焼きそば・スパゲッティ・チャーハン。

それは土曜日のお昼ごはんのお決まりメニュー。

午前中で学校が終わって家に帰ると、まずはキッチンに行く。

和室のほうで寝ているのか、姿が見えない母親の

「お昼あるから、自分で食べて」という声が、タイミングよくかかる。

「は〜い」と返事して、白い冷蔵庫の扉を開けて、

まずは麦茶やカルピスを取り出して、コップについで飲む。

コンロのいちばん火力の高い五徳のところには、

大きな中華鍋が置かれている。中に入っているのは、

兄姉3人分の山盛りになったソース焼きそば、

スパゲッティナポリタン、チャーハンのどれか。

土曜日のお昼ごはんは、ほぼこの3品のローテーション。

ときどきチキンライスやスパゲッティミートソースのときもあって、

ミートソースの場合は、ひき肉と玉ねぎのみじん切りたっぷりの

ソースが入った鍋がコンロに置いてあり、

自分でスパゲッティを茹でてから、おたまでソースをよそってかけた。

まだアルデンテなんて言葉を知らない頃。

ただし、夏休みは別メニューで、ほとんど毎日そうめん。

近所のまーちゃんのお母さんが小豆島出身だったことが縁で、

そうめんは小豆島から取り寄せていた。

でも、美味しいそうめんでも毎日、毎日ではさすがに飽きてしまう。

「今日もそうめんかぁ」というのが子どもの正直な気持ち。

だから、大人になるまで、そうめんの美味しさを忘れていた。

いや、気がついていなかったかもしれない。

食器棚の扉を開け、大きめのお皿を出してきて、

鍋から焼きそばやスパゲッティ、チャーハンをよそう。

引き出しからお箸や、スプーン、フォークを出す。

ちょっと冷めているけれど気にしない。

リビングのソファーに座って、テレビを点けて、

具だくさんのそれらのごはんを食べる。

普段なら「だらしない」と怒られそうだけれど、

母親の姿は見えず、土曜日の午後は空気もゆるやか。

姉や兄の姿もない。先に帰ってきていて2階の部屋にいるのか、

まだ帰ってきていないのか。

料理がたっぷり残っていた鍋からすると、

まだ帰ってきていないのかもしれない。

開けっ放しの窓から風が入り、波のようにレースのカーテンを揺らす。

満腹になってソファーにひっくり返り、マンガや本を読む。

テレビの音を聞きながらいつのまにかうとうと。

ちょっと昼寝をしたあとは、近所のお友達の家に行ったり、探検したり。

夕飯の時間までは、まだまだたっぷり。

子どもの時間は、なぜ、あんなに長かったのだろう。




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