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【実情】新型コロナウイルスに関するロシアの経済支援策のまとめ【期待通り?】

目次:
①結論
②中小企業支援策リスト(2020-04-30時点)
③現地の経営者にとってこれはどうなの?
④まとめ
⑤感想・雑談

①結論

リーダーシップや決定の素早さが評価されるロシア。自宅隔離中の経済補償はどの程度すごいのでしょうか? 前回の記事ではルールについて解説しましたが、今回は政府の支援策策について、現状をまとめてみました。

さて結論から言うと、現時点で発表されている支援策は、ロシアの中小企業や個人事業主にとって、ため息をつくしか無いような内容だと思います。

プーチン大統領は、5月11日までの「有給の非労働期間」を打ち出しました。これは「非常事態宣言」でありません。企業にとってみれば、収入がないなか給料の支払いを強制され、なおかつ補償もあまり期待できないという泣きたくなるような状況なのです。

以下のリストを見れば現状発表されている支援策がある程度わかるようになっています。他国との比較など、参考にご活用ください。

②中小企業支援策

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公式の特設サイトで発表されている中小企業支援策は以下8項目です:

①破産モラトリアム・・・・・・・(破産勧告を遅らせる)
②ビジネス監査モラトリアム・・・(中小企業の内部査察は一時停止する)
③ローン支払い遅延・・・・・・・(特定の借金は返済遅れてOK)
④給料支払の為の無利息ローン・・(条件付きで無利子でお金を貸す)
⑤社会保険料の削減・・・・・・・(社会保険料は一部安くする)
⑥納税先送り・・・・・・・・・・(一部の税金支払は少し先延ばし可能)
⑦賃料の支払い延期・・・・・・・(家賃支払いの後払い推奨)
⑧輸出業者へのヘルプ・・・・・・(輸出業者へ助言する)

独断と偏見でカテゴリにわけるとこんな感じでしょうか:

ちょっと休むわ系・・・・・・②
後で払ってね系・・・・・・・①③⑥⑦
お金貸すね系・・・・・・・・④
少し減らすね系・・・・・・・⑤
お金出すぜ系・・・・・・・・見当たらず ※2020-04-30時点で

直接お金を支給して補助するというものはここには見当たりません
融資は条件付きの上、微々たるもの(従業員一人頭12,130ルーブル≒17,677円程度)各種支払いの猶予についても「措置を推奨する」的なものが多く確固たる効果を期待できるものがみあたりません。正直中小企業の経営者から見て、これでは足しになりません。

尚、第二弾の補償パッケージというものが経済発展省のページに記載されており、ここでは従業員1人あたり最低賃金(12,130ルーブル≒17,677円程度)を支給するという現金支給の制度が書かれています。しかし前月と比較し9割の雇用を満たしている必要がある、などと条件が書いてあり、経営者にとっては悪い冗談にしか思えないものです(現代ビジネスのこの記事にも詳しく掲載されています)

それでは実際に現地で弱小企業を運営している私の立場として、この政策がどうなのか個別にみてみましょう。

③現地経営者にとって実際どうか?

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①破産モラトリアム
債権者による、債務者の破産申請の受付は停止される。 裁判所は破産手続き手続きを一時停止。 債務者が法廷に行く権利は残っている。

不渡りを出してもその間金策に邁進できるので元々倒産寸前の人には渡りに船かもしれないが、そもそも不渡り出している時点でやばいですし、現時点の私にとってあまり意味がありません(もちろんこの状態が続けば破産する状況も十分有りえますのでその時は…)

②ビジネス監査モラトリアム
中小企業の監査は中止。 すべてのライセンスと許可は6か月間自動的に更新される。

→そもそもいま役所がお休みだったりしてあまり稼働していないので。「お互い休もうぜ」という話かと思います。しかし、この書類大国で、書類の効力が自動的に更新されるのは画期的だと思います。

③ローン支払い遅延
信用機関がロシア連邦の経済開発省のプログラムに参加している場合、起業家は6か月のローン遅延を得ることができ、銀行に対する連邦補助金による繰延債務の額の削減も期待できます

「期待できます。」はい、確証なし。特定の場合とか条件付きだし、大企業が特定の制度を使って借りてるとかじゃなければ難しそう。詳しくはわかりませんけど。そんな気がします。

④給料支払の為の無利息ローン
大中小企業および最も影響を受けたセクターの個人起業家は、従業員に給与を支払うために、銀行から6か月間無利子の融資を受けることができる。 但し、会社は少なくとも1年間操業している必要があり、 破産手続中の会社には適用されない。 中小企業以外の組織の従業員数は、報告月の前月の従業員数の少なくとも90%である必要がある。

ひとり頭最低賃金(12,130ルーブル≒17,677円程度)までと条件があり、お話になりません。地方の工場で労働者を大量に雇っている場合は多少良いかもしれません。いずれにせよ借金です。

⑤社会保険料の削減
中小企業および個人起業家の場合、保険料の総額は30%から15%に引き下げられます。

→社会保険料が少し安くなるのはありがたいですが、中小にとってインパクトは少ないです。

⑥納税先送り
感染症に最も影響を受けた10のセクター(全リストはこちら)の企業について消費税を除くほぼすべての税金の支払いの延期と、他のすべての起業家への税金の一部について話し合っています。

話し合っているとのことですのでまだ確証はありません。消費税は適用外だし、そもそも赤字なら(殆どそうだと思うが)法人税の支払いはゼロです。中小にとってはこのあたりを延期された程度では大した足しになりません。たぶん書類手続きが増えて面倒なだけです。

⑦賃料の支払い延期
賃貸料の支払いの遅延は、州、地方自治体、私有、それぞれの物件(住宅を除く)に適用される。テナントは、2021年1月1日から2023年1月1日までの2年間で繰延負債を支払うことができる。 不動産の所有者は、遅延を理由に罰金または支払い手続きや他の措置を適用することを禁止されています。
また賃貸人はテナントとの合意により、家賃の額を引き下げることをお勧めします。

ホントかよ?と思いましたが案の上「お勧めします。」と書いてある。そうでしょうね。私有物件の個々の契約に対して厳密には強制力はないと思います。政府や自治体からの賃貸でなければ、あまり期待できないと考えます。

⑧輸出業者へのヘルプ
ロシアの輸出センターは、業界の状況や企業の詳細を考慮して、起業家に的を絞ったアドバイスを提供し、物流の問題を解決する。

物流が問題なくできるようにするのはそもそも当たり前だと思うのですが。。。支援の精神はありがたいです。しかし追加の支援制度として発表するようなものなのか疑問です。

④まとめ

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現在の補償パッケージをみると、資金援助は限定的で中小企業にとってあまり足しにならないという印象です。

「非労働期間を実施する。有給で(キリッ!)」

と高らかに発表していましたので、給料は政府から支給されるのかなと期待していましたが、結局は経営者が涙目になるしかなさそうです(現時点)

そもそもこの「有給の非労働期間」まるで経済全体が国営であると想定しているようなお話だと思いませんか?政府役人、国営企業の従業員、および大企業の従業員は、もちろん給与を受け取り、会社側も補償制度もうまく活用するでしょう。

しかし中小企業は収入の機会を絶たれた上に有給の固定費を支払い続けるような資金力はありません。また個人事業主、たとえばツアーガイド、タクシー運転手、ウェイター、美容師などは、収入の機会を完全に絶たれ、ただ路頭に迷うしかないでしょう。

中小企業は2020年初頭にロシア経済の20%強を占めました。プーチン大統領は2024年までにロシアのGDPに貢献する中小企業の量を40%に増やすという公式の目標を設定しています。ぜひ中小企業や起業家・個人事業主を元気付ける政策に力をいれてもらいたいと思います。ボス、がんばりますから!

⑤感想

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というわけで、いかがだったでしょうか?
ドイツ・フランス・日本などと比べてしまうと、ちょっと桁が違いますね。

新型コロナウイルス(COVID-19)による影響を受けた事業者へ対する各国の補助金などの対応

とはいえ、正直私は、最初から何も期待していませんでしたので、なんの驚きもありません。

こんな中、私はロシアで「感染症に最も影響を受けた10のセクター」に3つも事業を立ち上げてしまい、皆様にご冥福をお祈りされる立場となってしまいました。

しかし、そもそもリスクを負って独立起業を決めたのは自分ですから致し方ありません。自らの意思でロシアに来られた方々は、みなそう考えているだろうと思います。

「天は自ら助くる者を助く」というすばらしい格言があります。
「お上が何をしてくれるか」ではなく、「自分は何をするか」を常に考えましょうという格言です。ロシアではこの考えを常に持ち続けていれば大丈夫です。

辛くても自分で道を切り開く努力を続けていれば、いずれ光は見えてくると信じています。

それでは、次回は個人に対する社会政策についてまとめます。スパシーバ!

廣瀬功

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