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傑作だが忙しない『リメンバー・ミー』

『Coco』★★★☆。(4ツ星満点中、3ツ星半。)

ピクサー19作目の長編映画は、メキシコの伝統行事「デイ・オブ・ザ・デッド(死者の日)」を下地にしたファンタジー・ アドベンチャー。『トイ・ストーリー3』のリー・アンクリッチ監督に加え、ピクサーでストーリーおよびストーリーボード・アーティストとして活躍してきたエイドリアン・モリーナが共同監督を担当。邦題に採用されたテーマ曲「リメンバー・ミー」は、「レット・イット・ゴー」のクリステン・アンダーソン=ロペス&ロバート・ロペス夫妻が作詞作曲。ピクサー作品には珍しく、音楽をテーマとしたミュージカル色の強いオリジナル作品となっている。

公開初週は北米で71億円(1ドル100円換算)を計上し、前週1位の『ジャスティス・リーグ』を容易に下して首位の座に。お膝元のメキシコでは、同国史上最大のヒット作となった。批評家受けもすこぶる良く、続編に次ぐ続編でスレートが埋まりがちなピクサーのブランド・パワーに面目躍如のきっかけを与えた。

なお、ピクサー作品お決まりの短編同時上映作品は、初のディズニー・ブランドとのクロスオーバー『アナと雪の女王 / 家族の思い出』。短編と呼ぶにはすこぶる長い「21分」という尺が、巷で賛否両論の物議を醸している。単純に、長い。

[物語] 

サンタ・セシリアの田舎町に暮らす12歳の少年、ミゲル・リヴェラ(アンソニー・ゴンザレス)。ひいひいおばあちゃん、いわゆる高祖母から代々引き継がれてきた靴職人の息子として生まれた彼には、ひとつの悩みがあった。リヴェラ家は、彼の大好きな音楽をまるっきり認めない「音楽禁止」の一族だったのだ。そんなリヴィエラ家と、ミュージシャンを夢見るミゲルの関係は、ご先祖様を偲ぶ祭日「死者の日」での些細な騒動をきっかけに歪んでしまう。そして、家族を軽んじて夢を追いかけようと決心するミゲルの行動は、彼をご先祖様たちが暮らす「死者の国」へと迷い込ませてしまうのだった。現世へ戻るため、そして自身の夢と向き合うための、ミゲルの冒険が幕を開ける。

[評価]

ハリウッド映画で「フォー・クオドラント向け」とは、「25歳以上・以下の男女」に大別される4つのデモグラフィの全てにアピールする作品のことを言う。ピクサー作品が、その他多くのメジャー・スタジオでプロデュースされるアニメーション長編と大きく水を分けることができるのは、この「フォー・クオドラント」をデモ別に取り込むストーリーテリングの巧みさによるところが大きい。

『リメンバー・ミー』は、そのことを改めてアピールする映画だ。ご先祖様に敬意を払い、血脈と家族を重んじるテーマはもとより、そのテーマを証明するのに効果的な起伏が与えられている。その特徴的な物語構成は本作でも健在だ。ピクサー作品の十八番とも言うべき「エモーショナル」な急展開の数々は、理にかなった設計に裏付けられている。察すれば勘づいてもおかしくない事実が、心動かされるようなシーン展開で明らかになっていく。その「押し」のポイントが、すべからく異なる世代同士を結びつける役目を持っているから、強い。

ビジュアル面も、豪盛極まりない。田舎町サンタ・セシリアひとつをとっても、リヴェラ家、広場へと通じる小路、そして墓地に至るまで、セット数が単純に多い。ひと言で出番を終える町民も、道行く人の数も膨大だ。物語の主な舞台となる「死者の国」は、なおさらのこと規模感で圧倒してくる。かつてのミュージカル全盛期のダンスシーンを想起させるような画角の広いショットが頻繁に使われるため、背景がフレームの大部分を占領していることも影響している。メキシコ文化に影響を受けた鮮やかな色味が、『ふしぎの国のアリス』や『千と千尋の神隠し』に似た「別世界」を効果的に彩っている。

ただ、だからこそ近年のピクサー、ひいては最近の映画界の時流に特有な「せわしなさ」があることも無視できない。『カーズ2』『モンスターズ・ユニバーシティ』『ファインディング・ドリー』にも通じるのは、ストーリーの「ビート」がとにかく多く、物語が呼吸をしている暇がないこと。もちろん、どのステップにも物語を前に進めるための役目があるため、単純に削って良いシークエンスはない。けれど手続きが細切れなために、感情的な起伏に欠けるシーンも随所に見られる。大広場での音楽祭と、「死者の国」での音楽祭の重複も、それらと物語後半の大規模なパーティとの物語上のデジャヴ感はその顕著な例だろう。3幕目のショーダウンへと導くきっかけにも、かろうじて見出せるような連続性しかない。

それと比べると、たとえば『千と千尋の神隠し』が1幕目に費やした尺の短さとインパクトの強さに、改めて気付かされる。ところどころ要素を取りまとめて、より強力なビートを作ることは叶わなかったのか、と思いを巡らせてしまう。

それでも、映画後半での畳み掛けるような感動は、映画館で味わって損はしない。やはり総じて言えば、目の保養にもなる安定のピクサー作品なのだ。

[クレジット] 

監督: リー・アンクリッチ、エイドリアン・モリーナ(共同監督)
プロデュース:ダーラ・K・アンダーソン
脚本:エイドリアン・モリーナ、マシュー・アルドリッチ
原作: リー・アンクリッチ、ジェイソン・カッツ、マシュー・アルドリッチ、エイドリアン・モリーナ(ストーリー)
撮影:マット・アスバリー、ダニエル・ファインバーグ
編集:スティーブ・ブルーム、リー・アンクリッチ
音楽:マイケル・ジアッチーノ
出演: アンソニー・ゴンザレス、ガエル・ガルシア・ベルナル、ベンジャミン・ブラット、アラナ・ユーバック、レニー・ヴィクター、アナ・オフェリア・ムルギア
製作: ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ、ピクサー・アニメーション・スタジオ
配給(米):ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ
配給(日):ウォルト・ディズニー・ジャパン
配給(他):N/A
尺:109分

ウェブサイト:ディズニー公式HP

北米公開
:2017年11月22日
日本公開:2018年3月16日

鑑賞日
:2017年11月26日10:30〜
劇場:Pacific Theaters Glendale 18 w/Y

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