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東北へのまなざし 1930-1945:1 /東京ステーションギャラリー

 1930年代の前後、東北地方の暮らしと文化に熱いまなざしを向けた「美のまれびと」たちがいた——ブルーノ・タウト、柳宗悦、あるいは郷土玩具のコレクターたち。彼らが、本展の主な登場人物である。
 上に挙げられた者どうしをつなぐ線は、じつはそう濃くはない。オムニバス的な構成になっているが、このことによって東北憧憬ともいえる動きがほぼ同時期に、かつ、かくも多様性をもって多発していたことが、かえってはっきりとしてくるのだ。

 タウトが評価した桂離宮にしても伊勢神宮にしても、洗練された繊細な「みやこぶり」の美意識をみせるもので、東北の造形感覚とは異質。それでも、どうやらタウトの眼にかなうところがあったようだ。
 タウトに関する展示のハイライトは「秋田の旅」。秋田在住の版画家・勝平得之のわずかな縁をたよりに、タウトは厳寒の秋田を巡った。現地の風俗や民芸品に、タウトはたびたび感嘆の声をあげたという。
 タウト本人も迎えた勝平も、この秋田の旅のことをのちに詳しく書き残している。
 本展では壁面いっぱいのパネルの上部にタウトの回想、下部に勝平の回想を引用。当時の出来事を、双方向の視点から追体験できるようになっていた。同じ場面でも、両者で受け取り方に違いがあるなどしておもしろい。
 また、エピソードに登場する雪国の民具や勝平の版画作品を壁面パネルのかたわらに展示し、鑑賞者の理解を助けていた。
 勝平の版画は、秋田という土地の空気を濃厚に感じさせる。画中の人物はみな笑顔で、和やか。勝平の作品に注目したことはなかったけれど、いきいき、ほのぼのとしていてなかなかよいものではないか。

 タウトと東北をつなぐ点として、おそらく「秋田の旅」以上によく知られているのは、国立仙台工芸指導所で工芸品の製作指導にあたったことだろう。会場では、このときに撮影したとおぼしい宮城県内の写真や、製作に携わったインテリア、小物類が展示されていた(後者は仙台のあと、高崎時代のものを含む)。
 じつは、タウトが仙台にいた期間はたった4か月。
 また、タウトが関係した造形物のどこかに「東北らしさ」を如実に感じさせる要素が見いだせるかといえば、正直ちょっと難しくもある。
 むしろタウトの場合、本来の専門分野である建築・工芸の作品よりも、日本文化に関する執筆活動において、より “東北憧憬” の様態がよく現れているといえるのだろう。
 『日本美の再発見』など高名なものの他にも、タウトの日本に関する著作は存外多い。これらに目をとおして、タウトの眼がとらえた「東北」の面影を探してみるのも一興であろう。(つづく)


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