百物語 第五夜

那珂川の中流域にあった集落には龍神信仰があった。

気まぐれに凶暴な一面を見せる自然に対して恐れ崇め、信仰の対象とするのは世界中あらゆる場所であらゆる対象にあることで特に目新しいことではない。

その集落では洪水があると、その年に生まれた嬰児の中にいた龍神の遣いを見つけ出し、成人まで神子として決して飢えさせることのないよう大事に保護していたという。

龍神の遣いを探し出す方法は明快で、体のどこかに龍神の形をした痣がある嬰児が遣いだという。

画像をさがしてみると最後の龍神の遣いだったものの痣の古い写真をみることができた。それがある形と似ていたのが気になった。

那珂川の上流域にある地域に残る河童の伝承。

それは有り体にいってしまえば河童とセックスをした女の顔に河童の形をした痣が現れるとったものだ。その伝承を詳しく調べれば不倫をしていた妻への報復として河童のような形に見える焼き印を顔に押したというものがわかる。

その焼き印は民族資料館に残っているが(詳しい解説は書いていなかった)、その形と龍神の遣いの痣の形は似ている。というか同じだと思える。

龍神の痣、というのはつまり洪水後に焼き韻で嬰児にやけどを負わせた、人の手によって作られたものなんじゃないのか、そういうふうに考えられる。

この話で面白いのはロールシャッハテストのように焼き印が龍神に見えるか河童に見えるか、同じ川沿いの直線距離ではたった100キロ程度しか離れていない集落で意味合いが異なることだ。

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