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セッション定番曲その11:No Woman, No Cry by Bob Marley & The Wailers

これもセッションイベントでの定番曲。実はがっつりレゲエでもなく、原曲はリズムマシンを使ったモダンなもの。大ヒットしたライブ盤ではテンポをぐっと落としてゆったりと歌われています。
(歌詞は最下段に掲載)

和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。


ポイント1:ジャマイカとジャマイカ英語

まずは背景から。ジャマイカはカリブ海にある島国で、英連邦に属しています。全体として決して裕福な国ではなく、若年層の失業率は高く、都市(首都はキングストン)部での犯罪率が高く、スラム地区の治安は最悪。

パトワ語」と呼ばれることもあるジャマイカ英語は英語とアフリカ言語などが混じって出来た訛りというか方言で話し言葉として使われますが、英語とは発音も全然違うので聞き取るのは困難です(私は簡単な辞書を持っています)。これが歌詞に使われるとちょっと調べないと意味不明です。まぁ、雑に言うと赤ちゃん言葉みたいな感じで読み解くと、「mi=I, me」「yu=you」「wi=we, us」「dem=they, them」「Mi a run=I am running」「Mi did run=I have run」「Wi no deh inna London =We are not in London」なんとなくパターンが見えますね。この動詞が変化しない話し言葉は英語が訛って使われる場合の典型です。

英国は植民地に対して酷いこともしましたが、実は英連邦諸国の初等教育は意外とレベルが高いようで、ジャマイカ人の多くもちゃんとした英語での読み書きは出来、普通の会話も出来るはずです。自分が話したのは旅行先のホテル従業員や店員さんなどなので、特別なのかもしれないですが。

で、そういう「ちゃんと英語でコミュニケーションが取れるミュージシャン」だというのもレゲエがこれだけ世界中に普及したのに貢献しているのかもしれません。


ポイント2:Trenchtown

I remember when we used to sit, In the government yard in Trenchtown

「Trenchtown」はキングストンにあるスラム地区のひとつ。「堀の町」という意味で、下水道用の堀があったことから付いた地名。悪い住みにくい場所でしょうね。世界のあちこちのスラム街を見ましたが、キングストン郊外のスラムは格段に酷いところでした。私がジャマイカに行ったのは大昔なので、今は少しは良くなっているのだろうか?建物の作りもボロボロで、とにかく治安が悪いから絶対に近くで車を止めちゃダメ、窓も開けない方がいいとガイドさんには注意されました。

ただ、そんなところでもそこで生まれ育った人達にとっては「故郷」です。だから懐かしい思い出を暖かい気持ちで歌っています。

「government yard」は政府が貧民層向けに建てた住居ビルの間の広場のことのようです。(「プロジェクト」と呼ばれるそういう建物は世界中にありますね)

ポイント3:Georgie

And then Georgie would make the fire light, I say
A log wood burning through the night
Then we would cook corn meal porridge, I say
Of which I'll share with you, yeah

GeorgieおじさんことVincent Fordはガバメント・ヤードで貧困者向け炊き出し所を営んでいて、若い頃のボブもその「corn meal porridge(おかゆ)」で飢えをしのいで生きていた。Vincent Fordはこの曲の作者としてクレジットされていますが、この人に作詞作曲スキルがあったとも思えず、鼻歌を歌っていたのにボブがヒントを得たとか、単に思い出からインスピレーションを受けたから感謝の意味でプレゼントしたとか、色々な説はあります。

身体に障害があり高齢だったGeorgieおじさんにとって、この大ヒット曲の印税はありがたかったと思いますね。私がジャマイカに行ったのはもう20年くらい前ですが、ボブ・マーレーの住居跡の記念館の庭にGeorgieおじさんらしき人がいて、焚き火をしていました。ガンジャで飛んでいる様子だったので、離れたところから見ていただけですが。

ポイント4:No woman, No cry

「No cry」=「Don't cry」ですね。こういうのも「英語話者でない人達の英語(ピジン英語)」。赤ちゃん言葉に近いですね。かえって気持ちが伝わるフレーズなのかもしれません。この曲が世界中で歌われることで、このフレーズが英語圏以外の誰にでも通じるものになってしまっているのが面白いですね。

ポイント5:Everything's going to be alright

ブリッジで出てくるこの繰り返しのフレーズ。「大丈夫だよ、心配いらないよ、全部うまくいくよ」と励ます言葉。
実際には「gonna be alright」と歌っていると思いますが、ここをいかに表情豊かに歌えるかは大事ですよね。8回じゃなくて何回繰り返してもいいです。メロディの上げ下げ、声量の上げ下げ、力強く、優しく、囁くように、明るく、しっとりと。色々な歌い方が出来るパートです。

ポイント6:Good friends we have had, good friends we've lost along the way

素晴らしい友達がいた。
途中で失ってしまった友達もいた。

人が死にやすい国と言ったら変かもしれませんが、実際にそういう国はあって、多くの人が「自分は長生きしないだろうな」と思いながら生きている。だからこそ生きている時間の価値を噛み締めている、と。

ジャマイカは犯罪率も高いし、特に(レゲエ)ミュージシャンは一発ヒット曲を出しても地域コミュニティから抜けられず、逆に妬みを買って襲われたり殺されたりということが頻繁にありました。「一発屋」が多いのにはそういう背景も。


■歌詞

No woman, no cry
No woman, no cry
No woman, no cry
No woman, no cry

'Cause, 'cause, 'cause I remember when we used to sit
In the government yard in Trenchtown

Oba, observing the hypocrites, yeah
Mingle with the good people we meet, yeah
Good friends we have had, oh good friends we've lost along the way, yeah
In this bright future you can't forget your past
So dry your tears I say, yeah

No woman, no cry
No woman, no cry, eh, yeah
Little darling don't shed no tears
No woman, no cry

Eh, Said, said, said I remember when we used to sit
In the government yard in Trenchtown, yeah

And then Georgie would make the fire light, I say
A log wood burning through the night
Then we would cook corn meal porridge, I say
Of which I'll share with you, yeah

My feet is my only carriage
And so I've got to push on through
But while I'm gone

Everything's going to be alright
Everything's going to be alright
Everything's going to be alright
Everything's going to be alright
Everything's going to be alright
Everything's going to be alright
Everything's going to be alright
Everything's going to be alright

So No woman, no cry
No woman, no cry, I say
Oh little, oh little darling, don't shed no tears
No woman, no cry


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