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2023年映画感想No.51:告白、あるいは完璧な弁護(原題『Confession』) ※ネタバレあり

しっかりとした脚本のミステリー映画

シネスイッチ銀座にて鑑賞。スペインのミステリー映画『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』のリメイクということを感想書いているときに知った。もちろんリメイク元未見。
久しぶりにバチバチのミステリー映画でとても楽しんだ。どのような事件なのかという風呂敷を広げる序盤、それまで見えていた物語を二転三転させる中盤、回収されていない要素をしっかり使い切る終盤ととても脚本の完成度が高い。
常に今何を争っているのかという論点がわかりやすいし、それを観客の予想より少しだけ早く解決していくテンポの良さが良かった。見失うほど早すぎもしないし、見え透いているほど遅すぎもしない、予想できそうでできないくらいを絶妙にリードしてくれる語り口に引き込まれる作品だった。

「何が本当なのか」を疑わせる丁寧な作劇

まず状況として証拠不十分で釈放されている殺人事件の容疑者の男が再逮捕までのわずかな期間に弁護士に無罪だと相談する、というシチュエーションが事件の状況を色々な方向から疑わせるセッティングで上手い。「本当は何があったのか」について観客の興味を向かわせる導入になっているし、そこから新しい事件が明らかになることで語り部である容疑者のミンホの信用できなさが浮かび上がるような展開になっていく。
「ミンホは実は被害者なのではないか」という元の事件に対してはっきり加害者側にいる別の事件が出てくることで見え方が揺さぶられるのだけど、不倫がバレるのを避けるために交通事故を隠蔽する一連の流れが独立した場面としてもめちゃめちゃサスペンスフルなのが映画を面白くしている。
バレるのバレないのサスペンスの質が一々高くてしっかりハラハラするし、「目撃者がいた」という補助線が事前に引かれていることで「第三者が出てくる場面に関しては嘘がつけない」という「どこまでが本当にあった出来事なのか」という後の展開に効いてくる重要な線引きを自然に行っているのも上手い。

次々と見え方が変わる物語

隠蔽事件の方で明らかになる事実が元の事件に別の角度を作り出していく展開も面白かった。ちゃんと辻褄が合うので「本当か?」と内心疑いながらもその時点では納得させられるロジカルな描写になっているのが素晴らしい。
弁護士のヤン・シネのやり方ももはやミンホをそもそも全く信用していない感じになってくるのだけど、それが何故なのかがアッと驚く反転で明らかになる展開も鮮やかで良かった。田舎の車修理工の奥さんが敏腕弁護士を装うのは流石に無理がある気もするのだけど、普通の人が普通じゃないレベルの計画的犯行に及ぶのは極めてミステリーっぽい外連味だとも思うし、個人的にはそのくらいこの人は切実なんだと捉えられることも含めて面白いから別にいいかとなる範囲だった。

論点の明快さと伏線回収の丁寧さ

あまり一つの論点でミステリーを引っ張らずに「なぜ?」っていう疑問に対して答えを明らかにするテンポが非常に絶妙で良かったと思う。ミンホが明らかに自分有利な証言を後出しする「なぜ?」からシネが真相に異様にこだわることへの「なぜ?」に関わるトリックがあり、そこからシネがなぜそこまでするのかの動機に関わる謎の話になっていく、というように物語の論点を整理していく手際が素晴らしい。
シネが弁護のサインをしたのを確かめてからめちゃめちゃ重要な事実をミンホが話し出すところとかすごい凶悪な展開なのだけど、「こんなヤバい真相だから前任の顧問弁護士はとっとと誰かにこの事件引き継ぎたかったのか」としっかり伏線回収的な描き方として成立しているのもポイント高し。
ミンホが黒だと確定するとちゃんとその構図を活かしたサスペンスをやってくれるし、映画としてどんどん移り変わっていく面白い状況にグイグイ見せられる。急いで帰ろうとしたシネが実は別人だと分かっているミンホに引き止められて泳がされる時間がやたらじっくり引き伸ばされるところとかミンホの性格悪さが出てて笑っちゃうくらい怖い。

「ちゃんと面白いジャンル映画」の満足感

ラストもちゃんと映画の冒頭で印象に残っていた情報が伏線になっていたりしっかり行き届いた描き方になっていてつくづく感心する。
湖の氷が割られる場面が絵的にリッチであまり観たことない面白い演出なのだけど、同時にそれが「秘密が明らかになる」ことの象徴的演出にもなっていて見事。全体的にかっこいい見せ方が沢山出てくる映画で、そういった演出のキレの良さも映画の格式を上げているように感じる。
完璧に決着がついた瞬間に切れ味鋭く映画が終わるという過不足無し完パケ脚本のミステリー映画で、「普通に良い映画」よりももはや珍しい「ちゃんと面白いジャンル映画」で大変満足感の高い一作だった。

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