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生誕360年記念 尾形乾山:1 /岡田美術館

 箱根の岡田美術館へ行ってきた。開館時以来の訪問で、じつに約10年ぶりとなる。
 ブランクの理由は、第一にアクセス(箱根の山の中)、第二に入館料(大人2,800円也)、第三に広大さ(展示面積5,000㎡。東博の平成館2階は3,000㎡)といったところ。
 せっかく行くならば、丸一日はみておきたいもの……そうこうしているうちに、歳月だけが過ぎていった。

 今回は、10周年記念展と銘打って「若冲と一村 —時を越えてつながる—」が開催中。加えて、尾形乾山の特集展示もある。
 よい機会だと思い、意を決してうかがった。
 メインを張るのは「若冲と一村」のほうだが、先日までの木米の流れを受けて、まずは乾山の話題としたい。


 乾山は常設展示の一環という扱いながら、陶磁器19件、絵画2件の優れたコレクションが全点並べられる、贅沢な空間となっていた(作品リストはこちら)。
 乾山陶の多様な全貌をカバーするというよりかは、琳派ふうのもの、絵画的なものに注力されている印象。非常にきらびやかであった。

 岡田美術館の収蔵品には、全集などの出版物で「個人蔵」として紹介されてきた有名作品が多い。すでに閉館し、コレクションが散逸してしまった美術館の旧蔵品も見受けられる。
 「ああ、この作品はこの館に入ったのね」という意表を突く出合いは、勢いのある新興の美術館ならではといえよう。
 岡田美術館所蔵の乾山作品として最も著名な《色絵竜田川文透彫反鉢》も、そんな逸品。

 10年前の話ではあるが、これが出てきたときには驚いたものだ。安住の地を得てまもない2015年、重要文化財の指定を受けている。

 ※透彫の反鉢はもう1点所蔵されている。

 目を引いたのは、角皿の充実ぶりだった。硯箱の蓋に似る形状から「硯蓋(すずりぶた)」と呼ばれる懐石のうつわの一種で、乾山陶のなかでも人気の作。
 さらに色絵だとか、銹絵(さびえ)の兄・光琳との合作ともなると愛好家垂涎の品だが、ここでは色絵4件(うち1件は10枚組)、銹絵の兄弟合作1件(下の画像)で、ひとつのコーナーができあがってしまっていた。

「光琳兄さん……おれが後から賛入れるって言っといたじゃんよ……。もう、しゃあない、ここに書いちゃえ!スペース残してくれなかった兄さんが悪い!」――といった、弟・乾山の独り言が聞こえてきそうな兄弟合作の角皿。


 四角形の見込をひとつの画面として、紙の上と同じように、絵が描かれている。縁の側面につけられたパターンは、表具か額縁のように見込の絵を引き立てている。
 きわめて、絵画的なやきものといえよう。(つづく

帰りは美術館から、箱根登山鉄道の小涌谷駅まで坂を下りながら歩いた。山のところどころに、桜の花がまだ残っていた



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