イリヤ・アヴェルバフ『Monologue』ソ連、あなたは幸せだったことはありますか?
大傑作。1973年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。ソ連のお家芸である"おじさんと若い娘"シリーズの一本。しかも、今回は"若い娘"が二人もいる。今回の主人公は老齢に差し掛かった科学者スレテンスキー教授である。大昔に教え子と結婚して数年で離婚し、そのまま独り身で暮らしてきた偏屈老人で、今は"明日にでも辞めてやりますよ"が口癖のメイドと二人で喧嘩しながら毎日を過ごしている。ある日突然成長した娘ターシャが"入試勉強のために来たから世話になりまーす!"と乗り込んできて再び家族との繋がりを取り戻した…と思いきや、すぐに数年が経って、バツイチになっていた娘は幼子を主人公に託して出ていき…と思ったら、次のシーンでは孫娘ニーナは高校生くらいまで成長していて…という爆速っぷりに驚かされる。ポーランドにいる同僚からお土産でもらうブリキ兵隊人形の数で時間経過を示しているのだが、一体→一個小隊→一個連隊くらい規模がデカくなってて、意味をなしているのかすら分からないのが笑えた。しかし、娘や孫娘の背景をバッサリと切り捨て、常に結果だけが襲ってくるのは、彼女たちと暮らしながら向き合うのを拒んだ主人公の生き方そのもののようで、映画として印象は良い。常に手遅れな主人公の印象は悪いが。
主人公は業界では有名な生化学者で、それが示唆される場面は幾度なく登場するが、人間関係の機微には疎く、その点に関しては高名な教授も打つ手がない。冒頭で娘に訊かれた同じ質問を孫娘にもされたり(そして全く同じ答えを返す)、夜遅く帰ってきた娘と孫娘に全く同じ反応をしたり、全く成長してないし全然対応できてない。教授は"人を幸せにするため"に生化学を追求しているが、果たしてそれだけで幸せになれるのだろうか?そういうときの"人"とは誰を指しているのか?という、理系出身者が騙し騙し脇に追いやっている疑問を正面に突きつける。国家として科学の研究に人材を投入していたソ連らしい問いでもある。クヨクヨしているタイミングで、"おじいちゃんの顔なんて見たくない!"と孫娘にキレられた結果、波打ち際で体育座りしてたとこは、あまりにもキレイな反省ムーヴで爆笑した。
ターシャを演じるのはタルコフスキー『鏡』で有名なマルガリータ・テレホワが演じている。デビュー作『Hello, It's Me!』でも"おじさんと若い娘"シリーズの準主人公を演じていたことを思い出した。
・作品データ
原題:Монолог
上映時間:94分
監督:Ilya Averbakh
製作:1972年(ソ連)
・評価:90点
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