百物語 第二夜

大学二年生の夏の初め、バイト終わりの夜のことです。

私はスマホに自分の実家の電話番号を登録していません。
番号を覚えていますし、紛失した時に怖いから登録の必要がないと思っていたからです。

バイト先のバックヤードで帰り支度をしながらスマホを見てみると、実家の番号から着信が残っていました。着信の会った時間は20時半あたり。ちょうど30分ほど前です。

私はバイト先を出て、駅へと向かう途中に実家へと電話をかけ直しました。
すると

【…お客さまのおかけになった電話は現在使われておりません】

残っていた着信履歴から電話をかけ直したはずなので電話番号間違いはあるはずがありません。
万が一を思って着信履歴を見直してもそれは間違いなく実家の電話番号です。
次に私が代金を支払い忘れていて通信が止まっているのではないかと思いました。確かめるために友人に電話をかけたところ、当たり前につながりました。
あとその時の私に思いつく原因としては、実家が固定電話の料金を支払えずにいるのではないか、ということでした。
都内の私立の大学に入れてもらっており、裕福とは言えないまでもお金で困っているなんて想像さえしていないことだったので、私にぼんやりとした不安が浮かび上がってきました。

その時です。
実家から電話がかかってきました。
私はすぐさまとると、電話口の母親はのんびりとした口調で、明後日着で荷物を送った旨を伝えてきました。私はといえば電話が通じなかったことが気になって矢継ぎ早に先ほどの出来事を説明したのですが、母親は笑ってまるで取り合ってくれませんでした。

『いおりは本当に心配性ね。夜道なんだから明るい道を通って帰るのよ』

そうして電話は切られてしまいました。

私は何も考えられなくなってしまいました。
私の名前は、彩音です。

何分間、何十分間、私は何も考えられず、ただ突っ立っていました。
正気にもどった私は、実家の近くに住む親戚の叔父に電話をかけ、実家に知らない人がいる、と連絡をいれました。私が冗談を言っているのではないとわかった叔父はすぐに実家へ向かってくれたといいます。
しかし実家には私の家族が当たり前にいたそうです。

あの日の電話の不通はなんだったのか…、そしていおりとは誰なのか…。
私は早く忘れたくて、家族にこの出来事を聞き出そうとは思っていません。

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