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レイチェル・ゴールデンバーグ『Unpregnant』"Never Rarely Sometimes Always" in ミズーリ

敬虔なカトリックの両親に知られることなく中絶手術を受けるため、幼少期の親友と共にミズーリ州からアルバカーキまで(作中の検索結果だと片道14時間ちょっと)向かうロードムービー。誤解を恐れずに一言でまとめると、ポップなNever Rarely Sometimes Alwaysである。同作との相違点は色々あるが、やはり最も大きな違いは本作品が彼女たちの決断と旅路を努めて明るく描いていることだろう。暗くふさぎ込む必要なんかない!というメッセージの裏返しでもあるのだが、それは主人公ヴェロニカの元親友ベイリーの存在が大きい。ヴェロニカも道中でインスタの更新をするなど、日常と同じことをする自己暗示で多少の余裕を作り出そうとしているのだが、ベイリーはそれ以上にヴェロニカとの失われた時間を埋めるかのように底抜けな明るさを振りまく。テイストは『ブックスマート』にも似ているし、その姿勢は『50/50』のセス・ローゲンを思い出す(彼女は素っぽいけど)。ちなみに、『ブックスマート』を引き合いに出したのは、ベイリーがレズビアンであることをカムアウトする場面が含まれているからというのもある。

また、『Never Rarely Sometimes Always』では妊娠させた相手の男が全く登場しなかったのだが、本作品では"妊娠を知って突き放す"クリシェを超えさせる形で恋人が登場する。恋人ケヴィンはコンドームが破れていたことを知りながらヴェロニカには隠し、彼女が妊娠を発表したタイミングで結婚を申し込んだのだ。本人的には完璧すぎる人生設計の入り口だったのかもしれないが、ヴェロニカとしてはあまりに独り善がりすぎる彼の行動にブチギレる。改心したかのように見えても根本は変わらず自分本位であり続けるケヴィンの行動は、『Never Rarely..』では描かれなかった男性の加虐性だ。

本作品の素晴らしいところは、中絶自体を秘匿すべきこととして描かないことだろう。当初は秘匿すべくアルバカーキまで向かっていたのだが、旅の過程で出会った人々やベイリーとの交流を経て、自分を偽ることの無意味さを理解し、ケヴィンのくだらない脅しにも屈しない姿勢は、どうしても比べてしまう『Never Rarely...』では描かれなかった視点だ。ただ、メッセージや設定が重要で素晴らしい分、展開の味気なさや雑さが少々気になるのもまた事実である。やりたいことを詰め込みすぎた感じがしてちょっと残念。

監督は今年『Valley Girl』も公開している。忙しい監督ですね。

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・作品データ

原題:Unpregnant
上映時間:103分
監督:Rachel Goldenberg
製作:2020年(アメリカ)

・評価:70点

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