セッション定番曲その105:When Sunny Gets Blue
ジャズセッション定番曲。しっとりとしたバラードで、歌入りはもちろん、インストでも演奏されます。有名度でいうとそうでもないので、この曲を聴いたことないリスナーにどう伝えるか・・・
(歌詞は最下段に掲載)
和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。
ポイント1:何故この曲を選ぶのか?
スタンダード曲集には収録されていますが、他のジャズバラード曲に比べてそんなに有名でもなく、ジャズバラードを歌おうとする時に最初に選ぶ曲でもありません。もともとポップス曲として書かれたこともあり、メロディ的にも歌詞的にもちょっとジャズっぽくない曲ではあります。
誰もが歌う「Body And Soul」「Misty」などなら工夫して個性を出さないといけないですが、比較的知名度の低いこの曲なら選曲だけで「おっ!」と思わせることも出来るかもしれません。
初めて聴く人にも聴きやすいメロディと歌詞。割と素直に歌うだけで感情が伝わりやすい曲ですが、演歌/ムード歌謡っぽくなりがちなので、ジャズバラードとして表現する覚悟が必要です。
ポイント2:McCoy Tyner
まずはこのインスト演奏から。ポップスっぽい(歌謡曲っぽい)メロディのこの曲を品の良いジャズバラードに仕立てています。McCoy Tynerのピアノも「弾き過ぎない」演奏で、ずっと歌メロを感じられるものです。
バラード曲って余計なことをして演奏が長くなりがちですが、3分20秒の中に気持ちの良い演奏が詰まっています。
ポイント3:なぜSunny(女の子)はブルーになっているのか
どうも彼女は彼氏にフラれて落ち込んでいるようです。
When Sunny gets blue
Her eyes get gray and cloudy
Then the rain begins to fall
Pitter-patter, pitter-patter
彼女の瞳が曇ると、天気も悪くなって、雨まで降り始めてしまう。
When Sunny gets blue
She breathes a sigh of sadness
Like the wind that stirs the trees
Wind that sets the leaves to swayin'
彼女がため息をつくと、風が吹いて木の枝や葉っぱを揺らしてしまう。
魔法でも使えるのか、迷惑な失恋ですね。彼女はまだ若いのかな?
ポイント4:Sunnyは本当は陽だまりのように明るい娘なのに
People used to love to hear her laugh, see her smile
That's how she got her name
Since that sad affair, she's lost her smile, changed her style
Somehow she's not the same
みんな彼女の笑顔や笑い声が大好きだった。
彼女の名前はそれにピッタリだった。
それなのに失恋は彼女を完全に変えてしまった。
まだ経験が少ないのか、それとも余程大好きな相手だったみたいですね。
恋愛に生きる若い女性。それいん周囲は巻き込まれていきます。
ポイント5:Pitter-patter, pitter-patter
日本語の詩や歌詞ってオノマトペ(擬音語、擬態語)が多用されますよね。リズミカルにもなるし、間接的な情景描写/感情描写にもなるし、便利な言葉です。
日本語には4,000種類以上のオノマトペがあると言われているのに対して、英語では1,000種類程度しかありません。コミックなどでも擬音語の代わりに動詞が使われているコマを見かけますね。
「pitter-patter」は動詞でもあり、名詞でもあり、副詞でもありますが、その数少ないオノマトペのひとつです。オノマトペってなんとなく何を表現しようとしているのか、音の感じで推測出来ますよね。「土砂降りではない、穏やかな雨が地面を叩く」感じ、あるいは「ドタバタではなく、小さな足音がしている」感じ。英語話者に聞くと「オノマトペは子供っぽい感じがする」という人もいますね。
それを分かった上でこのパートを歌うと意味が伝わりますね。
静かに深く悲しんでいる様子。すぐには止みそうにない雨。
*日本語だと「雨が降る様子」についてだけでもすごい数のオノマトペがありますね。やはり四季とともに暮らす文化なのだと思います。
ポイント6:みんなが彼女を励ましているけれど・・・
But memories will fade
And pretty dreams will rise up
Where her other dreams fell through
Hurry new love, hurry here
To kiss away each lonely tear
And hold her near when Sunny gets blue
また次の恋がすぐにやってくるよ、と。
そして新しい恋人に「もしもSunnyがブルーになってしまうことがあったら抱きしめてあげて」と。
歌詞的にはずっとSunnyは主人公だけど、失恋したという以外の情報はあまり無くて実際にはどんな女の子なのかよく分からないところがあります。結局、彼女の様子を観察して、彼女に立ち直って欲しいと歌っている人が主人公の曲なのかもれません。後述のように歌い手が男性なのか女性なのかでSunnyとの関係性は変わってきます。
ポイント7:比較的新しいポップス曲
この曲は1956年に書かれているのでジャズスタンダードとしては比較的新しい曲です。当初はJohnny Mathisのデビュー曲のB面曲だったようで、ポップスとして書かれています。その後ジャズ歌手にも歌われてスタンダード化します。
1950年代後半はまだロックンロール時代が本格的に到来しておらず、ジャズとポップスを行ったり来たりしている歌手も多かったようです。「ポピュラー音楽としてのジャズ(ボーカル)」がまだ人気があった時代。
その後、ポップス/ロックが人気になると「ジャズボーカル/ジャズボーカリスト」は主流から外れて傍に追いやられていきます。ジャズ業界(村)の中で細々ながら生き残っていく訳ですが。
現在「ジャズボーカル(界)」がちょっと意固地になって存在感を維持しようみたいな感じになっているのは、この時期からの村内論理が残っているのかもしれませんね。アルバム(というか音源)の売り上げがお情け程度でも、ライブ出演の場所が小さなジャズクラブに限られていても、妙にプライドが高くて、「懐メロじゃなくて、生きている音楽なのだ」「ポップスよりも高級な音楽だ」と主張するのも、なんか徒弟制度が残っているのも、村内評価がいまだに重視されているのが原因かもしれませんね。脇道に逸れました・・・。
ポイント8:女性ボーカル
女性がこの歌詞を歌うと「同性の友達を応援する」感じになるので、男性が歌うよりも感情豊かになる気がします。下記で紹介している歌唱はどれも魅力的です。
Carmen McRae、1964年録音
なんでもドラマチックに歌ってしまうCarmen McRae。かなり重苦しい雰囲気です。
Anita O'Day、1960年録音
語るような歌唱。彼女の少ししゃがれた声が「若い友達(女性)」を気遣っているような印象です。
弘田三枝子
「w」の発音が少し気になるけど、素晴らしい歌唱と演奏。曲を自分のものにするってこういうことですね。
June Christy、1957年録音
音を引っ張る時の自然なビブラートがいい感じ。
Norah Jones、2002年録音
同世代の女性の友達を気遣う感じ。メランコリックだけどサラッとしているのが個性。
ポイント9:男性ボーカル
立場的には「傍観者」もしくは「父親のような気持ちで接している年長者」ですかね。その包容力をいかに表現するか。
Nat King Cole、1957年録音
歌詞の説得力が半端ないです。明瞭な発音と発声、温かく優しく力強い歌声。歌詞の一句一句が沁みます。
Mel Tormé、1964年録音
歌詞を朗読するような歌い方。細かいフェイクがいちいちオシャレ。
ポイント10:インスト
Sonny Stitt with Jack McDuff、1962年録音
Chet Baker、1988年録音
Kurt Rosenwinkel、2009年録音
◾️歌詞
When Sunny gets blue
Her eyes get gray and cloudy
Then the rain begins to fall
Pitter-patter, pitter-patter
Love is gone so what can matter?
No sweet lover man comes to call
When Sunny gets blue
She breathes a sigh of sadness
Like the wind that stirs the trees
Wind that sets the leaves to swayin'
Like some violins are playin'
Weird and haunting melodies
People used to love to hear her laugh, see her smile
That's how she got her name
Since that sad affair, she's lost her smile, changed her style
Somehow she's not the same
But memories will fade
And pretty dreams will rise up
Where her other dreams fell through
Hurry new love, hurry here
To kiss away each lonely tear
And hold her near when Sunny gets blue
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