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【デビルハンター】ジュディ婆さんの事件簿 #20(第6話:1/4)

Mmmmm~♪ Mm... Mmm......♪ 
-ジュディ-

<前回のジュディ>
日本で発生した戦闘から遡ること25時間、デンバー。シティ・パークで獲物を確保したジュディとゴードンは車を走らせ、ジュディの家に到着していた。
前回(#19(第5話:4/4)
目次

……………
■#20

「さて、さて、さて……」
紫煙を燻らせながらハミングしていたジュディは煙草を揉み消し、おもむろに口を開いた。デスクチェアの背もたれに背中を預け、目の前の猿を見下ろす。

床に敷かれたズタ袋の上に座り、黙って俯く猿。

ガチリ。
静まり返った室内に撃鉄を起こす音が響く。

リボルバーを握った左手を膝の上に置いたジュディは、朗々とした口調で尋問を始めた。
「いくつか質問する。質問ゲームさ。猿もゲームは好きだろう?」
ニヤ、と微笑みかけるジュディ。
「え? あ、わ、わかッタ」
ビクっと肩を揺らし、怯えた表情で見上げた猿が頷く。

「このゲームにおいてお前が守るべきルールはひとつ。隠さず正直に答える。それだけ。……もし途中でルールを破ったと ”私が判断した場合”、お前はその時点で死ぬ。猿でもわかる簡単なゲームさ。無事にゴールまで辿り着けたら死なずに済むかもしれない。……オーケー?」
「わ、わかッタ、わかッタ」

「よし。じゃぁ…… 猿。おま」
「ト、トレバー」
「あぁ?」
初っ端から口を挟まれたジュディの眉間に深い皺が生じ、リボルバーの引き金に人差し指がかかる。
猿は慌てて言葉を足した。
「ボ、ボボボクの名前。トレバー」
「……ああ。お前、腕だけムキムキの奴をヒューゴとか呼んでたね。名前を呼び合う悪魔猿ってか。どうでもいいことを生意気に…… まあいい。ルール追加だ。今度途中で口を挟んだら殺す」

デスクからやや離れた場所に置かれたソファに座り、借りたタオルで ”すでに完治した刺し傷” の血を拭っていたゴードンは、生きるか死ぬかの強制ゲームに震える猿の背中に目をやった。たどたどしくも人間の言葉を喋り、名を名乗る猿。その猿を問い詰める残忍な老婆。非現実的な光景。まるで映画。

「で、トレバー。お前は ”悪魔” かい?」
「わ、わからない」
ジュディの眼光が鋭さを増す。
「う、ウソじゃない! ウソじゃない。ボクもわからないんダ。……チカラを与えられテこーなッタ。喋れテ、強くなッテ…… 人間を殺す、トか、悪いコトが楽しくなッタ」

わからない―― か。
さっき始末した2匹の猿は、”奴ら” と同じようにきっかり3分で灰になった。だがこの様子…… コイツの中身は、猿のまま。演技には見えない。つまり奴らによる乗っ取りではない可能性が高い。

「力…… その ”力” ってのは誰に与えられたんだい」
「い、いや、それは言ッタら殺され」
「ゲーームオーバァーー」
ジュディの両眼に満ちる殺気。
銃口を向けられ縮み上がったトレバーはヒッと悲鳴をあげながら顔を伏せ、両手を前に突き出して「待った」のポーズを取った。
「わ、わかッタ! 言う、言うから! …………ボクらを連れ去ッタやツらは、ボスのこトをフォ、フォルカー、ッテ呼んデタ。フォルカー様、フォルカー様、ッテ」
「名前だけ言われてもねぇ。特徴は?」
「え…… えト、ビョーキみタいに顔が真ッ青デ、人間にしチャおかしいくらい細長くテ…… 背が高い。オトコ。オトコダ。……あ! あト、目のマンナカの黒いトコロが真ッ赤! ソイツがボクらにチ、チチチカラを」
その時の恐怖を思い出したのか、トレバーの全身がブルリと震えた。同時に、ジュディの眉と上瞼が無意識に上へと引っ張られる。

「おいジュディ! それってもしかして」
ゴードンがソファから腰を浮かせ大声をあげる。ジュディはゴードンに目配せしながら小さく頷いた。

「よし。そこまで吐いちまったらもう躊躇う必要はないだろう。続けな」

もうこちらの船に乗るしかないと腹を括った様子のトレバーは、堰を切ったように話し始めた。
「少し前、ボクらは檻に入れられ、連れテいかれタんダ。クルマのうしろの…… 荷台にゆられテ」
「少し前、を具体的に」
「え、えット…… 4日前。1人目を殺しタ… その前の日」
「車に乗っていた時間は」
「ジカン? わからない。タダ、動物園がしまッテすぐ連れテ行かれテ…… オトコに会ッタのは短かッタ。帰ッテきタのは次の朝―― まダ暗いトき」
「往復半日ってところか。連れ出したのはどんな奴らだい」
「よ、四人。デも顔はわからない」
トレバーが素直に首を振った。
「なぜ」
「み、みんな同じマスク? つけテタ。……白い、丸いマスク、小さな穴がいッぱい空いテタ」
「ふん………… こんなマスクかね」
ジュディはデスクに置いてあったスマートフォンを手に取ると、検索欄に『FRIDAY THE 13TH』と入力し、麻袋ではなく…… ホッケーマスクを被った男の写真を見せた。

「そう! コレ。デもこんなデカイ男じゃなかッタ。声、ト、身体。全員オンナ。服もみんな同じ。真ッ黒のスーツ、ホラ、ビジネス? デ着る」

揃いの衣装にマスク…… 動物園の監視カメラを警戒? 顔を隠す理由は?  ……まあそれはいい。

「ゲームクリアまであと、みっつだ。しっかり答えな」
ジュディはひとまず考えるのを止め、質問を続ける。

「どこに連れていかれた?」

「わからない。ホ、ホント! ホントに。ボクはココがデンバーッテ名前テこトしか知らないし……」
「景色、臭い、目立つ建物…… 何か記憶があるだろう」
「えー、えート…… カラカラの空気。暗くテ広くテ何もない原ッぱ、草のニオイ…… あ! 空に… 山に向かッテ伸びる長い長いロープが見えタ! そう、そのあトしばらくしテ空飛ぶデカイ…… 飛行機? アレが降りテくるのが見えタ。その近く、大きな、立派な家、屋敷? 広い庭。そこ。オトコ…… フォルカーはしばらくここを拠点にしテいる、何かあれば報告しにこい、ッテ」
「うーん…… どこだろう。空港の近くか」
血で汚れたタオルを几帳面に畳んでいた手を止め、ゴードンが呟いた。
「おそらくニューメキシコ州。アルバカーキだね。あそこにはサンディア山脈の名物 ”トラムウェイ” がある。さらに南下すればアルバカーキ国際空港。深夜も離発着がある」
「そうか! 山頂まで一気に登れるあの長いケーブルカー! アルバカーキまで車を飛ばせば片道6時間ってことだ。動物園の閉園が16時…… 明け方には戻ってこれる距離。辻褄は合う。間違いないなこれは」
膝を打ったゴードンは、確信したような顔で何度も頷いた。

「さてトレバー。楽しいゲームも残りふたつとなりました」
役に立ちそうな情報を提供できてホッしていたトレバーは現実に引き戻された。

「どうやって、力を与えられた?」

「い、石! 石ころをアタマにあテられタ。それダけ。アイツが大事そうに持ッテタ、その辺の石ト同じ色デ、まん丸の…… 野球ボールくらいの大きさ。なんか模様トか、知らない文字が刻まれテタ。それをオデコにピトットされタら眩しくテ、クラクラしテ…… チカラがわいタ。あ、あト、オトコは ”人間以外にドう作用するのか、これは実験ダ” ッテ言ッテタ。それト――」

力を与える石…… まさか賢者の石?

ジュディは無言で続きを促した。
「―― 好きなように暴れろ、ト。人間を殺せ、ト。暴れれば銀髪の老婆、もしくはアクマを狙う誰かが姿を見せる可能性がある、ト。ソイツらを殺せば褒めテやる、モット楽しい遊びに加えテやる……ッテ。ソレ、アンタらのコト…… ダよな? デスヨネ?」

「やっぱり俺たちを探してたんだな…… 石って、例の石か? しかしジュディ、悪魔が人間を乗っ取らずにまわりくどい事をするのは何故だろう」
じっと聞いていたゴードンが疑問を口にする。
「さあね。この数百年…… 何千、何万匹と狩られ続けて ”弾切れ” 起こしてるって話なら笑えるんだが、楽観的な憶測は禁物だ。粗悪品とはいえ新たな製造ラインを確保されたらチト面倒さ。……トレバー! 最後の質問だ。とても大事な質問……。よぉく思い出しながら答えるんだよ」
声色が変わったジュディからその質問の重要さを感じ取ったトレバーは、真剣な表情でゆっくりと頷いた。ここで有益な回答ができれば――

「……その屋敷で女を見かけたか? 両手を負傷した、ブロン」
「ハイハイ!! みタみタみタ!! いタ! ブロンド! 髪の短い、両手が無いオンナ!」
「はいゲーームオーバーー。二度と口を挟むなつったろ」
「アアアアアア!」
油断ッ! 気の緩みッ!!

「……まあいい。見たんだな? 生きていたんだな?」
銃口をおろしながらジュディが問うと、トレバーは首が折れそうな勢いで何度も何度も頷いた。
「エリザベスだ。生きてたんだな!」
手をパン! と叩きながら、高揚した声でゴードンが叫ぶ。
「ああ。間違いなさそうだね。女の様子はどうだった」
「黙ッテ、フォルカーの隣に立ッテタ」
「……拘束されずに、かい?」
「そう」
「ふん…………」
わずかに頬を緩めていたジュディの顔が一転して曇る。

「いやしかし…… かなり前進したな!……エリザベスの奪還が見えてきた。ジュディ、俺、ソフィア、ヴィクターに、イタルが加われば……! 前回と違ってこっちも準備して挑めるんだ。ヴィクターはそろそろフライトかな。あとで一報入れておこう。このトレバーは…… 動物園にいったん戻すか。せめて1匹でもいないと大騒ぎになる。ニュースにでもなったら…って、おい、ジュ……」
浮き足立っていたゴードンは、突然身を乗り出してトレバーの額に銃口を突きつけたジュディを見て言葉を失った。

「そんなの大した問題じゃないよゴードン。他の動物をテキトーに何匹か逃がせば目立たなくなるさ。死体を隠すために死体の山をこしらえるのと同じ。さあトレバー。隠しステージだ。この質問で全てが決まる」
「エッ!?」
ゴールテープを切ったつもりでニコニコしていたトレバーは、地獄の入り口に連れ戻されたショックで目玉が飛び出さんばかりに目を剥いた。

「お前、さっきフォルカーってクソ野郎に ”何かあれば報告しに来いと言われた”  って発言したね? ……場所すら知らないお前が一体どうやって報告するんだい? 嘘つきは死ぬしかないよねぇ?」

「ボ、ボク、ウソはツイテない……!」
質問の意味を理解したトレバーはホッと安堵の表情を浮かべ、ジュディを刺激しないようにゆっくりと立ち上がる。その背中がメリメリと音を立てながら裂け、鴉のように黒光りする大きな翼が生えた。

「わっ!」
面食らったゴードンが悲鳴をあげる。

「このツバサが勝手に、導いテくれるッテ言ッテタ」
トレバーは得意げな顔で翼をゆっくりと動かす。

「それを最初に言えバカタレ。ふざけんじゃないよ」
振り下ろされたリボルバーの銃床がトレバーの眉間にクリーンヒットした。

【#21に続く】

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