【女将のエッセイ】お客さまを残し、ひとり帰宅した夜のはなし

昨夜。17時にのれんを出し、いちばん最初にお顔を見せてくれたのは、近所の会社で働く馴染みの男性Mさん。

60代、ひょうきんでちょっとエッチな、志村けんさんみたいなタイプの方。同僚とおふたりでのご来店でした。


うちはこのたびの感染騒動がはじまって以来、自分たちはもちろん、お客さまにも消毒の徹底をお願いしているし、ソーシャルディスタンス、営業時間の短縮、利用時間の制限を設けるなど感染予防につとめています。

ところがMさん、この2ヶ月で3〜4回きてくれてるんですけど「ちょっとぐらい伸びてもいいよね?」とか「あと一杯だけ!お願い!」とか言って、けっきょく制限時間を超えてしまうんですよね、毎回。


昨晩も案の定、同じようなやりとりをしました。

私「そろそろ食事の注文聞いていいですか?」
Mさん「えっ早くない?もうちょっと居てもいい??」
私「いてほしいのはヤマヤマなんですけど……」


私「もうすぐ時間なので、お会計ここにおいておきますね」
Mさん「はーい。20時閉店だよね?それまではいいんだよね」
私「いや、だから……」


Mさん「焼酎一杯だけいい?あと一杯だけ!」
私「Mさん、もうとっくに時間すぎてますよ……」

Mさん「厳しいね。真面目だね〜」
私「私たちもほんとはもっとやりたいんですけどね。これでも命がけで営業してるんです……」


こんなやりとりを5回も6回もしたあげく、時計の針が閉店の20時を指しても、お尻に根っこが生えて抜けないふたり。

もう来店から3時間ちかく経っています。感染リスクはあがる一方です。幸い、ほかにお客さまはいませんでした。


普段から少々ワガママな部分はあるけれど、今日は、ちょっとヒドイですね。

マスクをしているせいか、私の顔がどんどん真顔になっていくことにも気づいてもらえてないみたいだし。


私はついに業を煮やし「お先に失礼します」と言ってふたりを残したまま、店から目と鼻の先にある自宅へ向かいました。

「あれっ帰っちゃうの?」と背中から声が聞こえたような気もしましたが、もう姿は見えていなかったでしょう。

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