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美術館で撮影する人たち

私は美術館で写真撮影する人が苦手です。

その理由はおそらく複数あります。

最近の日本の美術館は撮影OKになってきてる、と教えてもらいました。

なので、ルールに違反してないのだから文句は言わないにしても、内心嫌だなと思っているということです。

それは喫煙OKの中華料理店で自分がこれから食べようという段になって隣からタバコの煙が流れてくるようなものです(私は嫌煙家ではありませんが、食事の席で吸われるのは苦手です)。

愛煙家の方がわかるかわかりませんが、タバコの臭いは料理の香りも味も一気に不味くするのです。

その料理にタバコの灰を落とされたような気分です。

でも、喫煙OKのお店なら仕方のないこと。諦めざるをえません。

美術館での撮影も共通するところがあります。

まず、絵画にダメージがあるとか、そういった理由ではまったくありません。

私は芸術鑑賞に出かけるときは一回性の体験と思って出かけています。

コンサート、演劇、歌舞伎、能、落語……パフォーミングアートは何でも一回きり、再現不可能です。

映画館は同じ作品を何度でも観れますが、一緒に観る観客は毎回違うので一回性と言えそうです。

撮影NG時代の美術館の方が観客は真剣に絵を見ていたと思います。だって「持ち帰れない」わけですから。

いまはテキトーに見て、写真撮って、SNSに上げたり友人に見せたり、という流れなんでしょう。 
観光地と変わらなくなってきました。

先日出かけたイスラエル博物館展には私の好きなピサロの絵も数点あり、撮影可能でしたが、あえて撮りませんでした。

撮ってどうするのか?

後でスマホで見るピサロの絵は完全に別物です。
そんなまがい物を見て満足したくない。
音楽や演劇と同じで、データより自分の記憶の方が鮮明に残るのです。

最近は何でもパシャパシャ撮りたがる人が増えました。
総理大臣を殺害しようと爆弾が投げ込まれた現場ですらスマホを持った人が群がる、気持ちの悪い社会です。

以前は外食で撮影することもありましたが、最近はやめてます。
だいたいは自分の思い出のためというよりSNSに上げていいねをもらうためですよね?
よっぽど珍しい料理ならともかく、何でもかんでも撮るのは私はしたくない。

昔の風刺画で日本人は出っ歯でメガネをかけてて首からカメラをぶら下げてましたが、昔から撮影好きな国民性なんでしょう。

外ではどこで誰が撮ってるかわからないから(無関係の人が写り込んだ画像や動画を平気でSNSに上げる人が少なくない)、マスクをしてる人もいるのではないでしょうか。

大切なものほど撮らない、というのを私は心がけています。

撮らないことで、一回性のものであるという認識をより強めたり、その場の雰囲気をより大切にしようという意識が働くのです。

美術館で撮影する人は一回性の芸術とは思ってないのでしょう。
画集と実際の絵が大して変わらない感覚になってきたのかもしれません。

こういうことを書くと「SNSで拡散した方が美術館も喜ぶ」と言う人が出てきそうです。

ヤマハホールで私の贔屓の奥井紫麻さんのピアノ・リサイタルがあったときは、アンコールが撮影OKだったので(カーテンコールのみ撮影OKのコンサートは増えましたが)、奥井さんが弾いてるあいだカメラのシャッター音がたびたび響いたり、動画撮影しているスマホがたくさん並んでるのを見ながら演奏を聴くという、それはもう悲惨な状況でした。

宣伝は鑑賞と分けて行ってほしいのです。高級なお寿司屋さんに行ったら、客をほったらかして店主がテレビの取材を受けてるようなものではありませんか?
その場で味わおうとしている人を大事にしてほしいです。

とはいえ映画のパンフレットを買う感覚で、その場でも楽しんだけど思い出として撮影しておきたいという方もいるでしょう。

その場合は、その場で見ている人にぜひ配慮してください。

私に限った話ではなく、直に見ている人を気にかけず、自分のカメラアングルのことばかり気にしていろんな角度からスマホを構えてる人にたびたび遭遇しました。

そういう人がいると、電車で席を譲るみたいに「どうぞ。ゆっくり撮ってくださいね」とこちらが気を遣って身を引かないといけません。
で、撮影を終えた人が終わるまで待っていたこちらに会釈するかというとまったくそんなことはなく、撮り終わるとさっさと行ってしまう。

こちらはじっくり鑑賞していたのに、後から来てちらっと見ただけですぐにスマホを構えてアングルを探し始める。
好きな絵をじっくり見てる人同士なら連帯感も出るでしょうが、映画館でシリアスな映画を見てたら静かなシーンで隣の人がぼりぼりポップコーン食べ出したようなものです。興醒めも甚だしい。

予備校生のころに、京都の龍安寺に行ったことがあります。枯山水石庭で有名なお寺です。

私はお寺の縁側に座って、ぼけーっと石庭を眺めてました。

しかし、お寺の中をドタバタ走り回る人や撮影ばかりしてる人が多く、のんびりした心境には程遠かったです。

仕方ありません、人気スポットですから。

龍安寺も東京ディズニーリゾートと似たアミューズメントパークになったのだなと思ったものです。

美術館もかつてはコンサートホールや劇場、歌舞伎座や能楽堂のような一回性の場であったはずです。
なのに現代ではアミューズメントパークになってきている。

その緊張感のなさが私を嫌な気持ちにさせるのです。

ダメ出し感の強い文章なので「私が美術館で撮影しない理由」というタイトルで書き直すことも考えましたが、めんどくさいのでこれで載せちゃいます😅

周りに配慮して誰もいないタイミングでささっと撮影してる人もいるだろうことは承知しております😉

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