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エッセイについてのエッセイ

ぼくは小説が読めない。
読めないと言ってしまうと、もちろん文字は認識できるし、書いてあることの意味もおそらく正しく把握できているとは思う。けれど、頭に入って来ないし、感情移入もできないのだ。続きから読むということも苦手なので、一度で読み切ってしまわないと数ページだけ読んで二度と本を開かないなんてこともざらである。ドラマや漫画なんかでも似たようなことが言えるのだけど、小説ほどとっつきにくいということはない。

活字が嫌いということではなく、文章のジャンルとして小説と相性が悪いというだけで、読書自体はそれなりにしているほうだと思う。ぼくが好んで手に取る文学のジャンルとして短歌とエッセイがある。短歌の作品集やその方法論、評論なんかはいま暮らしている部屋にも30冊以上あるし、エッセイも10冊程度は持っている。
短くて、どこから読んでも鑑賞において大きく差し支えないような文章がすきなんだと思う。

明確な形式が存在することもあり、自ら詠んだりあるいは読んだりしないという人でも五七五七七のフォーマットに落とし込まれた短詩を見れば短歌だなとわかるのではないかと思う。一方で、エッセイと言われると、大体こんな感じの文章だよな〜という風なゆるやかな認識が漂っているのではないだろうか。日本大百科全書ニッポニカによれば、

思索や意見、感想などを形式にとらわれず、簡潔に述べた文学の一ジャンル。

とある。
つまるところ、形式を持たない散文がエッセイであり、「だいたいこんな感じ」と緩やかに認識される文章であるということがエッセイのエッセイたるゆえんであるとすら言えそうである。

我が国の代表的なエッセイ(これらは多くの場合「随筆」という呼ばれ方をするが、同じものである)といえば、清少納言の『枕草子』や兼好法師の『徒然草』が挙げられるが、これらはこの国で歴史や古典の学習をしていれば必ず触れるような作品であり、そうした意味でもエッセイという文学はわれわれにとってきわめてなじみの深い文章の形態といえよう。

さて、「エッセイについてのエッセイ」と銘打っているので、エッセイそのものを掘り下げるのではなく、ここからはぼく自身とエッセイとの関わりについて話そうと思う。

エッセイと呼ばれる文章を意識して手に取るようになったのがいつのころからなのかはぼく自身にもはっきりしないところではあるのだけど、ぼくがここまでエッセイに魅了されるきっかけとなったのは外山滋比古先生の『思考の整理学』との出会いである。
この本のタイトル自体は聞いたことのある人も多いのではないだろうか。東大生・京大生に最も読まれているなどと謳われて、にわかに小さなムーブメントを生み出したのが本書である。
ぼくはこの本を遅くとも中学3年生のころから何度も読み返しており、書き込みも多く表紙も裂けボロボロになってきたので最近新たに2冊目を買い足したくらいには思い入れのある一冊である。

書評ではないので内容については軽い説明に留めておくが、端的にいえば思考およびアイデアの引き出し方とそれらを具体的な形へと昇華させる方法について筆者の経験をもとに語られているエッセイである。背表紙には「考えることの楽しさを満喫させてくれる本」とあるのだが、まさにその通りだと思う。

このエッセイとの出会いがぼくの人生を大きく変えたということはないのだけれど、単にあらゆる座学における思考のヒントとなっているだけでなく、恋愛や仕事、なんとなく生活のめぐりがうまくいかないといったような精神的なもやもやを抱えたときなんかにもたたびたびこの本に立ち返って考えを整理するヒントを得るといった人生のバイブルのような存在となっている。この本の記述から直接にヒントを得るというよりは、過去の自分がマークしている箇所や、何度も読み返した章に立ち向かうことで、正しく前向きな思考をしていた自分を思い出して安心したり勇気をもらえるような一種のトランキライザーとして持ち歩いていることが多い。

こうしたエッセイに限らず、自分に影響を与えたものについて他人に話すということが以前は少し恥ずかしいような気がして憚られていたのだが、年齢を重ねるにつれ周囲の友人たちともぽつぽつとむかしは話せなかったようなことを話す機会が増え、ぼくの考え方のルーツを話すことで目の前の大切なひとたちの明るい未来がひらけるならと思うことが多くなって、自分の持つ知識・経験で有用だと思われるものをおすすめすることも多くなってきた。そうしたときに紹介したい本のひとつである。

「思考する」という分野においては外山滋比古先生のそのほかのエッセイも非常に参考になる部分が多いので、このnoteをご覧の皆さまも一度お手に取って見ることを強くおすすめする。

そのほか、村上春樹氏のエッセイや、向田邦子のエッセイなんかも個人的にお気に入りの文章たちなのだが、ちょうどいい頃合となったので今回はこの辺で筆を置こうと思う。

なにかぼくに語ってほしいテーマ等があれば、本稿のコメント欄や各種SNSのDMにてお気軽にお申し付けください。

では。

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