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アンドレア・アーノルド『Red Road』画質の良すぎる防犯カメラとその窃視的観察者

ジリアン・ベリー、ロネ・シェルフィグ、アナス・トマス・イェンセンが製作総指揮となり、彼らが考えた背景を持つ登場人物たちを脚本に使って異なる新人監督に長編を撮ってもらう三部作"アドバンス・パーティ"の第一編。白羽の矢が立ったのは短編『Wasp』でアカデミー短編映画賞を受賞したアンドレア・アーノルドだった。ちなみに、二作目はモラグ・マッキノン『Donkeys』で、三作目はMikkel Nørgaardが撮るはずが企画は凍結しているような状態らしい。製作総指揮の名前からも分かる通り、本作品はドグマ95の直接的な影響下で作られていることは想像に難くない。

主人公ジャッキーは街に設置された無数の監視カメラから市民の生活を眺めているという神のような視点を持ちつつ、その画質/設置場所/死角などで目線に制約があるし、無論陸続きで生身の人間がそこへ侵入することは出来ない。人間を神にもし得る視点を与えながら、人間であることを示すこれらの設定は興味深い。しかし、やはり手法ありきのドグマ映画にありがちな"策士策に溺れる"という状態に陥っているとも言える。優先すべきはその隔たりがもたらすある種の冷酷さを冷静に導入することだと思うが、ドグマ95やケン・ローチのような荒々しいハンディを使うことで"リアリティ"を先引き出そうとしているのは一旦冷静になって考えて欲しかった。勿論、永遠とモニターの向こう側にいられるはずもなく、テーマに併せて下界へ降りてきて、ズタボロかつ人間関係をわざと希薄にしているであろうジャッキーの心に迫っていく。人と人との関係を画面越しに眺めるが、自分はそこに換算されないという、典型的な観察者の視点も持ちながら、敢えて自分から飛び込むことでカメラ越しに見た人間関係を再現しようとする。それがセックスシーンの反復に繋がってくる。

犯人に触れ合うことで再生する絆という意味ではデヴィッド・ロバート・ミッチェル『ラビット・ホール』を思い出すが、その繊細さと静けさは同作の方が数段上手い。犬やインコの使い方も中々。少し長いのが難点。

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・作品データ

原題:Red Road
上映時間:113分
監督:Andrea Arnold
公開:2006年10月27日(イギリス)

・評価:60点

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