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ブリュノ・デュモン『アウトサイド・サタン』善悪の狭間にあるデュモンの"奇跡"

大傑作。基本的には浮浪者みたいなおじさんと少女が砂丘をウロウロするだけの映画だが、ドライヤー『奇跡』を丁寧に解体していく手腕には感動を覚える。浮浪者風の男は名前すら分からないし、彼と少女との関係性も全く分からない。分かるのは彼が少女からの愛情を拒絶していること、そして少女に危害を加えた人物を男が"処分"していくことだ。いかにもキリスト的なイメージを纏った聖浮浪者が、ある一面で悪魔的な表情を持ち、男女問わず暴力を辞さないという二面性があるのだ。彼らが進む砂丘という荒野、そして手を重ねて祈りを捧げる日の出などの美しい聖なる自然を前にすると、それら伝統的な善悪の概念が無意味になるのかもしれない(さすが元哲学教師)。或いは、自然そのものが善か悪かという問いかけになっているのかもしれない。その問いかけはあまりにも静かで、平穏な日常からこぼれ落ちるよう姿を表す。そして、問いかけと受け止めを行う人物たちも、まるで概念が血肉を得て具現化したかのような剥き出しの生々しさがあり、物語性を放棄した映画と相まって、生の感情がそのままぶつかってくるグロテスクさがある。キスで行う悪魔祓いなんか特に強烈。

溜池の細い境目を渡りきれば願いが叶うというシーンがあって、これは完全に『ノスタルジア』を思い出した。田舎、砂丘、静寂、殺人事件、ということで完全に『プティ・カンカン』の原型みたいな作品だが、他の作品にも砂丘は頻出しているので多分好きなんだと思う。

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・作品データ

原題:Outside Satan / Hors Satan
上映時間:110分
監督:Bruno Dumont
製作:2011年(フランス)

・評価:90点

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