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クロエ・ジャオ『ノマドランド』See You Down the Road

最後の"さよなら"がない、またどこかで会えるんだ。という一言に集約される、ノマドの生き様の記録。車に乗ってあちらこちらを移動しながら、移動先で様々な出会いを得ながら、生活に必要なお金を稼ぎながら、どこにもいたくないから放浪を続ける。でも家族から見放されたり本質的に帰る場所がないわけじゃないので"ホームレス"とも違う、選択的な"ハウスレス"を自称する。amazonの出荷工場、国立公園の清掃など、極めて重要だが顧みられない短期の仕事に就いて、明日死ぬかもしれない環境で生活し続けることに直接的な言及はせず、星空や岩山を含めた雄大な自然を感じる景色(元自宅の裏庭から見えた砂漠とリンク)、基本的に優しい同業者との出会いなど"綺麗な"思い出で埋め尽くされている。エモさ全振りの思い出の合間には、ホンモノのノマドたちが己の人生について、将来について、不安や希望をぶち撒けるのだが、確かにそれらが相互作用してエモーショナルな雰囲気にはなりはすれど、ちょっとあざとすぎて胃もたれする。シネフィル好みなイメージ動画集におセンチな音楽ベタ塗りして、ノマドのインタビューを足したみたいな作品だった。ノマド勧誘映画じゃないんだから、感動の安売りみたいなのすんなよ…

『Songs My Brother Taught Me』の時も"今のテレンス・マリックが『天国の日々』を撮り直したらこうなる"って言った気がするが、本作品もそんな感じだった。"どこにもいたくないから放浪する"というテーマからすると本作品のほうが『天国の日々』に近いかも知れない。

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・作品データ

原題:Nomadland
上映時間:108分
監督:Chloe Zhao
製作:2020年(アメリカ)

・評価:50点

・ヴェネツィア国際映画祭2020 コンペ選出作品

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★ クロエ・ジャオ『ノマドランド』See You Down the Road

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