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2023年8月の記事一覧
三島由紀夫・林房雄の「対話・日本人論」をどう読むか① 鴎外と漱石
これまで私は乃木大将夫妻のいわゆる「殉死」について、夏目漱石と森鴎外という明治を代表する文学者二人だけが正しく理解してきたという趣旨のことを書き続けてきた。
しかしこれほどシンプルな話が絶対に誰にも通じないことに呆れていた。
・『こころ』は軍旗が奪われていたことにフォーカスしているが、みなが読まされているのは「遺書」であり、乃木の遺書は妻静子は生かされる前提で書かれている。
・鴎外の殉死
三島由紀夫から見た夏目漱石の読者
三島由紀夫、安部公房だけではない。これまで見てきたように谷崎潤一郎も漱石の評価は低いし、太宰治に関しては「俗中の俗」と漱石を切り捨てている。三島由紀夫のこの発言も、夏目漱石というすでにこの世にない作家の死してなお消えない過剰な人気に対する反発の表れだ。
しかも芥川龍之介までスタイルは鴎外に近接し、漱石文学から何を継承したのかということさえ曖昧なので困る。
この三島由紀夫と安倍公房の対談は
芥川龍之介の『文章と言葉と』をどう読むか③ 幻惑されている
紛れもなく夏目漱石はこう述べている。後に漱石は真・善・美、
などとも言い出すが『文学論』の中ではキーになる概念は明らかに「幻惑」である。一方『文学論』の中で追い求められているのはそもそもぼんやりしたところから次第に明瞭になり、また次第に曖昧になる人間の意識をどう捉えていくかという問題でもある。「明瞭」の文字は作中70回現れ、現実のいわく言い難いものという性質、「捉えがたさ」こそが研究されてい
芥川龍之介の『讀書の態度』をどう読むか① 腰を据えねばならない
以前にも書いたように、夏目漱石の『こころ』に関する読書メーターの感想は日々全て読んでいる。それがどういう読み方をされていて、何が欠けているのかをチェックするためだ。しかし本音を言えば万が一にも新たな発見のヒント、良い意味での驚きを期待しての作業であったが、現実的には呆れてしまうことが多い。
この方は高校の国語の先生のようだ。先生なのに冒頭のすがすがしさの意味に辿り着けず、暗い話として読んでい
夏目漱石『坑夫』の時間
夏目漱石の時間
夏目漱石は晩年、時間は本来分割できないはずのものを分節化することによって生じたものだとするようなアンリ・ベルクソンの思想にふれ、大いに関心を持つていたことはよく知られています。これは元々漱石が時間というものをいわゆるニュートン時間のようなものとして捉えていなかったからで、その作品はそもそも『倫敦塔』あたりからA系列とB系列の出来事を比較し、時間の非実在性を論じたジョン・マクタガ
夏目漱石『吾輩は猫である』の時間
昨日書いたこの記事はまだ誰にも理解されていないようです。
少々難しいんですかね。
それで今日は書かれている現在と書いている現在の関係を別の作品でも見て行きます。まあこの場合は語りですけど。
『吾輩は猫である』の時間
夏目漱石作品における時間の進行というのは、『吾輩は猫である』からして複雑なもので、
このような単純過去から刻々未来に進行していく時間のなかにはないわけです。