小原 康平

日本でアニメのプロデュースに携わって、2010年にアメリカへ渡り映画大学院(AFI)を…

小原 康平

日本でアニメのプロデュースに携わって、2010年にアメリカへ渡り映画大学院(AFI)を卒業。2019年から再び動画配信事業者にてアニメの企画開発を担当したのち、この度アメリカへ再移住しました。(2023年9月〜)

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伝えるに足る表現行為

『誰にも見せないことを前提にはじめたブログを公開したら、「スキ」や「Like」の数が途端に気になるようになってしまった。』 という冒頭部分だけを記した下書きが、2年以上も一覧の下のほうで眠っていました。 一度、パンドラの箱を開けてしまったら戻れないんだ、とでも言いたげな含み。 表現行為には、大きく二種類の出発点があるのだと思います。 自分のために残すものと、他人に向けて綴るものと。 「伝わる」あるいは「伝えるに足る」表現とは、その両方をバランスよく備えているのだと思

    • 『フォールガイ』:職人仕事にひたる多幸感

      『The Fall Guy』★★★★。 IMDb | Rotten Tomatoes | Metacritic 公開日:2024年5月3日(金)(北米) 公開日:2024年8月16日(金)(日本) 今年に入って、好きになっていいアクション映画の筆頭にあげたい。大味な90年代アクション映画へのオマージュ、スタントマンと裏方スタッフへのリスペクトに、相性もパフォーマンスもキレッキレの主演陣。 これだけ直線的なプレミスに$120M(現為替で183億円あまり)もの制作費を正当化で

      • 『チャレンジャーズ(原題)』:テニスとベッドで重ね合う、心と身体のスリル

        『Challengers』(2024)★★★・。 IMDb | Rotten Tomatoes | Metacritic 公開日:2024年4月26日(水)(北米) 公開日:未定(日本) 最初に言いたくなることとしては変だけど、メイクと衣装が地味にすごい。主役の3人が、年代ごとに高校生、大学生、そして子持ちの社会人にしっかり見分けられるのは職人技のマジックのようだった。 というのも、この映画の語り口の肝は時間遊びにあるから、キャラクターの年頃や言動が見る人の理解度になおさ

        • 『モンキー・マン(原題)』:「演じたい役は自分で書け」を実現した復讐アクション

          『Monkey Man』(2024)★★☆・。 IMDb | Rotten Tomatoes | Wikipedia 公開日:2024年4月3日(水)(北米) 公開日:未定(日本) 血とか汗とか涙とか、ヨダレとか。川の水とか、トイレの水とか、あとははらわたの汁?とか。いろんな液体が…たくさん…。 デヴ・パテルが主演し、脚本・監督としてもデビュー作となった本作のリビドーは、演者としてのパフォーマンスへの情熱が起点になっているのだろう。なにせ俳優が、演じたい役柄を自分で書き、

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          『リプリー』:古典原作の新解釈が不気味で笑えてオススメな件

          『Ripley』第1-8話(2024年)★★★★。 Netflixで4月4日から配信開始されたドラマ『リプリー』がイイ。 このご時世に白黒だし、アクション性もないので一見とっつきにくいかもしれない。でも近年でも出色のサスペンス・スリラーで、噛むほどに味わい深いスルメドラマ。原作や過去の映像化作品を知る者も、そうでない人も、一見の価値あり。 原作と映像化の背景 もともとはShowtime(パラマウント系列のケーブル局)で制作に漕ぎ着けたドラマだ。ShowtimeがPar

          『リプリー』:古典原作の新解釈が不気味で笑えてオススメな件

          『シビル・ウォー(原題)』:シリアスな社会派ドラマ、に見せかけたド根性戦争サスペンスな記者物語

          背景 アレックス・ガーランドといえば、ダニー・ボイル監督とのタッグで名を挙げた英国出身の小説家、脚本家、監督。小説『ザ・ビーチ』を執筆し、レオナルド・ディカプリオ主演の映画化(2000)でボイルと初めて絡んだ。同作は酷評されたが、タッグはゾンビ映画の名作となった『28日後…』(2002)で開花し、その脚本でゾンビ・パンデミックものの定義を塗り替えた。 その後『サンシャイン 2057』(2007)『わたしを離さないで』(2010)とSF作品の脚本執筆に徹するガーランド。『ジ

          『シビル・ウォー(原題)』:シリアスな社会派ドラマ、に見せかけたド根性戦争サスペンスな記者物語

          『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』:23年の隠れた名作アニメ

          『Teenage Mutant Ninja Turtles: Mutant Mayhem』(2023年)★★★☆。 見る気にならなければ、見ない理由はいくらでも並べられる。が、見たら驚かされる。23年の隠れた良作。 先入観 絵作りは『スパイダーバース』の後追いや二番煎じと言う者もいるだろう。「ニンジャタートルズはいろんなシリーズ作りすぎ」と、ニコロデオンの節操のなさをなじる者もいていい。どれも先入観としては当たっている。 そんな先入観をしっかり裏切ってみせるのが、セス

          『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』:23年の隠れた名作アニメ

          『ゴジラxコング 新たなる帝国』:頭カラッポの方が(怪獣プロレスの)夢詰め込める

          『Godzilla x Kong: The New Empire』(2024年)☆・・・。 近年でも稀に見る知能指数の低さで…そんなことを恥じ入るべくもなく。どこまでも怪獣プロレスに徹する1時間51分。もうCHA-LA、HEAD-CHA-LA。 日本に限らず、アメリカの観客が『ゴジラ-1.0』をとびきり楽しんで評価するのも、わかる。ハリウッドがこれだけ割り切った代物を作っていると知れば、わかってあげられる。これは見紛うことなきモンスター・パルーザ的WWEで、怪獣映画に知性

          『ゴジラxコング 新たなる帝国』:頭カラッポの方が(怪獣プロレスの)夢詰め込める

          『デューン: 砂の惑星 PART 2』:超級大作映画による娯楽と芸術の両立

          『Dune: Part Two』(2024年)★★★★。 難解なものを、難解さを残したまま、見たいものにする。 ドゥニ・ヴィルヌーヴの『DUNE 砂の惑星 パート2』が1.9億ドル(およそ288億円)の超大作映画で冒険しているのはこの点だ。 プロット上、疑問符が確実に上がる些事にはじまり。箱に手を入れると何かの適正が見られるとか、人間コンピュータが脳内でいろんな計算ができるとか(これは考えてみれば50-60年代の昔に戻っただけだけど)、全身を包むスーツが老廃物から水分補

          『デューン: 砂の惑星 PART 2』:超級大作映画による娯楽と芸術の両立

          『ゴーストバスターズ:フローズン・サマー』ウェルダンだが加齢臭にじむフランチャイズ続編

          『Ghostbusters: Frozen Empire』(2024年)★★・・。 コアファンに牙を剥かれて炎上した2016年公開の女性版から素早く身を翻し、旧キャストのみならず監督までを血筋と縁故で固めたリブートシリーズ『ゴーストバスターズ』。 ↑ からの。↓ 通算3作目『アフターライフ』(2021年)に続く本作『フローズン・サマー』(2024年)は前作の物語を継承した、完全なるフランチャイズ作品。 当時から変わらないプロトンパック、ゴーストトラップ、ECTO-1、

          『ゴーストバスターズ:フローズン・サマー』ウェルダンだが加齢臭にじむフランチャイズ続編

          『落下の解剖学』幾重に重なるテーマ性、高い技術力と表現力

          『Anatomy of a Fall』(2023年)★★★☆。 法廷ドラマ、というより法廷ミステリーか。ジュスティーヌ・トリエ監督(『愛欲のセラピー』『ヴィクトリア』)が脚本も共著したオリジナル作品として、ヨーロッパの各賞を席巻している。 フランス南東部はグルノーブルで人里離れて暮らす3人家族。夫・サミュエル(サミュエル・タイス)の転落死に他殺の疑いがかかり、容疑者として起訴されることになる、妻で小説家のサンドラ(サンドラ・ヒュラー)。 その嫌疑が、果たして正しいか否か

          『落下の解剖学』幾重に重なるテーマ性、高い技術力と表現力

          『ボーはおそれている』重度不安障害の世界にひたる、笑いの2時間59分

          『Beau is Afraid』(2023年)★★★☆。 これは大事な映画だ。湧き上がる恐怖をちゃんと笑い飛ばせれば、面白さが倍増する。 重度な精神疾患者の目線を、驚くほど壮大なスケールで再現する。それが本作の核だ。心優しいからこそ、生活に支障をきたすレベルの不安障害を抱えた男が、母にまつわる出来事をきっかけに珍道中に巻き込まれる。 途中、精神疾患の原点と思しき原体験の切れ端がたびたび割り込んできては、主人公ボー(ホアキン・フェニックス)の現実と混ざり合う。その現実は、

          『ボーはおそれている』重度不安障害の世界にひたる、笑いの2時間59分

          『コカイン・ベア』愛嬌あるバカバカしさ

          『Cocaine Bear』(2023年)★★☆・。 このバカバカしいプレミスに、錚々たる製作陣が並ぶ。 『ピッチ・パーフェクト』続編や『チャーリーズ・エンジェル』リブート作のエリザベス・バンクス監督作、『スパイダーマン』のアニメーション長編シリーズや『LEGOムービー』などのフィル・ロード&クリス・ミラーのコンビがプロデュース。 アイス・キューブの息子のオシェア・ジャクソン・Jr、失敗作扱いだがスター・ウォーズのスピンオフでハン・ソロ役を務めたオールデン・エアエンライ

          『コカイン・ベア』愛嬌あるバカバカしさ

          『雪山の絆』現実からメッセージを引き出す手腕

          『Society of the Snow』(2023年)★★★☆。 J.A.バヨナ監督作といえば、ディザスター・サスペンスが印象的。 タイでの津波被害を生き抜くイギリス人家族のドラマ『インポッシブル』は、津波の猛威で生き別れた家族が再会するまでの物語だった。水流や流木による怪我の仕方に至るまで生々しく描写した点が特徴的。タイで大勢が亡くなった天災をイギリス人視点で描くことに引っかかりはあるが。 『雪山の絆』はその手腕を存分に活かすディザスター・サスペンスであり、実話に基

          『雪山の絆』現実からメッセージを引き出す手腕

          『ザ・ホールドオーバーズ(原題)』居残り学生と嫌われ教師の冬休み

          『The Holdovers』(2023年)★★★★。 快作。 一見既視感のあるプレミスだが、神はディテールに宿る。 アレクサンダー・ペイン監督、ポール・ジアマッティ主演といえば『サイドウェイ』のタッグチームだ。 そのコンビが、1970年のニュー・イングランドにある全寮制男子学校でのひと冬を描く。休みのあいだ、実家に帰れない数名の学生たちを泊まり込みでお守りする嫌われ教師と、母親に帰省を拒まれた問題児との関係を中心に展開する。 監督の演出はともすれば古臭いが(じわり

          『ザ・ホールドオーバーズ(原題)』居残り学生と嫌われ教師の冬休み

          『アメリカン・フィクション』インテリが逆差別と衆愚に挑むとき

          『American Fiction』(2023年)★★★・。 ハイブラウな映画だ。 物書きの苦悩、特に世間との感覚のズレを感じる男の憤りと、その私生活。そこへ一石を投じる行動が、思わぬ出来事のドミノ倒しを呼ぶという、シニカルなコメディ。 パーシヴァル・エヴェレットの2001年の小説『イレイジャー』を原作に、今をときめくライター、コード・ジェファーソンが監督デビューした本作。 これ、いくつかの映画を足して割ったかのような構造になっている。 アレクサンダー・ペイン『サイ

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