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ヘレナ・ヴィットマン『Drift』静と動、明と暗、心地よいリズム

ヘレナ・ヴィットマンはドイツ生まれの映画監督で、短編映画やドキュメンタリーを何本か撮った後、本作品で長編映画デビューとなった。アンゲラ・シャーネレクの門下生であるらしく、彼女の映画の特徴である固定カメラ長回しを継承している。一瞬シャーネレク本人の映画かと疑ってしまうくらいそっくりな画面造りに感心してしまった。

北海沿いのホテルを訪れた二人の女性(ヨゼフィーナとテレサ)を巡る話ではあるのだが、基本的には名前すら与えられていない(↑は役者の名前)彼女たちが主人公というよりも、神の目線である固定カメラが主人公であると言った方が正しそうだ。カメラは一切動かないのに、映像や音の"静と動"及び"明と暗"が交互に配置される対比構造を取っており、それが奇妙なリズムを成していて視覚的にも聴覚的にも心地よい。そして、海岸をありえんロングショットで掬い取って高低と奥行きを作り出すショットが印象深い。

ヨゼフィーナは一旦アルゼンチンの実家に帰り、テレサは北海を放浪する。題名の"Drift"は彼女の放浪の旅を示していたのだ。自転車の横移動や車のバックシートなどで動かないカメラが入れ物ごと動くことで動きを見せ始め、船の上で揺れる地平線と動かない女性のショットを窓越しに反射させるショットで対比項を一画面に共存させ、映像の美しさが圧倒的に上昇する。恐らく船にカメラを固定しているのだろう、船が揺れると画面も揺れて、海と空の比率が変わり、映る並の動きとカメラの動きがシンクロする。この動きもドリフトという意味を含んでいるのだろうか。

ただ、主張や実験性がどこかにあるとは云え、海ばかり撮っているので少々飽きてくるのは正しい感情だと思う。海ばかりのシーンに10分くらい消費し始めたあたりでは画面の動きに真新しいものがなくなってしまい、非常に退屈だった。船も恐らくはテレサの乗っている船なんだろうけど、別にそうでなくてもいいし、それで合ってるのかもしれない。カメラが主人公という考えは当たっていたようだ。

繊細な色彩と人間に溢れていたシャーネレクの作品から自分なりにエッセンスを抽出したのかもしれないが、私はシャーネレクの圧勝のように思える。特に私の大好きな『私の緩やかな人生』は門下生ですら絶対に超えられない壁なのかもしれない。

ラストは唐突のBGMにマイケル・スノウ『波長』のオマージュを重ねて終わる。これは蛇足だなぁ…一応ベストは静かで暗い夜のプールの幻想的なシーン。このシーンは本当に美しく忘れ難い。それ以外は…海って感じっすね。

・作品データ

原題:Drift
上映時間:98分
監督:Helena Wittman
公開:2017年9月7日(ヴェネツィア国際映画祭)

・評価:57点

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