like yours and mine has the thrilling glow of sparkling wine
Make the most of time ere it has flown

前説として役割ですが、これもちょっとネタバレみたいな内容なので、いきなり「You and the night and the music…」と本歌が始まってしまう方が素敵な気もします。
「the thrilling glow of sparkling wine」という例えもちょっと陳腐ですね。

もしヴァースから歌うなら、思い切り引っ張って「思わせぶり」を演出するような感じにしたいですね。曲名を告げずに始めて、「えっ、この曲何だっけ?」と思わせておいて、本歌に突入。

ポイント4:歌詞のポイント、発音のポイント

You and the night and the music fill me with flaming desire
Setting my being completely on fire!

「You and the night and the music」が主語です。それが「flaming desire=燃え上がるような欲望」で「私を満たしてくれる」と。
それが「my being=私という存在」を「炎で包み込む」のだと。

「being」って少し哲学的で堅い言葉で、歌詞で使っているのはあまり見たことがありませんね。単に「me」と言うよりも「私の全部」というニュアンスが出るのでしょうか。

「flaming」「completely」ともに「L」音をちゃんと出しましょう。

いきなり出だしの歌詞から挑戦的というか、逃がさないぞというか、情熱100%の気持ちがこめられていますね。

You and the night and the music thrill me
but will we be one
After the night and the music are done?

この舞台装置としての「夜と音楽」が終わる頃には「私たちはひとつに溶け合っているのだろうか?」と。うわぁ。

「thrill」も発音が難しい単語です。「th」「R」「L」音をそれぞれ意識してスムースに発音しましょう。

Until the pale light of dawning and daylight hearts will be throbbing guitars
Morning may come without warning and take away the stars

夜も更けて、そしてやがて夜明けが近づいてくる。それまでにふたりの関係はどこまで進んでいるのだろう。という辺りを直接的に描かずに示唆している箇所だと思います。

「throbbing」は「ドキドキする/鼓動する」「動悸がする」という意味で、それを「ギター」の形容詞に使っています。ふたりの心臓の響きがまるで、と。
平易な言葉の多い歌詞ですが、「throbbing」だけはちょっと見慣れない言葉ですね。「th」音の後に「R」音が続けて出てきます。

If we must live for the moment, love till the moment is through!
After the night and the music die, will I have you?

最後は畳みかけるように「あなたは私のものになるでしょう?そうでしょう?」と・・・。

歌詞の詳細については文法も含めてこの方のブログが詳しいです。
ジャズ歌詞解説 ~You And The Night And The Music~ - 成見和子のブログ

ポイント5:Arthur Schwartz

作曲者のArthur Schwartzは1930-50年代にミュージカルや映画の為の曲を多く書いた人です。その中からいくつかがジャズスタンダード曲として残っています。「By Myself」「Alone Together」「Dancing in the Dark」「I See Your Face Before Me」「Alone Too Long」「A Gal in Calico」など。

By Myself Mel Tormé
Alone Too Long Nat King Cole

なお、ジャズスタンダードではありませんが一番有名なのは「That's Entertainment」かもしれません。
“That's Entertainment” from The Band Wagon 1953

ポイント6:テンポやリズムパターン

この後で例示しているように、パート毎にテンポやリズムパターンを変えている演奏/歌唱も多いですね。Aパートは普通に、Bパートからテンポアップ、というのもあります。どこかでまた元のテンポに戻る訳ですが。
もちろん事前の打合わせや譜面での指示が必要ですが、トライしてみるのも面白いですね。構成的に単純な曲だけに、そういう仕掛けが効果的だと思います。

原曲のワルツっぽいのも面白いし、ラテンでもいけますね。

ポイント7:色々なバリュエーションを聴いてみましょう

映画「バンドワゴン」の音楽として。3拍子っぽいですね。


Julie London、淡々としているけど官能的な歌唱。流石のエロ姉さんです。


Anita O'Day、速いテンポでの歌唱。後テーマでのファイクもいいですね。


Linda Bennett、ヴァースから歌っています。パートによって自由にテンポを変えているのが面白いですね。


Connie Evingson、ラテンアレンジでの歌唱。歌自体は意外とあさっりしています。


Tierney Sutton、技巧派らしく、声に表情を付けた歌唱。
You And The Night And The Music

Frank Sinatra、リズムの取り方は少し古臭いもするけど、余裕のある歌唱。
You and the Night and the Music

Mel Tormé、最初のバックのアップテンポな演奏と歌のミスマッチが面白いですね。


Jamie Cullum、歯切れよく元気な歌声。
You And The Night And The Music

Chet Baker、いつも通りのウジウジした歌唱。これはこれで官能的なのか?


Chet Baker、こっちはインスト。しっとしとした演奏ですね。
You And The Night And The Music

Bill Evans


Art Pepper、みんなが好きだった頃の演奏。


Ron Carter
You and the Night and the Music

Kenny Burrell
You And The Night And The Music

Shelly Mane、西海岸ジャズらしい淡白な演奏が好きな方に。
You and the Night and the Music

Bob Berg
You And The Night And The Music

NHØP Trio
You And The Night And The Music (Live)

モードで解釈した演奏説明


■歌詞

You and the night and the music fill me with flaming desire
Setting my being completely on fire!

You and the night and the music thrill me but will we be one
After the night and the music are done?

Until the pale light of dawning and daylight hearts will be throbbing guitars
Morning may come without warning and take away the stars

If we must live for the moment, love till the moment is through!
After the night and the music die, will I have you?


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