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百物語 第一夜~第十夜

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百物語 第一夜から第十夜までをまとめたマガジンです。無料で読めます。
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記事一覧

百物語 第一夜

起きてからやけに残る夢がある。

百物語の夢もそうだった。目が覚めてもしばらくおびえていた。

俺はオカルトは好きだったし、怖い夢をみることは少なくなかったが、起きておびえていたのは初めてだった。

今朝みた百物語の夢は特別だった。

ひとつめに、語られた怪談の中に内容をちゃんと覚えているものがあるということだ。もちろん百話すべて覚えているわけではない。

ふたつめに百話目が語られた最後のオチがき

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百物語 第二夜

大学二年生の夏の初め、バイト終わりの夜のことです。

私はスマホに自分の実家の電話番号を登録していません。
番号を覚えていますし、紛失した時に怖いから登録の必要がないと思っていたからです。

バイト先のバックヤードで帰り支度をしながらスマホを見てみると、実家の番号から着信が残っていました。着信の会った時間は20時半あたり。ちょうど30分ほど前です。

私はバイト先を出て、駅へと向かう途中に実家へと

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百物語 第三夜

仕事で付き合いのある、ある営業の男の話だ。

久しぶりに会ったのは金曜の夜に騒がしい居酒屋。

向こうから飲みの誘いはめずらしいことだった。

乾杯をするなり男は「聞いてくれよ」とニヤニヤしながら話しはじめた。

最近心霊体験をしたらしく、もう中年に片足を突っ込んだ男にとって幽霊の話題はなかなか話す相手を選ぶらしい。オカルト好きな俺は、そういうわけで飲みに誘われたようだ。

会社の同僚と飲んだ帰り

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百物語 第四夜

私は就職するとすぐに縁もゆかりもない田舎の営業所へと配属された。

今とは違い携帯電話やインターネットがあったわけではなく、心細い日々をすごしていたのを今でも覚えている。

赴任中の私の孤独を紛らわしてくれていた唯一の楽しみは——これは誰に話しても共感はおろか笑われしまうのだが――、仕事帰り、帰宅する道中にある自動販売機だった。

街灯もまばらな薄暗い帰り道にそのジュースの自動販売機はあった。

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百物語 第五夜

那珂川の中流域にあった集落には龍神信仰があった。

気まぐれに凶暴な一面を見せる自然に対して恐れ崇め、信仰の対象とするのは世界中あらゆる場所であらゆる対象にあることで特に目新しいことではない。

その集落では洪水があると、その年に生まれた嬰児の中にいた龍神の遣いを見つけ出し、成人まで神子として決して飢えさせることのないよう大事に保護していたという。

龍神の遣いを探し出す方法は明快で、体のどこかに

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百物語 第六夜

同じ夢を見ることがあります。

小さな頃から決まって同じ夢で、中身はおおよそ変わらないのですが、自分の年齢が上がるにつれ、起床後の「解釈」という意味では、年々変化してきているように思います。

ですので、今からお話しすることは、あくまでも私の「現時点での」夢の内容ということになります。

その夢の中では、「偶然に繋がった扉」から来た「あちらの私」が、私に語りかけています。「あちらの」を、うまく説明

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百物語 第八夜

小さいおじさん、という都市伝説は多くの人が知っていると思う。

その名のとおり10センチから20センチ程度の大きさの中年男性が目撃されるというものだ。

この都市伝説をよくよく考えてみると疑問が浮かんでくる。

なぜおじさんなのか。

おばさんはいないのか、子供はいないのか、と。

この都市伝説が人口に膾炙する前、オカルト好きなら知っている程度の話として家に住み着く小人の家族というものがあった。

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百物語 第九夜

私が三年ぶりに帰省したときの話です。

大学から地元を離れそのまま東京で就職した私は、新幹線で二時間程度で帰省できる距離の地元ということがあってか、連休があっても帰省しないでいました。

三年ぶりに帰省したのは従兄弟の結婚式があるからです。久しぶりに見る故郷の風景はよくもわるくも変わらなくて、東京での仕事や生活をわすれてリラックスできました。

のんびりと実家で過ごし、私はまた東京に戻りました。

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百物語 第十夜

 この年になると、小学校時代の記憶などほとんど曖昧ですが、それでも、六年生の夏のことだけは今でもよく覚えています。

 気が違いそうに暑かった、あの夏。私の記憶は、母の叫び声から始まります。

「大変よ、ヤエコちゃんが狐に憑かれたと!」

 私は座卓に日記帳を広げ、その上に突っ伏しているところでした。

 夏休みの間、毎日の出来事をきちんとつけること。先生から厳しく言われていましたが、そうそういつ

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