石田康平の自己紹介と博士論文テーマ
石田康平と申します。東大の博士課程で建築の研究をしています。
このnoteでは、今研究していることや、そこに至る経緯を少し自己紹介できればと思っています。
プロフィールはざっくりとこんな感じです。
もともと「テクノロジー×建築」をテーマに研究
このnoteでは、少しだけ経緯を振り返りたいと思います。
僕はもともと東大の建築学科に在籍していたのですが、学部のときからテクノロジー×建築をテーマとしたいと思っていました。
テクノロジーによってどんな建築が生まれ、都市はどう変わっていくのか。そういうことに興味がありました。そうした中で、はじめは「自動運転によって都市がどう変わるか」ということをテーマにした作品を作りました。
その結果1800人以上の応募者から50人のクマ財団のクリエイターに認定されたり、新建築のデザインコンペで入賞したりしました。
ひとまずアポなしでボストンに行って考えたこと
学部の卒業後は、修士ではMITメディアラボで研究したい!と思っていました(僕が学部生の頃のMITのメディアラボは勢いがあった)。
自分がやりたい研究にはあまり味方を得られなかったこともあり息苦しく、外に出たいと思ったのです。
それでメディアラボのいろんな先生にメールしてみたのだけど、返信はさっぱり来ず。後から聞くと、世界中から問い合わせが多すぎてほとんど返信していないとのことでした。
それで仕方なく、ひとまずボストン行きの飛行機を買い、一週間くらい現地に行ってドアノックしてみることにしました。
ひとまず現地に行き、しれっと関係者みたいな顔をしてメディアラボの建物に入り(大丈夫なのか)、「日本から来てて、ここに入りたいと思ってるんだけど、お話聞かせてくれませんか!」みたいな感じで片っ端から研究者っぽい人に話しかけ、イベントに招待してもらったり、日本人の方を紹介してもらったり、授業を受けさせてもらったり、ワークショップに参加させてもらったりしました。
結局ほぼ空白だった1週間のスケジュールはほとんど埋まり、まともに観光もできないくらいいろんな人に会ったり場所にいくことができました。
よくわからないシェアハウスに誘われて遊びにいって深夜からのTEDごっこに参加したり(みんなが自分の好きなものを2~3分プレゼンする謎の会)、お金がないのでしれっとラボのランチミーティングに参加してサンドイッチをいくつかもらったり×2、なぜかひも理論についての講演会に同行したり、真面目に長時間ポートフォリオなどについて相談にのってもらったり、周辺地区のMITの開発について街をガイドしてもらったり、日本食のスーパーに連れて行ってもらったり(スポーツドリンクとお茶をたらふく買った)。
また、自分が会いたかった先生とも、かなりいろんな話しをすることができました。
「あ、あの先生だ」と思ってしれっと部屋をのぞいたら「入れ入れ!」と言われ、わーいと思ったら「ごめん名前なんだっけ?アポあるんだよね?」と言われ、「飛びこみです」というと「えっ」みたいな顔されつついろいろ相談にのってくれたり人を紹介してくれたり。
そうした貴重な経験をしいろんな人と話して、自分がここで何を学ぶんだろうとイメージしてみた結果、
「あ、ここにきても、自分のレベルの低さだとやらないといけないことは日本でも変わんないじゃん」と気づき、学部からそのまま修士課程に進学することとなりました。
修士で「Virtual Renovation」という作品をつくる
修士では建築の設計系の研究室にいて、クマ財団の支援を受けたりしながら、テクノロジーによって変わる未来の都市構想を描く作品なんかを作っておりました。
例えばVirtual Renovationという、スマートグラスが普及した未来の渋谷での暮らしを描く作品をつくって青山のスパイラルで展示したりしました。
スマートグラスというのはメガネ型のデバイスで、ディスプレイやキーボードがみえます。
それで「ディスプレイやキーボードがみえるなら、建築も映せばいいのではないか」と思いました。
どういうことかというと、
フィジカルには存在しないけれど、自分がグラス越しに見えている世界の中にはバーチャルな壁が見えていて、集中したいときに自分の周りに張り巡らしたりできれば、それも一種の建築なのではないか、と発想したわけです。
最後には実際にプロトタイピングし、グラスをかけると模型にデジタルな壁が浮かび上がる展示をつくりました。
また、修士の間は、Takramというデザインファームで長くインターンをさせてもらって、当時から全て数千回は再生されていたような人気のPodcastに出演させてもらったり、いろんな貴重な経験をしました。
Podcastの出演の経緯としては(インターンで出演した人などいなかった)、Takramのデザイナーの渡邉康太郎さんが登壇するイベントがあって、行きたかったんだけどチケットが取れず、SlackでDMしたら関係者枠で行かせてもらえることになり、その前後でいろいろと話していたらPodcastとろうという話になりました。
それで当日会議室にいったら、何の打ち合わせもなく「じゃあやろっか」といきなり収録が始まりました(本当に驚いた)。なので初回の僕の挨拶は、その日はじめて出したくらいの声で、震えています。
Takramcastはその後もそんな風に収録してたのでほぼ即興です。よかったら聞いてみてください。
Panasonicの執行役員への相談と示唆
修士での活動は結構楽しくやっていて、そうした都市構想の制作やプロトタイピングを今後もやっていきたいと思っていました。
それであるとき仲が良かったPanasonicの執行役員の方に相談したことがあります。
(たしか仲良くなった経緯は、あるベンチャーの社長と話したときに、急に「明日Panasonicの人たちにプレゼンする会があるんだけど来る?」といわれ、いったらなぜか僕もプレゼンする流れになり、数十人の社員やいろんな関係者の前でプレゼンをしたら、その後で話しかけてくれ、執行役員と知って驚いた、みたいな感じだった。他にも偉い人が結構集結してた)。
いろいろ進路に悩んでもいたので、アポをとって日比谷のオフィスにいき、執行役員と事業本部長と部長3人を前に(なぜ?)あらためて自分の活動を説明しつつ、今後こういうことをやっていきたいんですが、と相談すると、これは事業会社ではサポートは難しいかもしれない、と言われました。
「やはり事業会社は社長や役員でも株主への説明責任がある。面白いけれど、やはり費用対効果の不透明な投資にお金はかけづらい」という説明で、なるほど、と思いました。
それでいただいたのが「アカデミアでの研究はどうだろう」というアイディアでした。
「例えば東大でこういう研究をしていて、ある程度論文を書いたりしていて実績もあり、うちの会社とこのくらい親和性があるのでこのくらいお金を入れてみます」だと説明がぐっとしやすくなる、と。
「なるほど、自分の好きなことをするサンドボックスとしてアカデミアが使えるのか」と気づき、それで博士課程に進んでみることにしました。(この仮説は色々と正しかったんだけどそれはまた後ほどに)
修士での研究をひっくり返して博士テーマを設定
修士ではデザインなどを行う一方で、しっかりめの研究もしていて「建築設計におけるVRやMRの活用」をテーマに研究していました。その成果で建築学専攻長賞を受賞したりもしました。
(↑修論についてまとめたnoteはこちら。)
修士では「建築設計の中でのVRとMRの活用」をやったので、じゃあ博士では「建築設計+施工や運用も含めたプロセス全体でのVRとMRの活用」をテーマに研究をしようと思って研究計画をたてていたのですが、修士論文を書き上げた直後に、「あ、この発想まずいな」と気が付きます。
というのも、どこまでいっても自分の論文は「VRやMRつかってみた論文」にしかみえないな、と思ったのです。
それはそれで価値があると思うのですが、VRやMRという技術も数年できっと大きく変わっていくようなものなので、今の技術を使うと建築設計はどうなるか?みたいな時間スパンの短い思考が、建築や都市といった長い時間スパンのプロセスの中でどのくらい有効なのだろうか、と思いました。
端的にいうと、新しい技術がでてくれば、これはもう誰も読んでくれない論文になるのではないか、と思ったのです。
設計から施工、運用まで含めた建築のプロセス全体の中で考えるにせよ、もう少しVRという技術を本質的なことから考えていかざるをえない。
それで博士でのメインテーマをガラッとかえ(修士論文をかきあげた直後から「もうこの論文はさっぱり捨ててもいいですね」とかいってた)、「夢における空間論」というのが僕の博士課程での研究テーマとなりました。
(↑修論を書き上げた直後に、「いや、修論はダメですね」とか言ってるPodcast。関係者に聞かれないかひやひやした。)
博士論文のテーマは「夢における空間論」
どうしてそんなテーマに変えたのか。
180度転換したというよりは、むしろ博士で元々やりたかったテーマを進めるには、まずもう少し掘り下げて考えざるをえないからこそテーマを再設定した、というのが実態です。
どういうことか。
VRという技術の本質は、「複数のリアリティを作ってそこにはいりこみ、いろんな世界を行き来できるようになること」かなと思うようになりました。
それで考えてみると、VR自体は新しい技術だけど、そうしたいろんなリアリティを作って行き来するような取り組みは歴史的にもたくさんあったのではないかと思いました。
例えば極楽浄土の考え方はそれに近いと思います。極楽浄土って別の世界があって、それをなんとか現実に表現しようと浄土庭園とか平等院鳳凰堂とかもできたり。そしてそこに行って、お祈りしたり特殊な行動をしたりすると、極楽にいける、みたいな。
別のリアリティを描き、それをなんとか物理的に具現化しつつ、そうした世界をなんとか作ることによって人の新たな振る舞いを引き出すみたいな文化や装置のありようは、VRの世界観と重なると思いました。
また、茶室なんかもVRの考え方に近いと思います。茶室は元々、中世に都市が密集してきたときに、そこでの暮らしに疲れた人が「俺は山の中で暮らしたい!」とボロボロの建物を都市の中に作って、それをまるで山の中にあると見立てて暮らした「庵」が原型になっています。いわば都市に作られたひとつの別世界です。
で、劇場とか映画とか色々「複数のリアリティ」自体はあって、VRとは実は、技術が変わっていく中でそういう複数のリアリティを作る技術の類型として現れてきたものなのではないか。
そう捉えてみたいと思いました。
そこからもう少し未来ではそうした複数のリアリティの創出のあり方はどうなるだろう?と考えてみると、VRは脳にチップを埋めてやってるかもしれないし、ちょっとした薬と電気刺激とかでいけるかもしれません。
技術はなんでもいいんだけど、要するに「いろんな人が現実感のある複数のリアリティを作り、それを自由に行き来できるようになった時、そこではどんな空間や公共性が必要なのか?」ということを考えてみたいと思いました。
それで少し飛躍して、
「もしも人が自由に夢をみられるようになったら、そこではどんな空間や空間論が必要になるだろう?」というテーマを設定しました。
そうして「夢における空間論」というのを博士の研究テーマとしました。
今はこのテーマをどんどん掘り下げていて、博士論文に向かって執筆していっています。
博士での実績
こうした研究成果の一部は『WIRED』に掲載されたり、
必死に書き上げた論考が「新建築論考コンペティション2021」で61作品の応募作の中から1等をとり、『新建築』2021年10月号に掲載されたりしました。
これは夢というテーマとロックダウンでの暮らしを結びつけながら考えを深めたと思ったものです。
(論考の執筆までの経緯や、論考の全文は↑から読めます。)
こういう発表をして、色々フィードバックももらいつつ、考えを深めていければと思っています。
今後
今後は、博士論文を本格的に書いていくことになります。夢という概念を軸に語るVR論について、ぜひお待ちいただければ幸いです。
また、年明けにはいろいろ公開できる楽しみな研究プロジェクトもあります。そちらもお待ちいただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。
おまけ
石田の実績一覧を書いておきたいと思います。展示や受賞や登壇やアカデミアでの論文など。研究とデザインを横断しながら、いろんなことを探求していきたいと思っています。
お仕事、講演のご依頼はこちらまで。
koheii@g.ecc.u-tokyo.ac.jp
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