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「Web3」とまちづくりの親和性〜バーチャルな街のレイヤーをいかに展開するか

はじめに〜実際にEthereumでプログラムを書いてみた話

今、世界中の様々なところで「NFT」や「Web3」が話題になっていて、どうにも胡散臭く思っていた。NFTがアートの世界などで重要な技術となりそうなことはわかるものの、あんまし面白いとも思えない。投機的な話題が盛り上がるにつれ、さらに興味を持てなくなっていた。僕と同じような人も多いのではないか。

ところがあるドキュメンタリー作家の友人と議論していたときに、NFTや仮想通貨の話が出て、議論するにつれてどうにも面白そうな気がしてきた。彼自身も実はよくわかっていないのだが、そのよくわからなさにむしろ興味を持った。ブロックチェーンやNFTについて基礎的なことは理解していたつもりだったが、話せば話すほどよくわからなくなっていく。その一方で可能性のようなものも薄朧げに見えてきたように感じられ、興味をもった。

家に帰るとすぐにEthereum(ブロックチェーンを実装するオープンソースのシステム)の仮想的なネットワークを構築し、そこでいくつかアカウントを作ってブロックチェーンネットワークを自作して遊んでみた。さらにその自前のネットワーク上で動く自動送金のプログラムなどを書いてみて色々と動かしてみたところ、ブロックチェーン技術の具体的な実装表現もかなりよくわかってきた。同時に、「DAO(Decentralized Autonomous Organization、分散型自律組織)」という考え方を軸としてNFTやWeb3なんかを理解すると、それらがかなり一気に理解できるとともに、とても面白い概念であると感じられることもわかってきた。

実はNFTやブロックチェーンは、それだけを技術的に理解してもあんまり面白くない。むしろその技術を軸として生まれてくる様々な人々のコミュニティの可能性や、価値転換のあり方と紐付けながら理解する必要がある。そして何よりそこが面白い。

Web3やその周辺のありようの理解はちょうど街を理解しようとするようなもので、様々な要素が複雑に絡み合う。例えば「土地のやりとり」の理解だけで「街」を理解しようとするのは実質不可能なように、「NFT」だけを軸として「Web3」の考え方を理解するのはあまりに無理があるのだ。

そこでこのnoteでは、DAO(ダオ、と読みます)の考え方を中心にNFTやブロックチェーン技術について解説していく。

さらにそこから、そうした技術が実はまちづくりや公共建築の運営ととても親和性が高いのではないかという仮説について提示する。そこでは具体的な事例の紹介と分析を行いつつ、まちづくりや公共建築の運営の場面でのWeb3の活用のアイディアについて提示する。

AIや自動運転なんかの盛り上がりの時も「街とAI」とか「街と自動運転」とかいっぱいあったけど、個人的には「DAOとまちづくり」は一番可能性がある気がしている。まちづくりや建築に興味がある人には、興味深く読んでもらえる内容になっていると思う。

【書き手について】
石田康平|いしだ こうへい
1994年大阪生まれ。デザイナーで研究者。東大建築の博士課程に在籍。VRやMRと建築・都市の関係性が研究の主題。日本学術振興会特別研究員(DC2)。クマ財団2期クリエイター。佐々木泰樹育英会奨学生、トヨタ・ドワンゴ高度人工知能人材認定ほか認定多数。修士論文で工学系研究科建築学選考長賞、新建築論考コンペティション2021にて最優秀賞、第3回片岡安賞入選、日本建築学会大会(東海)にて若手優秀発表賞など受賞している。『新建築』や『WIRED』、『SHUKYU Magazine』などに論考や記事が掲載。デザインファームでのインターン、AIベンチャーでの製品設計などを経て、現在は「夢における空間論」をテーマに博士論文を執筆している。より詳しいプロフィールはこちら

1. ブロックチェーンについての基本的なこと

まずはブロックチェーンについて少し説明するところから始めたい。Ethereumのプログラムを書いて遊びながら色々とコードを読み込んでみたところ、Ethereumでのブロックチェーンは、例えば1日ごとに締め日がくる台帳のようなものであることがわかってきた。その日のうちにあった様々なやりとりを整理し新しい紙にページとして記録する。その中に誤りがないか確認された後、そのページは前日までの台帳の束の最後のページにペタッと貼り付けられる。次の日が来たらまた1日分の取引を記録したページを作り、前日までの台帳に追加する。この1日ごとに作られる記録ページが「ブロック」で、前日までの膨大な記録に貼り付けられていくものが「ブロックチェーン」となる。

ブロックチェーンは「分散型台帳」と呼ばれる通り、ネットワーク上ではみんなで共有された台帳を持っている。これがどういうイメージかというと、ある人が1日の取引を記録し確認したら、そのページをネットワーク内の他の人にも配る。ページを受け取ったメンバーは、そのページを自分の台帳に貼り付けて追加する。そういうイメージである。実際のコードでは13秒ちょっとでこの記録作業が進められるので、1日ごとではなくおおよそ13秒ごとにその間の取引が記載された新しいページが締められ、確認されて全員に配布され、各々の台帳に貼り付けられる。そういうイメージで理解すると良いのではないかと思う。もちろんあくまでおおよその理解のための説明で、技術的に厳密ではないところもあるが。

どうしてこのような「分散型台帳」などという大変なことをするのか。例えば飲み会の支払いを考えるとわかりやすい。Aさんが幹事をしていて、Bさんが自分の支払いをちょろまかしたいと思った時には、Aさんの持っている台帳を盗んで書き換えるだけで良い。しかし参加者全員が同期された台帳を持っているとなると、全員分を盗んで書き換えないといけないわけで大変になる。また、幹事であるAさんが記録を改竄しようとしてもブロックチェーンを使っていれば他の人の記録とズレることになるので嘘がつけない。こうしてみんなで見張り合うようなネットワークができる。加えていわゆる幹事のような管理者もいない。この結果、ネットワークの参加者に権限の優劣がつきづらいようなネットワークができることにもなる。

そのありようが今の中央集権的なプラットフォーマーの寡占とは異なるあり方の創出につながるのではないかと期待されているわけである。

2. ブロックチェーンのネットワークの面白い仕組み

しかし、これまでひとつのデータベースやサーバーに中央集権的に持っていた台帳をみんなで持つわけだから、冷静に考えて自分のPCに同期される台帳のデータ量ってめちゃ多いんじゃないの?と思うかもしれない。実際その通りで、全部のEthereumのブロックチェーン(台帳)を同期すると、現時点でおよそ200GBくらいストレージが必要になる。これは現時点でのことであって、今後もちろんネットワークの参加者が増えるにつれてデータ量は増えていく。実はネットワークに参加するだけなら必ずしもフルで台帳を持つ必要はないのだが、ま、かなり無駄も大きいことは明らかである。

その一方で、Ethereumでは台帳が分散化しているためにちょっと面白いこともできる。台帳の1ページである「ブロック」の中に、資金のやり取りや取引の記録だけでなく、プログラムコードを保存しておくこともできるのである。

どういうことかというと、普通は中央のサーバーにプログラムが置かれていて、それをコールし実行すると思うのだけど、Ethereumではネットワーク上にプログラムをおいておき、いろんなところから動かすことができるのである。このプログラムは「スマートコントラクト(Smart contract)」と呼ばれており、ちょっと名前はいかにも契約っぽいのだが、プログラムのことを指す概念である。Ethereumでは手元でプログラムをコンパイルし、ブロックチェーンの中に放流してネットワークの中に保存しつつ動かすことができる。こうしたEthereum上に置かれたプログラムを使いながら実装されるアプリケーションのことを「DApp(Decentralized Application、分散型アプリ、読み方はダップ)」とよぶ。簡単にいうとよくあるウォレットなんかもDAppの一種だったりする。種類にもよるのだが、ウォレット自体は残高記録や送金プログラム自体は実は持っておらず、全体のネットワークの中にあるブロックチェーンに記録された残高を読み取って表示しつつ、送金コマンドが押されたらEthereum上のネットワークにあるプログラムを動かすようになっていたりする。この仕組みからも明らかなとおり、台帳が皆に共有されているわけなので、当然みんなに資産や取引が公開されている。「え、なんでこんなオープンなの?」という感じもするが、もちろんこのオープンさについてはいい面もあればあまり良くない面もある。この点についても後述のDAOとセットで理解しないとあまり意味がよくわからないだろうと思うので、順をおって説明していくことにする。

3. DAOという考え方について

ここまでブロックチェーンについて基本的な事柄を説明してきたが、こうしたブロックチェーンの考え方は「DAO(Decentralized Autonomous Organization、分散型自律組織)」という考え方と合わせて理解するとわかりやすい。DAOというのはしばしば自律型のコミュニティと言われたり色々とややこしいのだけど、僕の理解によれば DAOとは「バーチャルな地域」をつくるようなものである。ざっくりいうと興味関心の近い人たちで一つの「地域」を作り、そこでちょうど「地域」のアナロジーのようにある程度分配された権利をみんなでそれぞれに持ちながら、地域通貨をやりとりして様々な取引や活動を行うコミュニティがDAOである。すなわちある程度の人々の範囲があり、参加者がいて、そこで使えるローカルな地域通貨=「トークン(Token、仮想通貨)」があり、それをベースにした取引ややりとりがあり、選挙権があって所有権があってそれを元に決議なんかがすすむという構造になっている。これまでの地域制度とは違って、決定権や所有権が株式会社のようにトークンベースになっていることがまず重要である。加えて、今までは地理的な区切りでできていた地域が、地理的な制約というよりもむしろある程度興味関心のなかで構成されていっている点が特に従来の地域とは違う点といえる。

こうした「地域」において、地域通貨のようなものである「トークン」は極めて重要な概念である。トークンは株式会社の株に近いイメージもあるのだが(トークンはDAOに対する所有権を示すこともある)、同時に通貨になったりもする。DAOでは株式会社と違ってあまり一人の主体が多くのトークンを持つことが推奨されなかったりもする。要するに株式会社で経営権を持つには51%以上の株式を持つ必要があるわけだが、DAOではそれは推奨されない。最近では一つの DAOにおいて5%前後の独占でももう多い方らしく、実際ブロックチェーンの記録を見てみるとDAOのファウンダーはすでに自身の DAOの所有権をあまり持っていなかったりする。「え、そうすると、意思決定とかの統率が取れなくてカオスになるんじゃないの?」という感じがするが、事実その通りで、ある特定のゴールに強固に向かうような組織設計での利用には DAOの運営はあまり向いていない。むしろお客さんやステークホルダーにも積極的にトークン(すなわち組織の所有権や決定権)を開いて分配することで、それぞれの主体的な参加や活発な活動を促すことが推奨され、その結果生まれてくるコミュニティ性や新しい人の繋がり方そのものに主眼をおこうとするのがDAOなのである。

そしてこの「地域」の中でやりとりされるトークンのうち、通貨や株式のように代替可能(AさんとBさんが持っている株式は、量が同じであれば同じ価値を持つので交換できる。もちろんナンバリングや黄金株はあるにせよ、多くの場合で価値的には交換可能)なトークンのことを「FT(Fungible Token、代替性トークン)」と呼ぶ。そしてちょうど土地の権利書のように、ある特定の資産に紐づいたトークンのことを「NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)」と呼ぶのである。富山の土地と京都の土地は交換不可能なように、NFTは固有の資産に紐づいた権利書のようなものであり、もちろん土地転がしのようにこれをやりとりして儲けることもできるし、あるいは土地の上にいろんな事業主体に来てもらってそこで収益を上げてもらい、事業者から賃料を支払ってもらうことで儲けることもできる。こうした仕組みは DAOを「バーチャルな地域」として捉えると設計がかなり難しくなるとともに、 DAOの運営上極めて重要な要素となるわけだが、Ukraine DAOのようにNFT資産を用いて現実から資金を集める方法として DAOが使われたりもしていて、DAOやトークンと一口に言っても様々なバリエーションが存在することがみてとれるだろう(トークンの説明についてももう少し厳密な説明が可能ですが、ここでは概要の理解のために厳密さを重視せず説明しています)。

↑ウクライナ支援のための DAOで、NFTを販売。9億円近くを集めた。

4. DAOの透明性と自律性の実験フェーズ

前述した通り、Ethereumをはじめブロックチェーンネットワークではこうした資産量や保有者が全て公開情報になっており、その記録をすぐに追うことができる。これは組織の監査の透明性を担保するわけだが、もちろんこの点も必ずしも全ての組織設計に有効なわけではない。透明になっていてやりとりが明確であることが良い場合もあれば、そうでない場合もある。従ってEthereumなどでのブロックチェーンネットワークを用いて作られるDAOは、中央集権的な強い権力者があまりいないことも含めて、かなりDAOの特性や領域の特性によって有効範囲が存在すると考えられる。土地の権利などは登記で公開されるわけなので、そういうものは透明にしておくことで二重登記などの揉め事は避けられるかもしれないが、プライバシー上公開されすぎない方がいい記録もやはりある。

DAOは現在、どのようにルールを設計すればうまく組織が展開されていくのか、まさに様々な実験がされている最中であるといえる。通貨を発行しすぎたらインフレを起こしたりするわけだし、所有権が分配された結果組織がどのくらいうまく回るのか、DAOの規模感はどれくらいがいいのか、どういう規約が必要なのか、などが検討されている。例えばフリーランスと企業などのマッチングDAOを目指すBraintrust(ブレイントラスト、と読みます)などでは、トークン量の最大値が250,000,000BTRSTと決められている。こうしたルールもどのくらい有効か今後どんどん検証されていくのだろうと思う。ちなみに現在の DAOの設計では、トークンはしばしばアーリーアダプターに積極的に支払われる傾向にあり、「早くから盛り上げてくれてありがとうね」という感じで参加するだけで支払われたりする。前述のBraintrustなどではおよそ半分がアーリーアダプターの所有となっていて、こうしたインセンティブ設計の重要性なども、「コミュニテイデザイン」とまさに本質的な次元で相似しているといえるだろう(参照リンク)。

ちなみに、DAOで運用されるトークンは、Ethereumではテンプレートのようなものが存在し、ある程度すぐに作れるようになっています(ERC-20とか)。

5. まちづくりと DAOの親和性

さて、ここまでDAOが「バーチャルな地域を作るようなもの」であり、その具体的な実装の技術と仕組みがBlockchainやFTやNFTなどでありことを整理してきた。そして今まさに、どのような設計をすればうまく「地域」が活発に展開されるのか、実験されつつある段階であるとする僕自身の理解を述べてきたのだが、もしこの理解がそう遠くないとすれば、まちづくりの議論とDAOがかなり本質的な次元で関わることはほとんど明らかだろう。ここではこの点についてもう少し具体的に考えてみたい。

DAOの興味深い具体例として、AkiyaDAOというDAOがある。これは日本に住んでいたアメリカ人のアーティストがコロナ禍で日本に来られなくなり、日本が恋しくなって、日本に大量の空き家があることを知っていたためにみんなで空き家を所有し、そこでアーティストレジデンスをやったり空き家をキャンバスとして作品を作ったりしようとしているものである。

AkiyaDAOのトップ画面

要するにAkiya DAOはみんなで空き家をもっていて、それを自分たちで分配して、使い方を決めたりしようとするわけである(彼らはその資金のためにNFTを作って販売し資金を集めようとしたりもしている)。

僕自身このAkiya DAOにとりあえず参加してみたものの、まだ具体的な進捗が理解しきれていないところもある。だがコンセプト的にいえば、例えばこのAkiya DAOのトークンが100単位あり、 DAOの所有する空き家が100軒あったとすれば、3トークン集めれば3つの空き家を自分のある程度好きなように活用するような権限を持てるわけである。厳密な規約や運用はこれと必ずしも一致しないが、いわゆる「空き家好きコミュニティと」Akiya DAOが異なるメカニズムで動いていきそうなことは、これだけでもわかるだろう。

こうした仕組みはE-residenceをもう少し具体的な仕組みとして実装するものとも考えられるし、デジタルレイヤーの街を作るようなものかもしれないとも思う。すなわち物理的な街のうえにデジタルなレイヤーの「地域」が生まれ、2つのレイヤーの統治機構が関わりながらまちが広がっていくのかもしれないと思うのである。

ある意味ではふるさと納税なんかは、そうしたレイヤーのとっかかりをつくったのかもしれないが、これからふるさと納税の返礼品としてトークンが発行され、実際の政策の一部においてDAOの意見が反映されるみたいなことが起こってくるのかもしれない。

6. 具体的なアイディア〜公共建築でのDAOの仕組みの活用

これまで述べてきたように、DAOやEthereumみたいなネットワークの考え方はかなりまちづくりなどとの関係性が深いと思われるし、公共建築をDAO化するという取り組みも可能かもしれない。ここではそのアイディアについて提示しつつ検討してみたい。実験としては非常にあり得ることだと思う。

例えば公共建築DAO「TokyoMuseumDAO」では、東京都の新しい美術館の建設に際し、その建物を利用したり運営者として参画する人々の DAOを作ると考えてみよう。みんなでその建物の所有権などをトークンとして分配して持ちつつ、必ずしもそこに住む人だけじゃない多くの人々で建物を共同運営していくわけである。

建物はすでに市や都の持ち物ではないのだから、アーティストがトイレに絵を書いたり、実験的なイベントを開いたりしつつ、行政の新しいあり方をリアルな場で検証することもできそうである(ある意味でAkiya DAOはそれに近い様態を目指しているともいえる)。

建設資金もDAOのトークンで集め、設計コンペにおいてはその資金量に基づく投票を「応援量」として捉え、設計案の選定に活かしていくというようなこともできるようになるかもしれない。あるいはお手伝いなどをするほどにお手伝い料のように都民にトークンが発行され、それが所有権として分配されていくことで都民が建物をまさに「自分ごと」に感じつつその運営により積極的に関与していくということも起こるかもしれない。

今は市民や都民の公共建築といっても市民が建物を所有している感じはないし、市民はあくまで使う人で運営する人ではない感じもする。建設途中から DAOを作り、むしろそれを資金源として建設費を集め、人々に運営すら開いていくことで、新しい公共建築のあり方を構想することもできるだろう。今のところ DAOは必ずしも100%分散型という感じでもないので、ある程度は建物の建つ都がトークンを持ちつつ(5%くらい?)、運営を進めていけるといいのかもしれないとも思う。

7. 地域保全のメカニズムを作り出すDAO

もう少し広い視点で見れば、地域の木材や資源を守っていく DAOのようなものも構想できるだろう。例えば世界では二酸化炭素排出の削減量はそれ自体炭素クレジットとして取引できるようになっているが、「Klima DAO」という DAOでは、炭素クレジットを参加者みんなで買い占めるということをやっている。その DAOに参加し投資することで、 DAOはより多くの炭素クレジットを購入することができるのである。そのことによって世界全体での炭素クレジットの価値が上がり、クレジットの値段が上がることによって二酸化炭素を削減することの価値は上がるとともに、二酸化炭素の削減を適当にお金で買ってごまかすということは難しくなっていく。そういう実験的なプロジェクトがKlima DAOである。

こうした考え方を応用すれば、地域の環境負荷や自然を守るための DAOのようなものを作り展開していくことで、風景を守るということもできるかもしれない。

DAOがもっと多様に実装され展開していけば、地理的な地域をベースとしつつ、デジタルな階層として様々な興味や関心に基づく新たな「地域」が構築され、その複数のレイヤーが互いに関わりながら、街のダイナミズムが形成される、ということが起こるのかもしれない。そこでは様々な思想を持つレイヤーが生まれつつ、そのレイヤーがむしろ離れた街を強く連関させるということも起こってくるだろう。

例えば前述のAkiya DAOが日本のある地域とフィンランドのある地域の空き家を買って同等に扱って動かしていたら、自然とこの2つの地域は部分的に連動し始めるはずである。

そしてそこでは、炭素クレジットの考え方や森林保全の思想などが複雑に絡み合い、まさに新しい「都市」の様相が産まれていくのかもしれないわけで、こうした仕組みをいかにデザインしていけるのかということが今後のまちづくりの重要な主題と考えることもできるのではないか、と思うのである。それが、僕のイメージするWeb3とまちづくりとの親和性であり、今後はこうしたDAOの実装と実見と議論を発展させたいと考えている。

8. 課題と展望

さて、ここまで 「DAO」という考え方を軸に、NFTやFT、ブロックチェーンなどの考え方を整理しつつ、そうした技術の発展がまちづくりや公共建築の運営、地域の保全などといかにクロスしそうであるかについて論じてきた。

事例分析でも触れたAkiya DAOは、空き家を使って盛り上げようぜという「目的」の共有にみえつつ、実際は空き家使ってなんかおもろいことやろうぜという「手段」の共有なわけだが、そうしたゆるいあつまりはもっとできてくるだろうとおもう。

もちろんEthereum上で動くネットワークにはまだまだ課題もある。具体的には例えばEthereum上で動くアプリケーションであるDappについて、スケーラビリティとコンポーザビリティの問題や、セキュリティの問題などが指摘されている。前述した通り、Dappは分散型に保存されている過去のブロック内のプログラムを参照するわけだが、ブロックチェーンの性質上その中身(すなわち既存のプログラムコード)を書き換えることができない。これまでのアプリであれば、アプリの構成はそのままに保持しつつ参照するプログラムの中身を書き換えるだけでシステムの更新をすることもできたが、今のところEthereumではそれができないようなことになっている。ではどうするかというと、アプリの方も同時に更新して、新しく実装されたブロックチェーン内のプログラムを呼び出すように書き換えないといけない。この辺りがDappの保守の難しさになっている。セキュリティの面では、当然ネットワークの参加者がたくさんいることを前提としたプログラムなので、バグがあるとお金が簡単に誤送金させられたりして大変なことになる。どのシステムにおいてもシステムの脆弱性を発見し対処することは重要だが、スマートコントラクトのプログラムではとくにその設計の重要性が指摘されている。

9. 最後に

前述した通り、今は DAO含めWeb3まわりのあれこれは色々と実験段階なので難しいところもあるが、 DAOの運営やEthereumでの実装の原則のようなものがもう少し見えてくると、活用可能性や実装の勘所、親和性のある活用テーマは何かなどはクリアに見えてくるだろうと思う。前述したような技術的な発展から日本が取り残されるというのも悲しいが(Ethereumの技術的な議論などはかなりえらいことになっていて、追いつくのも一苦労な感じになっている)、どちらかというとそうした技術的なレイヤーというよりは、 DAOの活用のアイディアやまちづくり設計のアイディア、複数のレイヤーの連動のアイディアなどで日本は今後もっとできることがあるのではないかと思う。

これまで醸成されてきた日本のまちづくりや建築に関する知見が、そうしたデジタルレイヤーのまちづくりにも活用されていくことを期待したい。同時に、もっと「まちづくり」と DAOについての議論と実験が展開されていくようになればいいなと思う次第である。

自分はほとんど遊びと趣味(ゲームのような感じ)としてこうしたことを調べ、まとめつつ開発をしてみているが、何かしらより良い「街」の発展に貢献にできるようになれればいいなあと考えている。

(終わり。)

↑Ethereumや仕組みについてもう少し理解したい方は、こちらの入門書を参照

↑最初のチュートリアルとしてかなり参考にしたサイト

最後までお読みいただきありがとうございました。本記事は無料で全文公開しております。投げ銭(500円)もしくはサポート機能にてご支援いただけますと幸いです。サポートはEthereumでの開発に必要なシステム手数料に回させていただきます。知見はまたnoteで共有できればと思っています。よろしくお願いいたします。

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