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2023年映画感想No.77:シアター・キャンプ(原題『Theater Camp』) ※ネタバレあり

話の構成、ドラマの描き込みともに弱い群像劇

チネチッタ川崎にて鑑賞。
予告編がとても面白そうだったので期待していたのだけど、描くべき物語に対して全体的に構成や描写の論点がズレている印象があって、コメディ面もドラマ面もすごくぼんやりしてしまっている作品だった。

「責任者の校長が倒れた!今年の子供向け演劇キャンプどうしよう!」というきっかけから始まる物語で、ガタガタな組織が山積みの問題を抱えたまま重要な局面を迎えてしまう、というプロット自体はドタバタコメディとしてよくある型の一つだと思う。リーダーを失ったことで経営的にも活動的にも実はギリギリだったキャンプがバランスを崩していくのだけど、まず「なんとかしようとすればするほど全然上手くいかない」という笑いの描写がめちゃめちゃ弱い。場面の構造的に「上手いことやろうとしたことが上手くいかない」か、もしくは「明らかに上手くいかなそうなことがなぜか上手く行ったりする」かで笑いが生まれる作品だと思うのだけど、そのどちらもあまりやらずに中途半端にキャンプの活動を紹介しながら散発的な各キャラクターの描写ばかりを掘り下げる。
映画全体がフェイクドキュメンタリ形式の語り口になっているのだけど、冒頭で活動紹介的にキャンプの流れを描いた割に全然メインになる子供たちの演劇の話に集約されない群像劇になっている。キャンプのラストに披露する劇は誰よりもこのキャンプを大切にしていたキャンプの経営責任者の自伝的ミュージカルなのだからこそガタガタの状況を乗り越えた先に「このキャンプだからこそこんな素晴らしい瞬間がある」というクライマックスを描きやすい設定だと思うのだけど、各キャラクターの行動が状況にだけ影響するばかりでドラマの描き込みが薄いのでが最後に劇を成功させるシーンにあまり響いてこないというのが惜しいバランスだった。

設定だけ与えられて物語に活きてこないキャラクターたち

倒れた校長の代わりにインフルエンサーしている頭悪そうな息子トロイがキャンプを仕切るという設定は色々ろくなことにならなそうでコメディの予感がするのだけど、いきなりスタッフを半分解雇したとかいう割にそれによって現場がすごい大変になったという描写もないし、彼が子供たちやスタッフから信用されていないという部分も全く物語に活かされない。こいつが現場を困らせたり状況を悪化させたりする描写はほぼなくて、ただただ寒いノリの若者として描かれているのが本当に寒いだけの描写になってしまっている。
能力のあるスタッフを加えようとして経歴詐称の女性を雇ってしまうという部分も、絶対彼女が適当な指導でメチャクチャするんだろうと思ったら上手くいってないのか、逆に上手くいっているのかよくわからない中途半端なレッスンシーンしか描かれない。
全体的にトロイが絡んでくる場面はどれも「キャンプに理解がないくせに下手に口出しするから色々大変になる」という描写が成立しきっていない。例えばミュージカルのオーディションのシーンでは好みの曲を歌う子供にだけノリノリになるのだけど、それがオーディションの結果に反映されないので単にその場限りの笑いどころにしかならない。そうやってコメディ描写が前後の繋がらない散発的な描写になると物語に厚みが生まれないので終盤のドラマの回収が総じて弱まってしまうのが描き方として非常に気になった。

調理が甘い各キャラクター

以前からキャンプに参加していた指導者や子供たちも、その人たちにとって「なんでこのキャンプに参加しているのか」という元々の動機が描かれないのでキャンプが変わってしまうことで彼らがどう変わっていくのかという部分にドラマが生まれない。
そもそもまずキャンプの何がどう変わったのかが描けていないので、彼らがキャンプの変化に振り回される構図が成立していないし、そうやって彼らがこの状況に対してどう感じているのかが描き切れていないことで最終的にキャンプに残るか、キャンプを離れるかという選択にも全然ドラマ的な厚みがない。
新作ミュージカルの作曲担当の女性や主演を演じるはずの女の子がキャンプを離脱する展開があるのだけど、それぞれそういう選択に至る過程にキャンプがこうなってしまったという状況が全然関わっていないので単に身勝手で筋の通らない行動にしか見えなくなっている。そこはせめて「私の好きだったシアターキャンプが変わってしまったのでもうここにはいられない」という流れにすれば一応物語上の必然は生まれると思うのだけど、やっぱりそこもそういう展開を作るための脚本の練り込みが弱い。
途中からキャストとして参加することになる大道具係の青年も、彼が一人で子供たちの劇を支え続ける背景にある演劇に対する感情の描写がないので、「代役はお前しかいない!」というところにも反映すべき彼なりの自己実現が欠落しているように思う。
キャラクターの処理の中途半端さは一時が万事そんな調子で、必要な描写がいちいち欠けているように感じた。そうなると終盤の「それでもやるんだよ!」的な展開にエモーションの高まりが生まれてこない。

引き出しきれていない設定の面白さ

過去の上手く行ってたキャンプと今回の上手く行っていない状況を対比が無い上に、「上手く行ってない」というコメディ描写も全然ハネてない。せっかく大人の事情に振り回される大人たちと、そういう大人に振り回される子供たちという美味しい設定があるのに全然笑いに活かされない。
このキャンプ自体は元々お金は無いけど工夫や人柄で上手くやっていた活動なのだからこそ関わる人たちのキャラも立たせやすいはずだし、逆にガタガタに崩しやすい設定でもあると思う。
そういう映画として持ってる材料を全然捌ききれていない作品で、全体として極めて不完全燃焼な印象を持った。

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