【エッセイ】ぼくの彼女はロッキー 「なあに、落ちても負けてもいないさ」
映画・ロッキーⅢで、ロッキーはポーリーに言いました。
「人のせいにするな。自分の人生は自分に責任がある。君は落ちても負けてもない。嫉妬と、怠け者なだけだ」
私がその言葉の意味を理解するには、時間がかかりました。
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地位を得るのは簡単ではありません。
膨大な時間とお金を費やし、競争を勝ち抜く必要があります。
士業と言われる職業の人々や官僚は、他人の数倍勉学に励んだ末にその地位を得て、多額の報酬と名誉を手にします。しかし、そんな士業の方でもAIの台頭により不安が芽生え始めているといいます。
今の時代は、絶対的な安心などは存在しないのかもしれません。
私が社会人1年目の時に就職したのは、国家公務員・一般職でした。
みなさんがイメージする国家公務員というのは、霞が関で夜遅くまで勤務に励み、政治家の答弁を考えている総合職・キャリア官僚かもしれません。
政策の企画・立案、法律の制定・改定など重要なポストを担うのが、総合職です。
しかし、一般職は総合職とは異なります。政策の実行や運営を担当し、事務処理などを主に行います。総合職よりも難度の低い仕事を担当することが多く、出世のスピードも遥かに遅くなり、事務次官というポストにつくことはありえません。
悪く言えば、総合職の下位互換が一般職なのですが、一般職といえども侮れません。
私の一般職の同期には、大阪大学や神戸大学など、秀才たちも多くいました。総合職の合格者の大半は東大生なので、それに比べると見劣りしますが。
一般職とはいえ合格するのは一筋縄ではいきません。膨大な範囲の試験範囲を網羅するために、大学生生活の後半は試験勉強に勤しまなければならないのです。
人よりも勉強のスタートが早かった私は、運よく合格し、国家公務員一般職として働き始めました。
特に国家公務員になりたかったわけではありません。
内定をもらっていた市役所と、国家公務員を比較したとき、「国家公務員って名前がかっこいい」という理由で社会人人生のスタート地点を決めてしまったのです。
今思えば、本当に後悔しています。3年前の自分に、「かっこいいとか、そんなふんわりとした感覚で仕事を決めないほうがいいよ」と生温かい声で囁きシローをしたい気分です。
ただあの頃は、希望に満ち溢れていました。周囲からは称賛され、鼻が高く伸びていたのです。
しかしその3年間は期待していた生活とは言えませんでした。そして、給与が少ない割に頻繁に転勤があることを悲観し、丸3年で退職して、転職しました。
その後、次の職場で私を待っていたのは、「転がり落ちるのは簡単なんだよな」という悲観的な意識との闘いでした。
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「今、暇よね?」
暇よね、と確認されている以上、「忙しいです」とは言えず、ぼくはコクリとうなづきました。
「じゃあこっち来て!」
大奥を束ねることができそうなリーダーシップ溢れるパートのお局様は、ぼくを呼び出しました。案内された部屋には、大量の封筒が置いてあります。
「じゃあ、シルバーさんの横に座って!?」
そう指示を受けた私は、シルバーさんという存在を認識できません。
誰だ?誰だ?誰だ?空のかなたに踊る影があるのか?
困惑していたとき、ぼくは1か月前のメールを思い出しました。
`シルバーさんは70歳以上の高齢なので、書類を渡す際は、黄色のマーカーではなく、ピンクのマーカーで書いてください`
そういうことか!ぼくはひらめきました。
シルバーさんというのは、高齢のパートさんのことだったのです。シルバーさんの隣に座ったぼくは、「テープを貼って?」と指示されました。
どうやら山のように積み上げられた封筒に、テープを貼っていく作業を行う必要があるようです。
シルバーさん2人は、私をみて、「あなた新人さん?若いわね~」と関心しています。年齢を戦闘力で換算するなら、戦闘力70を超えたシルバーさんに対して、私は25しかありません。
くだらないことを考えているとうちに、お局様の声が耳に入ってきます。
「早くしてね。時間がないから」
念を押された私は、さっそくテープを貼りを行い始めます。
ビリビリ…ビリビリ…
ペタペタ…ペタペタ…
ビリビリ…ビリビリ…ペタ…
「あー違う違う。そんなやり方じゃ遅い」
「すみません」
「15時30分には仕上げてね!郵便局が来るの。郵便局、最近やたらと早いからとにかく急いで!」
「わかりました」
思えばいつもそうです。私は社会人になってから、「すみません」「わかりました」を多用していますが、本当にそう思っていることは少ないのです。
納得できなくても、その場を乗り切るために、「言っておけばいいか」と思っているのです。
ビリビリ…ペタペタ…
2時間くらい貼りつけていたかもしれません。
前職の国家公務員時代、非常勤職員の方は、なぜかぼくらを一目置いていました。「難しい試験を通過してきた人々」と認識されていたからかもしれません。むしろ私たちの方が、非常勤さんに単純業務を任せることが多かったほどです。
私は、知らず知らずのうちにその対応になれていたのでしょう。いつのまにか鼻が伸びていたからこそ、転職先での対応を素直に受け取ることができなかったのです。
テープの音だけが支配するこの部屋で、私はくだらないことを考えていました。
「全部を郵送してもどれくらいの人がこれを読むのだろう?このうちの一部でも電子配信すればええやないか。そうしたら人件費も、印刷代も、郵送料も浮くのに…その分、俺らの給料増やしてくれよ。そうやって人件費をケチるから定着率が低くなるんや...」
一度斜めに考えはじめると止まりません。
「年収が100万円以上も下がって、今はパートのおばちゃん並みの時給で高齢者と一緒にテープ貼りか。ははは…転がり落ちるとはこのことか…」
そんなことを考えながらもくもくとテープを貼っていきました。
しかし、仕事の内容自体がしんどいわけではありません。優しい先輩が指導してくれますし、仕事内容も決してブラックではないのです。
つまり、気持ちの問題。素直になりきれていないだけなのです。
最後の封筒にテープを貼ったとき、お局様は言いました。
「ま。急いでこれを送っても、明日から10連休やから誰も発送物をみてないんやけどなあ」
見てないなら今日じゃなくてもいいじゃないですか、なんて言えやしません。私は、大奥のお局様に頭の上がらない武士の気持ちに共感しました。
「うん、武士もつらいよな」誰が武士やねん、と心で突っ込みます。
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ぼくは本当に転がり落ちたのでしょうか。
年収が下がったことは致し方ないことですし、新人である以上、お局様や学歴が自分より下の同級生にへこへこするのも普通のことです。
では何が不満なのでしょうか。
それは、プライドなのではないでしょうか。
かつて必死に勉強して国家公務員になったのに、現状を情けないと思ってしまったのです。
そのような悩み、葛藤を私は彼女に吐露しました。
すると彼女はこう言ったのです。
「情けなくなんかないよ。情けないって言っているのが情けない。高すぎるプライドは人生をダメにするよ?」
そのときの彼女は、ロッキー・バルボアのようでした。
「人のせいにするな。自分の人生は自分に責任がある。君は落ちても負けてもない。嫉妬と、怠け者なだけだ」
そのとおりです。
人はいつも、意味のない比較をしてしまいます。
何かと比べて自分が情けない、不幸であると思うことに意味はなく、むしろマイナスです。
ですので、人と比較せずに幸せだと感じられるものを見つけたほうが、人生で楽しい時間は長くなると思うのです。
幸せというのは、案外そばに落ちているのかもしれません。
社会人1年目のみなさんも、仕事を続けていけばきっと、挫折や敗北を味わうでしょう。
自分の過去や、周囲の人と、比較すれば、`落ちた`と感じることは多々あるのかもしれません。
それは当然です。人生はジェットコースターのようなものなのですから。
一生絶好調で笑いっぱなしの人生のどこがおもしろいのでしょうか。
2時間ドラマや映画で、常に主人公とヒロインが笑顔であれば、何の面白みもありません。
進研ゼミの宣伝漫画も、序盤は何もかもうまくいきませんが、進研ゼミを始めたことで、部活で活躍し、志望校に合格し、可愛い子と仲良くなるのです。
ジェットコースターを楽しもうではありませんか。
プライドから少し距離を置いて、ストイックさを忘れず、一歩一歩できることをしていくしかありません。
大丈夫。希望もあります。大切な人、相変わらず賑やかな友人、家族。
周囲には、かけがえのないみんながいるのですから。
自分の人生は、自分に責任があります。
現在の状態は、過去の自分が重ねてきた結果だと思うのです。
未来の自分が、「あのとき頑張ってくれたから、今はええ感じやわ、ありがとうな」と思えるようになる今を、過ごしていきたいですね。
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