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with foods 誰かと、 ときにはひとりで。

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思い出の中には食べ物がある。 そんないくつかの文章を書き散らかしています。
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2014年4月の記事一覧

カレーライス。

わたしは3歳だった。

季節はいつだろう? 

トラックの荷台に乗っていても寒くなかったのだから、

過ごしやすい初夏や秋だったのかもしれない。

いちばん古い記憶は、引っ越しの日のこと。

わたしはトラックの荷台に乗って、お昼に食べるカレーの鍋を抱えていた。

もちろん子どもだったのだから、抱えるというよりも、見守っている、

ただそばに座っていただけだろうけれど。

その使命を与えられたことが

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深夜のお寿司。

「お父さんが、お寿司買ってきたわよ〜」

母親が1階の階段の下から呼ぶ声がする。

もうパジャマにも着替えて、歯も磨いてベッドにも入っている時間。

子どもは寝なきゃいけない夜の時間。でも、”お寿司”は特別。

父親は電車で約1時間の東京に通うサラリーマン。

平日の夜は、夕食を一緒に食べるということがほとんどなかったし、

帰ってくる頃には、子ども達は寝てしまっていた。

ときどき、父親は飲んだ

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焼きそば・スパゲッティ・チャーハン。

それは土曜日のお昼ごはんのお決まりメニュー。

午前中で学校が終わって家に帰ると、まずはキッチンに行く。

和室のほうで寝ているのか、姿が見えない母親の

「お昼あるから、自分で食べて」という声が、タイミングよくかかる。

「は〜い」と返事して、白い冷蔵庫の扉を開けて、

まずは麦茶やカルピスを取り出して、コップについで飲む。

コンロのいちばん火力の高い五徳のところには、

大きな中華鍋が置かれ

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ゾウのポットのチョコレートソース。

その土地に呼ばれているのかもしれないと思うことがある。

自分が好きで、何度も通う場所もあるけれど、

なぜか知らないけれど、行く機会がある場所がある。

わたしにとってはインドネシアのバリ島がそんな感じだった。

いちばん最初に行ったのは仲の良い友人との旅行。

その後も別の友人と旅行で行った。

とくにすごく好きというわけでもないけれど、

「休みたいね」「どこに行く?」「なんか海のあるとこ」

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パイナップルのせハンバーグ。

もうリタイアしてしまったが、父親は船舶会社に勤めていた。

とはいっても、タンカーや貨物船を扱う仕事で、

客船と違って華やかな感じではなかった。

海外との取引もあり、ときどき出張に行くと

ぬいぐるみや文房具、チョコレートなどを買ってきてくれた。

まだ小学校、低学年のときだったと思う、

横浜のドックに、父の仕事関係の船が入り、

しばらく停泊しているとのことで、

その船長さんに招待されて

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敵わないラーメン。

わたしの記憶の中には、ほとんどないのだけれど、

住んでいた町の駅前には、昔、デパートがあった。

兄はそこの上のレストランでラーメンを食べるのが好きだったらしい。

親戚が集まったときなどにも、よくその話が出て、

「いつも、必ずラーメンを食べていた」

「ラーメンが大好きなしげちゃん」という感じで、

ラーメン=兄の好物として浸透していた。

家の食品のストック棚には、

しょうゆ味、味噌味、

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バナナパフェ。

サンドイッチやパフェなど、

単品で食べるよりも何種類かの素材を組み合わせることで、

感動級の美味しさになる食べ物がある。

そして、これじゃなきゃ! という黄金の組み合わせがある。

例えばサンドイッチ。

白い食パンにハム、レタスじゃ、ちょっとあたり前すぎ。

いやいや、美味しいけれどね。

ベーグルなら、やっぱりクリームチーズとスモークサーモン。

甘い系でいくなら、クリームチーズとブルー

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機内食は美しく。

もう、いい大人なのに、

情けないことに食べるのが下手。

長年の付き合いの友人にもずっと怒られているのだけれど、

お箸がちゃんと持てない。

煮豆はつまめます。

お茶碗についたごはん粒ひとつまで食べられます。

焼き魚をキレイに食べることもできます。

でも、微妙に持ち方が正しくない。

そして、よくこぼす。

ミートソース、カレーうどん、気がつけば服に点々のシミが…。

ということはよくあ

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風月の想い出「ミートたっぷりね」

高校を卒業して、武蔵野のはずれにある美術大学に進学した。

立川と国分寺、そして東大和市の境にあり、住所は小平市だった。

どの市の中心駅からも遠く、いちばん最寄りとされていたのは、

西武国分寺線という黄色い車両のローカルな路線の駅だったけれど、

下車後、さらに玉川上水沿いにひたすら歩くという道のりだった。

太宰治が入水できるほどの水は流れておらず、

湿った堀があるだけの玉川上水だったけれ

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おいなりさん裏バージョン。

何人かで集まって食べ物の話をしていると、

同じ食べ物でも「我が家ではこうだった」「うちの地方はこういう味」

というような話になることがある。

今はネットによって、その土地に住むひとの話もすぐに聞くことがでるし、

宅配便で簡単に取り寄せができるので、

独自の食文化について知る機会も増えていると思う。

地方なりの特色が出ている食べ物といえば、やっぱりお雑煮。

おすまし、白味噌、丸餅、四角

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アンディ・ラウのうどん。

映画を観るのが好き。

できれば映画館で。そして年間50本が目標なのだけれど、

なかなか到達できない。映画館で観る映画と、

家でDVDやダウンロードして見る映画は、別なものだと思っている。

どっちがいいとか悪いとかの話ではなく。

映画館で映画を観る。真っ暗な空間で約2時間、

映画の世界に埋没する。その時間が好きなのだ。

スクリーンの中で繰り広げられるさまざまな物語。

遠い過去、まだ見

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恋女房とおでん。

落語の中にはよく食べ物が出てくる。

人間の営みや人と人との関わり合いを面白おかしく、

ときには悲しく、せつなく語るのが落語だから、

人が生きていく上で欠かせない「食べ物」が出てくるのは、

当然といえば当然なのかもしれない。

有名なところなら「時そば」。たった一文のお金をごまかすための、

壮大なおべんちゃらの噺だ。提灯をほめ、器や箸をほめ、

つゆ、そばの太さ、中に入っているちくわまでほ

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青海川駅で笹団子。

青海川駅で笹団子。

画像のデータには2011年7月とある。

土曜日だった。いつものようにピラティスに行ってお昼を食べて、
さて、どうしようかな? と思った。

Google のMapを見て、この時間でどこまで行けるかな?
なんて考える。
あ、新潟なら行けるかも。
日本海に沈む夕陽に間に合うかもしれない。

家には帰らずに、そのまま東京駅に行って新幹線の切符を買う。
新幹線の中で、iPhoneからネットで駅前のビジネ

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食器棚の大きな茶碗。

川沿いにカーブしたアスファルトの道路。

カーブの先に水色のバスが小さく現れ、だんだんと近づいてくる。

そして、コンクリートの橋のたもとにあるバス停に止まる。

乗車は中扉から。ステップを上がると少し混んでいて空いている席はない。

わたしの乗るバス停は、始発の駅と終点の駅の

ちょうど中間くらいにあるので、それはいつものこと。

慣れている。ぎゅうぎゅう詰めじゃないだけマシ。

銀色の手すりに

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