香道の世界 ~志野流香道五〇〇年の継承~ /増上寺宝物展示室
NHK「日曜美術館」の「アートシーン」は、今年度に入ってから放映スケジュールが変更された。
朝の本放送と夜の再放送が同じ内容だったところ、朝は新しいものを、夜は前週の本放送時と同じものを流すようになったのだ。
同日に2度繰り返されるより、2週連続で映してもらったほうが、宣伝効果はたしかに高そうな気もする。会期終了間際に取り上げられた場合、翌週の再放送時点ではすでに閉幕していることになったりもしようが……そのあたりは計算づくで編成されるのだろう。
さて。昨日朝の分の録画を夜に観ていたら、増上寺の宝物展示室でお香の展示が開催中という情報が。志野流のお家元に伝わった品が、めずらしく公開されているのだという。
ポスターやリーフレットを見かけず、ツイッターでもキャッチできていなかった。月曜日も開館しているし、もともと近くの三田にある慶應のミュージアム・コモンズに行く用事があった。打ってつけではないか。
もうひとつ、いい機会だなと思った理由として、最近視聴した「美の壺」の青磁の回(しかもけっこう前の再放送)にちょうど志野流の当代が出演されていて、家伝の《青磁香炉 銘「あをやぎ」》を紹介していたことがある。《あをやぎ》は足利義政の所蔵品、東山御物とのこと。
「美の壺」の映像はいつもきれいで再現性は高そうだけれども、青磁の色味というのは本当に微妙でむずかしくて、やはり現物をこの目で見たいことに変わりはない。
その《あをやぎ》が、本展の冒頭を飾っていた。
緑みの抑えられた、明るい砧の釉調。その命銘も手伝って、川べりに揺れる新緑が連想されて、涼を誘った。
今年初の真夏日となった昨日ほどではないにせよ、今日も暑い。このような日には、みずみずしい美に触れたいもの。
青磁は青磁でも、もう少し時代が下がって元・明のものとなれば、釉の調子は暗く緑方向に偏っていって、ちょっと暑苦しいかもしれない。やはり南宋のものに限る……
木の蓋がかぶさっていたために、口縁の釉溜まりを観察できなかったのは心残りではあるが、間近で観ることができたのはよかった。それに展示の冒頭にしてメインの作としての増上寺蔵《徳川家康画像》、古い螺鈿の高卓との取り合わせは、さすが風格を感じさせるものであった。
この取り合わせに続いて、お家元の蜂谷家に伝わる歴代家元の肖像、文書、香道具や香木がずらり。
初代・志野宗信の肖像には、かたわらに《あをやぎ》と同じ三足の青磁香炉が描かれていた。解説によると、宗信は「香炉「都鳥」などを家宝として所持していた」とのこと。この絵にある香炉も「都鳥」だろう。
《あをやぎ》は、足利義政から三好、今川、そして織田信長、近世には姫路藩の酒井家に伝わったのち、蜂谷家に入ったのだと解説にはある。
「都鳥」という銘から推しても、徳川美術館の千鳥香炉(下記リンク)と同系統のもの、つまり《あをやぎ》とも同種のものと思われるから、画中の香炉とは合致する。
「都鳥」は伝世の過程で失われてしまったけれど、初代を偲ばせ、家の歴史を象徴するものとして同種の香炉が必要であり、《あをやぎ》が迎えられたのであろう。
香木のコーナーには、義政も信長も切り取った蘭奢待(らんじゃたい)の一片が出ていた。
昨日はなんと、その一部を焚いたのだという。
増上寺のどこで焚いたのか確認はしなかったが、会場に漂っていたあのほのかな香りは、蘭奢待の残り香だったかもしれない……そんなわずかな期待も、換気、換気のご時世であると気づくにいたって、かき消されてしまうのだけれども。
蘭奢待の残り香は期待できないまでも、展示じたいは、まだしばらく続いていく。
気になるという方は、来週夜の「アートシーン」をご覧になって、判断されるのもよろしいかと……