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少子高齢化社会の未来にある「多文化共生」とは?——共創プロジェクト「多彩な文化のむすびかた」(1)

KOELの未来のあるべき姿を考えるビジョンデザイン・プロジェクト、3年目の今年は「多彩な文化のむすびかた」と題し、兵庫県神戸市長田区を中心にフィールドワークを行いました。今回から5回に分けて、プロジェクトの計画からフィールドワークの実施、そこから見えてきた多文化共生の課題と、共存・共生に向けたアプローチについてご紹介します。


KOELのビジョンデザインとは

KOELでは、少し先の未来をみるためのデザインの取り組みとして、ビジョンデザインを実施しています。KOELではビジョンデザインを「未来の社会のあり方をビジョンとして描き、その未来の社会で生まれるニーズの仮説を立て、ソリューションを構想し、事業として社会実装を目指すアプローチ」と定義し、この取り組みを通じて、未来の社会のあり方、その中で生きる人々の価値観を洞察し共有することで、技術の視点・ビジネスの視点を持った関係者と力を合わせ、未来の私たちが必要なサービス・プロダクトを作っていけるように取り組んでいます。

KOELが支援する案件や、OPEN HUBなどで実施する共創のプロジェクトでも、未来像を描くためにビジョンデザインを実施することが多いのですが、KOELでは自分たちの視点を持つために、KOEL発のビジョンデザインのプロジェクトを企画・実施しています。日本各地の先進的な取り組みが行われている地域でフィールドワークやワークショップを行うことで、今後ありえる未来を具体的に想像し、共有することを目的としています。

KOELとして、ここ数年は、「人口減少高齢化」が進んだ未来の日本での暮らしをより具体的に構想するため、地域のイノベーションについて実績がある株式会社 リ・パブリックさんと共催でビジョンデザインのプロジェクトを実施しています。2021年から始めたこの取り組みは、今年で3年目となりました。

1年目は「みらいのしごと after 50 〜50代以降の働きかた、生きかたを、地域で創造的に暮らす高齢者に学び、構想する〜」と題して、人生100年時代の高齢者の仕事や生き方を探索するために、山口県山口市で創造的に働いている方にお話を伺いました。

2年目は、地域創生に目を向け、持続可能な地域に必要不可欠な要素を模索すべく、「生きるキャピタル 〜人やまちの豊かさとは何か 地域で共有される知識や資源から読み解き、構想する〜」というフィールドワークを実施しました。移住者が増え新たな外の空気と地域の土着性が寄り合い始めている長崎県雲仙市小浜町と、「土着ベンチャー(ドチャベン)」と呼ばれる地域に根ざしたベンチャー起業家を支援している秋田県南秋田郡五城目町の2箇所を巡り、地域資源を活かし理想の暮らしを実践されている方々のお話を伺いました。

これらのビジョンデザインのプロジェクトは、近い未来に私たちが確実に受け入れていかなくてはならない、人口減少高齢化が進んだ社会での暮らしの具体的なイメージを共有し、未来について考えたり議論を進められるように、毎回書籍の形でまとめています。イベントなどでもこれまでの取り組みをご紹介する機会があり、KOELのビジョンデザインの取り組みを皆さんに知っていただく機会も増えてきました。

そして3年目の今年、考えたテーマは「多文化共生」です。

少子高齢化社会の未来にある「多文化共生」

人口減少高齢化の進んだ未来の日本では、今の生活で当たり前なことが維持できない部分も多く出てくると予想できます。人口減少高齢化の進行により一番顕著な問題として想定されるのが、生産年齢人口(15~64歳)の減少です。日本の生産年齢人口は70%程度あった1995年をピークに減少を続けており、現在60%程度、2035年頃には56%程度にまで下がる、つまり社会の中の働き手が人口の半分程度になってしまうと予想されています。(*1) 今後、人が足りなくなってしまうことへの解決策として、今以上に外国人の受け入れを積極的に行う可能性が高まることが想像できます。現在の日本における外国人の割合は2%程度 と、世界の人口に占める移民の割合 3.5% (*2) と比べて低いですが、今後は観光目的の訪問者のような短期的な受け入れだけではなく、働く場、より安全で豊かな暮らしができる場所として日本を選択する外国籍の方も増え、これからの日本は今まで以上に、多文化共生を進めていく必要があるのではないかと感じます。

違う文化を持った人たちが増えていく今後の日本の姿を想像してみると、様々な疑問が湧いてきます。移住して来られた方と日本人が一緒に暮らし、日本の良さを共有できる街づくりには何が必要なのか。言葉や生活様式の違いを受け入れ、共存するためにはどんな仕組みが必要なのか。人口減少が進んだ日本において、これからますます増える「日本に迎える外国人の方々」と、どのようにして「暮らし」を紡いでいくべきなのか。多文化共生を促進させるために何が必要なのかを考えなければと感じました。

そこで今年も株式会社 リ・パブリックさんと一緒に、テーマを「多彩な文化のむすびかた 〜多文化共生の仕組みとは何か、多様な人々が交流する地域を辿り、構想する〜」として、「多文化共生」を考えるリサーチを行いました。まず独自のお題を設定するために、何度も議論を重ねテーマを設定していき、フィールドワークで関係者の方の生の声を聞くことで現状を調査していきました。そのお話を持ち帰り、伺ったお話の背景にある、戦争を契機とした難民や、産業との結びつき、公害、震災などの大きな流れについて理解を深めました。フィールドワーク先は、全国的に見ても人口を占める外国人の割合が高く、行政側・民間側双方からの多文化共生の動きが強い兵庫県神戸市長田区で実施することにしました。

KOEL発のビジョンデザインのプロジェクトは、他のプロジェクトと並行して進めていくため、進行スケジュールは細く長くなることが多いです。今年はこんなスケジュール感で進めていました。

2回のフィールドワークから帰ったあとは、長田でみたこと、聞いたことをもとに、KOELとリ・パブリックさんで、多文化共生について考えていきました。

リ・パブリックさんとのワークショップの様子

最終的に完成したプロジェクトの総括や資料の全容は、全5回の連載の中で少しずつお伝えしていきたいと思います。

準備の段階で感じた、例年にない難しさ

こうして最終的に2023年のビジョンデザインのプロジェクトをまとめることができましたが、今年のテーマには強い興味を感じる一方で難しさもありました。「多文化共生」とひとことで言っても、その意味合いは深く、広いものだったからです。

どういった外国人を対象としているのか、共生のゴールをどう想定しているのか、多文化共生を見ることでどんな概念を持ち帰りたいのかなど、テーマの設定として考えるべきことは様々で、それゆえ肝心のフィールドワーク先がなかなか決まらないということもありました。

過去2年はフィールドワークに向けてすぐに動き出すことができていましたが、今回はテーマ決め、フィールド先の選定に多くの時間と議論を重ねる必要がありました。

次回は「多文化共生」というテーマに対して、メンバー同士がどう視線を合わせ、最終的なフィールドワーク先を決定して行ったか、そのプロセスをご紹介したいと思います。

*1 内閣府(2022)「令和4年版高齢社会白書
*2 GLOBAL ISSUES International migration, United Nations


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