25.趣味の話⑭ 読書(10)
はじめに
はい、こぼば野史です。
また一大シリーズ、「趣味の話 読書」篇である。
前回のこのシリーズは以下。
今回は新書のお話である。
1.今回紹介する図書
今回、読了し紹介する図書は、井上文則『シルクロードとローマ帝国の興亡』(文藝春秋、2021年)である。
新しく購入した図書なので、証拠写真がない。
まあ、それでもこの後を読み、持っているのだと信じてくれ。
2.〈著者紹介〉井上文則とは
この図書の巻末には以下のように載る。
井上文則(いのうえふみのり)
1973年京都府生まれ。早稲田大学文学学術院教授。京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了。京都大学文学博士(文学)。専攻は古代ローマ史。著書に『軍人皇帝時代の研究 ローマ帝国の変容』(岩波書店)、『軍人皇帝のローマ 変貌する元老院と帝国の衰亡』(講談社選書メチエ)、『天を相手にする 評伝宮崎市定』(国書刊行会)がある。
3.『シルクロードとローマ帝国の興亡』とは
文藝春秋の公式サイトに載る作品紹介を引用しよう。
ローマ帝国はなぜ衰亡したのか?
世界史上最も多くの関心を集めてきたテーマのひとつだが、その鍵を握っていたのは「シルクロード」だった!
シルクロードは、ユーラシア大陸の「中央部」バビロニア地域、インドから、東西に延びた交易路であり、陸路だけではなく、東西の海を結ぶ、経済と文明の大動脈だった。
その交易で得られた利益が、帝国の浮沈を左右する。
経済にスポットをあてた、ダイナミックな新しい世界史の挑戦!
担当編集者からは、
ローマ帝国はなぜ衰亡したのか? これは世界史上最も多くの関心を集めてきたテーマのひとつでしょう。本書の著者は「3世紀の危機」と呼ばれる軍人皇帝時代の専門家ですが、ローマの興亡をみるためには、広くユーラシア全体を俯瞰する必要があると説きます。そして、崩壊の鍵を握っているのが、古代経済の大動脈「シルクロード」だったと論じます。経済にスポットをあてた、ダイナミックな新しい世界史の挑戦です。
と評されている。
1章でも紹介した通り、2021年8月に発売された図書なので、ローマ帝国滅亡及び東西交流史の最新版と言ってもいいだろう。
序章、本章が5つ、終章の計7章で構成されており、私は1日1章のペースで読み、1週間で読み終えた。
4.要約と感想(含ネタバレ)
序章から平易で読みやすかった。世界史を学んでいない人間でもわかりやすいように、随所に概説を附しているので、誰でも読めるのではないだろうか。
序章
この図書の概観、地図を用いて同時代の地理などを確認する。
世界史を学んだ人間からすると、東西交流史の懐かしさが沸き上がると思う。一方で、学んでいない人間からすると、歴史の奥深さがわかると思う。
1章
ローマ帝国の交易に着眼点を置く。中央ユーラシア大陸との輸出入品の詳細が述べられている。ここに関しては、専門的な話なので、大学などでここの研究をしている人間以外は、目から鱗が落ちるのではないだろうか。
2章
ローマ帝国の繁栄を経済と社会に注目して描く。通貨の単位などは小難しい印象を持ったが、これに関しては仕方がないと思われる。支配層と被支配層との関係性、さらにはシルクロード交易によるローマ帝国経済の莫大な利益、「関税」のギミックを詳しく学ぶことができた。
3章
シルクロードは、ローマを起点にした場合、海路も陸路も現中華人民共和国の西安(長安)や洛陽を終点とする本線が周知されているだろう(~紀元後2世紀の世界の話なので、日本までシルクロードが伸びている話はない)。そして、世界史の参考書を開いたことがある人間ならば、多くの支線があったことも知っているだろう。
この本線及び支線に当たる海路、地中海、エジプト、サハラ砂漠東端、アラビア半島のルートの重要性を、皇帝――特にアウグスティヌスとトラヤヌス――の政策に注目して述べている。
感想としては、『後漢書』に載っている「大秦王安敦」は五賢帝の1人、マルクス=アウレリウス=アントニヌスで確定しているのは衝撃を受けた。
シルクロード全図より、青線が海路(シー・ロード)(地図で探るシルクロード-シルクロードツアー(http://dsr.nii.ac.jp/geography/)より2021年9月3日に引用)
4章
シルクロード交易の衰退について、ユーラシア大陸全体のレベルで論じている。後漢王朝の滅亡、クシャーナ朝の衰退、パルティア王国の滅亡、ローマ帝国の内乱、ユーラシア大陸――ここでは特にローマ帝国――の疫病の流行という事件が、ほぼ同時代に起きたことを詳細に紹介する。そして、中央アジアでは、クシャーナ朝とパルティア王国の減退、ササン朝ペルシアの台頭と現エチオピアからのアクスム王国の南アラビア進出による、シルクロード本線である紅海ルート(上記地図のシー・ルート)の打撃を解明し、さらに、軍人皇帝時代のローマの経済(生産品の需要と供給)にも注目して論じる。
各々の地域や歴史を俯瞰的に見るというのは、世界史ではあまりできないことだと思うので、読んでいて非常に面白かった。特に、ローマ帝国、ササン朝ペルシア、アクスム王国という三者のせめぎ合い、ローマ人商人の自発的紅海ルートからの撤退、輸入品の生産地との関係など、多くの事象が複雑に絡み合ってシルクロード交易の衰退、ひいてはローマ帝国の弱体化に繋がっていることがわかった。
5章
ローマ帝国の東西分裂の詳細をローマ帝国の内外両面から論じる。ローマ帝国後期の皇帝と言えば、カラカラ帝、ディオクレティアヌス帝、コンスタンティヌス帝、テオドシウス帝がおり、おそらくポジティブな側面での評価が有名だろう。しかし、これらの側面の裏にはただならぬ理由があったらしい。
例えば、カラカラ帝の帝国内の全自由人にローマ市民権を与えた「アントニヌス勅令」、一見ポジティブな事象だが、市民権を与えるということは、税収入の増加が見込めるということである。この勅令を出さねばならぬほど、帝国の収入が危機に瀕していたということを物語っている。なぜそこまで収入が危機に瀕していたか、その発端がシルクロード交易にあるのだ。
世界文化遺産「ローマ歴史地区、教皇領とサン・パオロ・フオーリ・レ・ムーラ大聖堂」に含まれるカラカラ浴場(世界遺産オンラインガイドより2021年9月4日引用)
終章
結果、シルクロード交易とローマ帝国の関係性はどうだったのか、簡潔に論じている。シルクロード交易の衰退がローマ帝国(西ローマ帝国)の滅亡に繋がったのである。これには内憂外患と言える現象が複雑に絡み合って引き起こされたという理由がある。また、対象に東ローマ帝国(ビザンツ帝国)が以降1000年も命脈を保った理由も附されている。これもまた、シルクロード交易を的確に利用した背景がある。
おわりに
前章は、感想と言っていたが、ほとんど感想を交えずに書いてしまった。いやはや、申し訳ない。
しかし、総じて、読みやすく、新しい学説も語られていたのでとても興味深いものであった。ローマ帝国は、ヨーロッパ史で最初に貨幣経済が浸透した国でもある(らしい)ので、財政の話もしていたが、シルクロード交易と合わせることで、立体的に考えることができた。
そして、現代との比較なども考えさせられた。
これだから、世界史は面白いと、改めて感じた。
最後が少し乱雑になったが、書くには満足したので、今回はここまで。
頓首頓首。
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