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ヘレナ・ヴィットマン『Human Flowers of Flesh』"美しき仕事"と交わる時間旅行

大傑作。ヘレナ・ヴィットマン(Helena Wittmann)長編二作目。イダは世界中から集まった5人の乗組員たちと共にヨットで生活している(その点で本作品はウルリケ・オッティンガー『Madame X』に似ているらしい)。そんな彼女は、マルセイユで停泊中に出会った、海岸で狂った訓練をする仏外人部隊の兵士に魅了され、その痕跡を追って地中海を横断する決断を下す。前作『Drift』はマイケル・スノウを志向した波の反復映画だったが、今回はそこに人間の動作や身体を言語と映像によって加えることによって、クレール・ドゥニ的な要素も加わっていく。というか、より直接的に言うと、仏外人部隊ということも含めて『美しき仕事』を思い出す。そして実際に本作品の終盤で、同作にも登場したドニ・ラヴァンが、同作と同じ役名"ガルー"として登場するのだ。それはまるで『美しき仕事』の終盤で仕事を辞めて以降のガルーの物語と交わるかのようでもあり、或いは作品そのものが『美しき仕事』と並走しているかのようでもある。しかし、なんもない砂漠で延々と訓練を繰り返していた同作に比べると、本作品の主な舞台は海であり、海を漂うことと時間的な漂流を絡め、必ずしも線形/因果的でない時間軸を構成している。鬱蒼とした森、海底に沈んで朽ちた戦闘機、戦時中の写真や古い絵葉書、皿や壁を這うカタツムリといった、人間(或いは身体)の時間ではない、それを越えた果てしなく長い時間を感じさせるモチーフやロケーションが多く登場する。そして、まるで時間が逆行したかのように、降り立った仏外人部隊の旧本部シディ・ベル・アベスで、ガルーと出会う。OPクレジットには出てきたけど、ドニ・ラヴァンが振り返った瞬間は息が止まりかけた。

ちなみに、『美しき仕事』ではミシェル・シュボールがブリュノ・フォレスティエという年老いた軍人を演じているが、これはジャン=リュック・ゴダール『小さな兵隊』でシュボールが演じている役と同じ名前らしい。つまり、クレール・ドゥニも『美しき仕事』で似たようなことをしていたというのだ。これに気付くファンって凄すぎるだろ。

・作品データ

原題:Human Flowers of Flesh
上映時間:106分
監督:Helena Wittmann
製作:2022年(フランス, ドイツ)

・評価:90点

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