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【デビルハンター】ジュディ婆さんの事件簿 #7(第2話:3/3)

殺す。
-ジュディ-

<前回のジュディ>
田舎町で大量の ”奴ら” と戦うことになったジュディとエリザベス。順調に狩りを進めたが、突然あらわれた男によって戦況が一変した。その男とは――
前回(#6(第2話:2/3)
目次

……………
■#7

”奴ら” …………
人々を罪に陥れるもの、神に背く悪が人格化されたもの、堕落した天使、煩悩の化身…… 宗教文化により捉え方は異なるが、人々は ”悪” を象徴する超越的、超自然的な存在を ”悪魔” と呼んだ。
悪魔を狩る者 ”デビルハンター” がいつ、どのようにしてこの世に現れたのか定かではないが、幾人かのハンターが各々受け継いできた伝承や書物を複合すると、悪魔との戦いはおおよそ十一世紀、東ローマ帝国の時代まで遡ることができた。人間離れした ”ハンターの資質” を持って生まれるのはみな女性で、彼女たちが産む子もみな女性だった。ハンターは群をなさず世界各地に散らばっており、各々が密に交流することは稀であった。
基本的に自身と愛弟子―― 力を宿す可能性が高いとされる ”実娘” と共に人知れず狩りを繰り返し、やがては老いて…… もしくは悪魔に敗れ死んでゆくという運命にある彼女たちだが、なかには素性を隠し、夫や娘たちと人並みな家庭を築こうとする者もいた。しかしほとんどのハンターは ”悪魔を狩る” という行為を何よりも優先し、子を宿した時点で男のもとを去っていった。何も知らせずに。
子を持たず、もしくは子に恵まれず、独り悪魔との戦いに身を投じ消えてゆく者や、狩りそのものを拒む者も稀にいたが、ハンターの資質を持つ女性の多くは自身の ”血” の命令に従った。
”種を残し、未来永劫 ”奴ら” を狩り続けよ――”

1941年。
第2次世界大戦において頑なに孤立主義を守っていたアメリカがいよいよ参戦する気配を漂わせはじめ、フランクリン・ルーズベストの談話がカーラジオから流れていた、ある日のこと。まだ幼かったジュディを連れてアメリカ各地を転々としていた母親は、ある情報をもとにウェストバージニアの山中にある遺跡へと赴いていた。長きに渡りその所在が不明だった ”石” ―― 悪と戦う者のために賢者が創ったと言われる ”石” が、その遺跡に隠されているかもしれないという話だった。真偽を確かめるために向かったその遺跡で1匹の悪魔と遭遇した母親は…… 激しい一騎打ちの末―― 敗れた。ジュディの目の前で。深い傷を負った悪魔は、怯え立ち尽くすジュディなど歯牙にもかけずに姿を消した。

その後、世界中を彷徨い、幾人かのハンターと一時的ではあるが行動を共にし、幾多の修羅場をくぐりぬけ、無数の悪魔を狩ってきたジュディ。いまや同業者から伝説視される存在となった彼女から見ても、母親のハンティングセンスは他の誰よりも飛び抜けていた。その凄腕の母親を殺した男が70年以上の時を経て、ふたたびジュディの前に姿を現したのだった。かつての容姿そのままで。


「騒がしいから様子を見にきてみれば… 小娘、何者だ」
男が冷静な口調で言った。その手には日本刀らしき反った片刃の武器。
両手を斬り落とされうずくまっていたエリザベスが、歯を食いしばりながら無言で男を睨みあげた。
「能力は我々の同胞に似通っているが、人間の臭い… 混血か。 非常に珍しい……。そこの老婆。貴様の娘か? 貴様の戦いぶりは拝見できなかったが… その殺気。ハンター…… だろう?」
男は眼前のエリザベスを見下ろしたままジュディに問うた。

「私に娘なんていないよ…… だが、母親はいた。77年前に死んじまったけどね…… お前に殺されテナアァァァァ!」
怒りを爆発させながら地を蹴ったジュディが一瞬にして男の懐に入り、振りかぶったフロストブリンガーを斜めに撃ちおろす!
ギンッ!!
男は平然とした顔のまま刀を片手で構え、ジュディ渾身の袈裟斬りを軽々と受け止める。だが、己の刀が一瞬にして凍りつき亀裂が生じてゆく様を見るとわずかに目つきを険しくさせ、柄から手を離す…… と同時に目にも留まらぬ速さで前蹴りを繰り出した。
鳩尾に強烈な蹴りを喰らったジュディの身体はくの字に曲がると後方に大きく吹き飛ばされ、トラックの側面にめり込んだ。

「老婆…… 貴様のその斧、”魔装具” だな? しかもそれは――」

「キィィィエエエエエエエ!」
ジュディの咆哮。フロストブリンガーに氷着していた日本刀を叩き折って捨てるとクラウチングスタートのような姿勢をとり、トラックのタイヤを蹴って再突進する! 素手の男に肉薄した瞬間、フロストブリンガーを首筋めがけて水平に薙ぎ…… しゃがむように ”避けさせた” 男の顔面めがけて至近距離からリボルバーの6発目を撃ち込んだ。
ドッガチンッ!
「なっ」
弾丸を前歯で噛み挟んだ男がニタリと笑う。
男の舌先で転がされた弾丸の先端がジュディの方へと180度転換し――
ボッ!
「ぐうっ」
吹き矢の如く口腔から発射された弾丸がジュディの腹部を貫通!
腹が焼けるような感覚…… を無視し、男の額めがけてフロストブリンガーを振り下ろす!
ガギンッ!
男は外套の下から一挺の斧―― トマホークを抜くと、上段の構えでフロストブリンガーの刃を受け止めた。
「それはっ…!」

ジュディの母親は ”斧” の扱いを得意としていた。
母親の先代、その先代… 長きに渡り受け継がれてきた二挺の斧。
触れるものを凍てつかせる ”氷刃のフロストブリンガー” 。
触れるものを焼き尽くす ”焔刃のフレイムブリンガー ”。
この世にいくつか存在すると言われている ”魔装具” のうちのふたつ。
男が構えたその斧は、1941年の戦いによって母親から奪われたフレイムブリンガーに違いなかった。

ボシュウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!

氷と炎、魔力を宿した二挺の刃がぶつかり合い、爆発的に生じた水蒸気が霧となって周囲を包み込んだ。視界がまったく利かないジュディはひとまず後方に跳躍して距離を取る。腹部の出血はかなりのものだが、咄嗟に身を捻ったおかげでかろうじて急所は外れていた。リボルバーの弾丸をシリンダーごと再装填し、気配を感じるあたりに向けて繰り返し引き金を引くが手ごたえはない。

「老婆…… やはりあの時の幼子か。ハハハ。面白い。これは面白い…… 今日は見逃してやろう。この町の老いぼれどもがひた隠しにしてきた ”石ころ” がやっと見つかって…… 機嫌が良くてね。ただ… この美しい小娘はいただいていくよ」
「このクソ野郎! 殺してやるから逃げるんじゃないよ!!」
「ジュディさん!」
「エリザベス! エリザベス!」

繰り返し叫ぶ声に返事はなく…… やがて霧が晴れ、立ち尽くすジュディと地面に転がるエリザベスの両手、奴らの灰だけが残された。

第2話・完

【#8(第3話)に続く】

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