記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

2023年映画感想No.60:ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE(原題『Mission: Impossible - Dead Reckoning Part One』) ※ネタバレあり

トム・クルーズが挑み続ける前時代的な戦い

109シネマズ川崎にて吹き替え版鑑賞。
世界中のデジタルシステムを支配できるAIの実権を巡る攻防なのに実際奪い合うのはブツとしての鍵というめちゃめちゃアナログな物語。『トップガン・マーベリック』に引き続きデジタル時代の主題に対して相も変わらず「生身のアクションでしか出来ない映画の良さがあるんじゃ!」と前時代的な戦いを挑むトム・クルーズがいる。
マクガフィンとなる鍵に関してはそもそも本物なの?本当にこの鍵じゃなきゃダメなの?と結構初歩的な疑問を感じながら観ていたのだけど、当事者たちは至って真面目に唯一の解決法としてその鍵を取ったり取られたりしているので多分まあそれしかないんだろうなと思うことにした。
頭はあまり使わないというか基本的には計画の練り込み不足をその場の機転や頑張りでなんとかかんとか乗り越えていく展開ばかりで、大体は荒唐無稽なアクションをふんだんに盛り込んだ場面構成で面白くしてしまおうという極めてアクション至上主義的な作品。何ならスマートな計画より無茶苦茶なアクションの方が強い、という論理で成り立っている世界と言っても良い。

もはや面白さより心配が勝つアクションシーン

基本的には不測の事態を火事場の馬鹿力的な頑張りでなんとかかんとか乗り越えていくような場面しかない。何一つ上手くいかないしずっと「やるしかねー!!」的な事をやってる。そのギリギリの状況の回避がスラップスティックコメディ的で面白い。
クライマックスはいつ死んでもおかしくない級のアクションシーンばかりでもはや場面としてのハラハラより生身のアクションとして「人間が本当にやってる」ことから来るハラハラの方を強く感じてしまった。「面白い」より「心配」が勝つということが面白いし、トム・クルーズは危険なアクションに取り憑かれてるんじゃないかと思うくらいもはやそこまでやる意味がわからないレベルの場面ばかりが続く。

雑な展開を補って余りあるアクション

「主人公たちの作戦が計算通りにならない」という展開のロジックはもはや無茶苦茶で、そもそも作戦自体が「時間が無いから手を動かせ!どうするかはやりながら考える!」みたいな無理がある内容なので、すぐ破綻するし破綻したら結構致命的な状況になる。登場人物もすぐに「どうすればいいか考えろ!」とか言い出す始末で、もはや脚本自体を今考えてるのか?と思ってしまう部分すらある。
基本的には相手の方が時間かけて練られた盤石なプランを持っているのでそれによって主人公側の付け焼き刃っぷりもより際立つ。変装マシンが壊れたり、乗ろうとした電車に乗れなかったり、後でアクション的見せ場をやるために状況を狂わせる雑な理屈を無茶苦茶すごいアクションで「プラスマイナスで言うとプラス」みたいに埋め合わせていくストロングスタイルな脚本。

ヒロインキャラ達のアバウトな扱い

ヘイリー・アトウェル演じるグレースが物語上結構重要な役割になるのだけど、本来この映画の物語にはあまり関係ない立場の人だし、特に本人の中に積極的に関わる動機もないのだけどあれよあれよとヒロイン的立場にまつりあげられるのがすごい不思議なバランスだった。
そもそも冒頭の作戦は鍵を揃えるのも、本物か確認するのも、その鍵がどこで使うものかの情報を得るのも全部主人公たちが能動的にどうにもできない時点で作戦にかなり無理があると思うのだけど、さらにたまたまそこに絡んできた信用できない女性に協力してもらって何とかしようとするのはあまりに自分たちに都合良く考えすぎじゃないのかと思う。
途中で本作の悪役にあたるイーサイ・モラレス演じるガブリエルからレベッカ・ファーガソン演じるイルサかグレースかを選べとか言われるのだけどシリーズにおける役の重みが違いすぎないかと思うし、結果としてグレースを守ってイルサが死んでしまうわけだけど、あまりその展開がドラマとして重みを持ってこないどころかクライマックスではイーサンとグレースが男女として接近するような内容にすらなっていて、イルサの愛の無い扱いは何とかならんかったのかと思う。そもそもイルサが死ぬ場面もイーサンがイルサかグレースかを選んだ結果として起きる出来事には全然なってないと思うので、そこもこの展開の必然を著しく欠いている。あまりに彼女の死が軽く扱われるので死んでないのではとすら思える。
シリーズ3作分の関係値と取って代わる時点で結構無理があるのに、この作品内でのグレースとイーサンの関係性の描き込み自体もあんまり上手くいってないのでますますグレースの何が良いのかよくわからない。

ご都合主義のために何がしたいのかよくわからなくなるキャラクター

ポム・クレメンティエフはガーディアンズシリーズとは全然違うトーンの殺し屋役を好演していたのだけど、ガブリエルが彼女を裏切る展開もそれまで全くそんなことを予感させる関係に見えなかったのですごく唐突に感じたし、じゃあそんな重要な会話聞かせるなよと思ってしまった。案の定その全てが裏目に出てイーサンに重要な情報が渡ってしまうのでガブリエルが何したいのかよくわからなかった。イルサの件といいきちんとトドメを刺さないのも問題だと思う。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?