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青海川駅で笹団子。

画像のデータには2011年7月とある。

土曜日だった。いつものようにピラティスに行ってお昼を食べて、
さて、どうしようかな? と思った。

Google のMapを見て、この時間でどこまで行けるかな?
なんて考える。
あ、新潟なら行けるかも。
日本海に沈む夕陽に間に合うかもしれない。

家には帰らずに、そのまま東京駅に行って新幹線の切符を買う。
新幹線の中で、iPhoneからネットで駅前のビジネスホテルをとる。
足元はビーサン。
スキンケア化粧品の入ったポーチは、
いつでも銭湯に行けるように持ち歩いているので問題なし。
何か足りなくてもコンビニで用は足りる。

何時頃だっただろう。新潟に着くと太陽は沈みかけていた。
駅の地図を確認し、たぶんこっちという方向に向かって、
少し早歩きで海を目指す。
駅から海は意外と近い。 オレンジ色の日本海の夕陽。間に合った。 
陽が沈むと空はどんどん藍色から黒に変わっていき、
すっぽりと深い闇に包まれた。

夕飯は駅のほうに戻り、目についた日本食のお店に入った。
こういうときは、あまり検索する気にはなれない。
行き当たりばったり主義。
本当は日本酒を出す古い居酒屋に入ってみたかったけれど、 
ひとりだとなかなか勇気がでない。まだまだ修行が足りない。

さすが、新潟、白いごはんがとても美味しくて、
明日の朝食用にと思い「おにぎりって持って帰れますか?」と聞く。
「食中毒などの問題があるからできないのです」と、
着物を着た配膳の女性にすまなそうに言われた。残念。

「新潟の美味しいお米のおにぎりが食べたい」欲は、
翌朝まで持続し、iPhoneでおにぎりのお店を検索する。
こういうところは無駄に執念深いのだ。

新潟駅からいくつか電車に乗った駅の近くに、おにぎり屋さんをみつける。
そばには学校がある。通学の生徒も買いにくるお店じゃないかな?
きっと美味しいはず。そして日曜日も営業している。

駅に着くと、日曜日は営業時間が遅いらしく、 まだお店は開いてなかった。 がらんとして他にはなんにもない小さなロータリー。

電車が行ってしまうとひとの気配もない。
ちょっとぶらりとしたけれど喫茶店などはない。
仕方ないのでポツンと駅前にあったベンチで読書をする。
よく考えると怪しい…と思う。

時間になりお店が開く。
ガラスケースには、ちょっと大ぶりの海苔の巻いた三角のおにぎりが並ぶ。あれこれ迷って2個買う。
迷った割には、具は忘れてしまった。
おにぎりのほかにも、和菓子もあって美味しそうだった。

さて、とその駅から今度は歩いて海を目指す。
途中のコンビニでお茶を買う。 学校の横の道を抜ける。
道路から校門までは緩やかなスロープになっている。
黄みがかったベージュの校庭と 四角いコンクリートの校舎の風景。
日曜日でおまけに夏休み中のはずと思うけれど、
部活の練習なのか、体育館から生徒たちの声が響く。

懐かしいけれど、もう戻れない遠い場所。

視界が開けて海が広がる。
少し曇り空。海もグリーンの混じったグレー。
日本海だなぁと思う。
岸壁のコンクリートの縁に座る。
高さがあり、下にはテトラポッドがごろごろと置かれ、
サンダルの足がぶらぶらする。 ちょっと日に焼けたかもしれない。

透明なプラスチックケースにかかった輪ゴムを外す。
ぱらんと軽い音がして、ふたが開く。 ひとつおにぎりを取り出して食べる。念願の新潟のおにぎり。 ひと粒ひと粒がしっかりと主張するように、
お米の味がする。 海苔もしっとり。塩加減もちょうどいい。

海水浴をする場所ではないのか、
釣り道具を持ったおじさんがときどき通るくらいで、 
あまりひとの姿はない。 目の前には見渡す限りの海。

波と風の音。 曇り空がだんだんと晴れてきて、日差しが強くなってくる。
季節は夏。 何も言うことはなない。
おにぎりをもうひとつ食べる。なんでもない時間を味わう。

食べ終わってもまだお昼前。夜には東京に戻りたいけれどまだ時間はある。

そして目指したのは「青海川」の駅。
日本でいちばん海の近くにあるといわれている駅。
ホームの向こうがすぐに日本海なのだ。
その風景を見てみたい。

新潟駅まで戻って列車に乗る。
長岡で信越本線に乗り換え。時間つぶしに駅の売店に行ったら、
笹団子が売っていた。笹団子好物! それもバラで売っている。
笹団子は美味しいけれど、売っている単位が多すぎでいつも困る。
ひとりだと、さすがに5個や6個でも多い。
2個買って白いビニール袋に入れてもらう。

日本海を目指して列車は走る。海に出ると今度は海岸線を走る。
日本海側の地図を頭の中で浮かべる。
青海川の駅は本当に海の駅だった。
ホームと平行に並ぶ、まっすぐな水平線。
柵がなければもっといいのになと思うけれど、まぁそれは身勝手な言い分。雨の日や、雪の日、季節によって、 この海はどんな姿を見せるのだろうか?

駅の時刻表を見て、次の列車が上りも下りも
しばらくこないことに気がつく。 たぶん2時間はあったように思う。
しまった…という気分。 帰りの新幹線に間に合うか少し不安になる。
恵比寿で友人と夜ごはんを食べる約束をしていたから。

知らない場所にたったひとりでいて、
でも、数時間後には東京に戻って、
誰かと一緒に笑っている。なんだか不思議な気がした。
まったく遠い世界のことのように思える。

周囲を歩いてみたけれど、民家がちらほらあるくらい。
むせかえるような濃い緑のにおい。土のにおい。海のにおい。
日向のアスファルトのにおい。 じりじりと日焼けしていく肌のにおい。
それらがすべて混じり合うと、 小さい頃に親しんだ夏休みのにおいになる。

駅に戻り待合のベンチに座る。
日陰になっているので少し涼しい。
無人駅。ときどきバイクやクルマで来たひとが、
「日本一海の近い駅」の写真を撮っていく。
駅のホームでは旅の途中らしい男性が、
リュックを枕にしてごろりと日向ぼっこするように寝っ転がっていた。
その気持ちはちょっとわかる。

することもないので、バッグから本を取り出して読む。
笹団子のことを思い出して、袋からガサガサと出す。
ころんと太った大きめのピーナツみたいな形。
キャンディみたいでもあり、ちょっと可愛い。

真ん中と両端を結んだ笹の細いひもを取り、お団子を包む葉をむく。
まだ、ちゃんと柔らかい。 もっちりとした感触。
笹の香りとよもぎの深い味わい、 そして、しっとりとしたあんこの甘さ。

自分史上最高に美味しい笹団子だと思った。

2011・7月 日本海。






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